back numberと清水依与吏、異色の“対バン”で示したそれぞれのアイデンティティ 『anti sleeps tour 2024』を振り返る

 そしてback numberのステージへ。シンセストリングスで「高嶺の花子さん」の旋律が奏でられるなか、メンバーの清水依与吏(Vo/Gt)、小島和也(Ba/Cho)、栗原寿(Dr)に加えてサポートメンバーの村田昭(key)、藤田顕(Gt)、矢澤壮太(Gt&Cho)が登場。「行くぞ!」という清水のシャウトに導かれた「高嶺の花子さん」からライブは幕を開けた。さらに爆発的なバンドグルーヴと濃密なボーカルが絡み合う「大不正解」、〈どんな言葉が 願いが 景色が〉からはじまるサビのフレーズが会場全体を包み込んだ「アイラブユー」とback numberを代表する楽曲を続けざまに披露。オープニングから“今の自分たちのベストをぶつける”という気合いがダイレクトに伝わってきた。

「さっき清水依与吏っていうシンガーソングライターが出て。50分だっていってるのに1時間やりまして……ムズいな、MC(笑)。生きてりゃいろんなことがあると思うんで、それを忘れるとはいかないまでも、ちょっとだけ背中を撫でたりとかできたらいいなと。1曲1曲一生懸命やるので、よろしくおねがいします」

 心のこもった挨拶の後も、バンドのキャリアを象徴するような楽曲が次々と放たれた。まずは、あまりにも美しいラインを描き出すメロディが心に残る「光の街」。〈君は知っているだろうか/こんなにも救われている僕を〉というフレーズは、オーディエンスに向けられた真摯な思いそのものだ。さらにイントロが鳴った瞬間に客席から「おお!」という声が上がった「HAPPY BIRTHDAY」、〈揺れ出した光の言う通り/君の笑顔が多い方へ〉というフレーズが眩しいサマーソング「楽園の地図」(シングル『新しい恋人達へ』カップリング曲)によって心地よい一体感を生み出してみせた。

栗原 寿
小島和也

 ライブ前半のハイライトはやはり「水平線」。ギターと歌による清水の前奏ーー最悪の出来事の先にあった幸せを歌ったーーからはじまったこの曲は周知の通り、コロナの影響で中止になったインターハイの運営を担当していた高校生たちの手紙がきっかけで書かれた。自分ではどうにもできない理不尽にぶち当たり、希望を見失ってたとしても“その先”はある。そんなメッセージを刻んだこの曲は4年の月日が経過した今、さらに強い意志をまとい、back numberのもっとも重要な曲の一つになった。ひとつひとつのフレーズを丁寧に、力強く映し出すパフォーマンスを観て、そのことを改めて実感した。

「今日は清水さんと初対バンということで。お得だなって(笑)。なかなかバンドでやれてない曲も聴けて」(小島)

「俺ってback numberの曲が好きなんだなって改めて思いました。でもバンドもいいでしょ?」(栗原)

 というトークの後は、「最深部」「ロンリネス」と鋭利かつアグレッシブなロックチューンが炸裂。「サビ知ってたら一緒に歌ってください」(清水)という言葉によって観客のシンガロングが発生した「花束」では切なくも愛らしいムードを生み出し、「ハッピーエンド」は今まさに失恋を経験している女性の哀切な感情をリアルに表現。感情の振れ幅がすさまじいが、心と身体を大きく揺さぶられるこの感覚こそがback numberのライブの醍醐味だ。ダイナミズムと豊かな表現力を共存させた演奏も素晴らしい。サウンドの軸である清水、小島、栗原のアンサンブルもさらに精度を増していた。

 新曲「新しい恋人達に」を演奏する前に、清水はこんな話をした。

「自分自身に価値があるのではなく、作ってきた楽曲たちにこれまで出会ってきた人たちの価値が宿っていると思っている。その人たちの価値を落としてしまうことは絶対にありえないし、こうやって会場に足を運んできてくれるあなたが“認めてもらってない”と思いながら生きているとしたら、“しんどいと思ってたけど、1人じゃないんだ”と思えるようにしたい。そのためには愛を歌うことから逃げちゃいけないと思っているーー」

 「新しい恋人達に」は父性をテーマに制作された楽曲だが、自分の人生に確信を持てず、足掻きながら日々を送るすべての人に向けられた普遍的な曲として幅広いリスナーを惹きつけている。〈誰の人生だ〉というリフレインがもたらす圧倒的な感動は、今回の対バンツアーの最大のハイライトだと言っていいだろう。

 ラテンのテイストを交えたバンドグルーヴが心地いい「怪盗」、バンド最大のライブアンセムの一つ「スーパースターになったら」で会場のテンションは一気にピークへ。最後は、清水、小島、栗原の3人でクリープハイプの「バンド」をカバー(トリビュートアルバム『もしも生まれ変わったならそっとこんな声になって』収録)。バンドとは何か? という本質的なテーマを射抜くこの曲もまた、このツアーの大きなポイントだったと思う。

 終演後、清水は「“あなたが近くに感じる”という意味で、もっとがんばっていくので。これからもよろしくお願いします」と語った。アリーナでの対バンツアーはback number(そしてゲストバンドにも)大きな刺激を与えたはず。このなかで生まれたケミストリーがどんな作品につながっていくのか、それが楽しみでしょうがない。

<セットリスト>
清水依与吏ソロ
1.恋
2.東京の夕焼け
3.助演女優症
4.君はいらないだろうな
5.日曜日
6.ささえる人の歌
7.ベルベットの詩
8.チェックのワンピース

back number
1高嶺の花子さん
2大不正解
3アイラブユー
4光の街
5HAPPY BIRTHDY
6楽園の地図
7水平線
8最深部
9ロンリネス
10花束
11ハッピーエンド
12新しい恋人達に
13怪盗
14スーパースターになったら
15バンド

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