森山良子×大江千里、双方の人生が深く刻まれた珠玉の一枚 “日本”のジャズアルバムができるまで
「とにかく発想が豊かで、一曲に対して色々なアレンジを思いつく」(森山)
ーー「NADA SOUSOU」はラテンフレーバーが散りばめられて、斬新なジャズアレンジになっていてスキャットも新鮮でした。
森山:実はラテンというものを今までそんなに歌ったことがなかったので、最初はリズムの取り方が難しくて、純子先生と椅子に座って膝を叩きながら練習しました。多くの方に愛されている曲なので、原曲の雰囲気をなるべく損なわないようにと千里さんが配慮してくれました。
ーーオリジナルに感じるせつなさ、郷愁感はラテンアレンジの中にも感じました。
大江:最初のアイデアはもっとテンポが速くてホーンを入れてもいいかなと思ったのですが、プロデューサーから「それはダメよ」って。それで例えばクリス・レアのクリスマスソングのような少しラテンフレーバーが入ったくらいの、スローラテンでやってみようと思いました。それで良子さんにボツにしたアレンジも後で聴いてもらったら「こっちもいいじゃん!それもやりたい」って(笑)。
森山:もうとにかく発想が豊かで、一曲に対して色々なアレンジを思いつくのでそれがすごいなと思いました。今まではできることをさらに高めるという気持ちで歌ってきて、でも今回はこの曲を含めて、初めてのことを受け止めて、自分の中で何とか消化しようと考えていくことがとても楽しかった。頭と心が柔軟じゃなければ面白いことはできないって痛感しました。同じカバーでいうと千里さんの「Gloria」も歌わせていただきました。
ーー千里さんの数々の名曲の中からなぜ「Gloria」だったのでしょうか?
森山:私の「涙そうそう」をやってみようって千里さん言ってくださって、どんなふうになるんだろうって思ったときに、千里さんの曲もやりたいなって思って。そうしたら「Gloria」というとてつもなく難しい曲を提案してくれました(笑)。
大江:実は、森山さんの娘さんの奈歩さんからの推薦があったんです(笑)。
森山:そうだったんですか! 知らなかったです(笑)。
大江:奈歩さんは僕の曲を昔から聴いてくれていて、それで「Gloria」を提案してくれるということは、彼女の別のアングルからの良子さんと僕を見た、プロデューサーとしての目線も僕は感じて。
ーー陰に名プロデューサーが存在していたんですね。
大江:そうなんです。色々とアレンジを考えて、ピアノと声のデュオでいこうと。この曲のレコーディングが終わってから、内緒でニューヨークのジャパニーズアメリカのジャズシンガーに聴かせてリアクションを確かめたら〈ほら 幸せがはじまっている〉の「ほ~ら」が1オクターブ飛んだときに、「ワーッ、ピッチパーフェクト!」ってなって。
森山:本当に(笑)?
大江:そのリアクションを見たときに、やったーって。
森山:やってよかった!
大江:良子さんはなんでも面白がることができるというか、結構打たれ強いというか(笑)。レッスンの先生もエキサイトするところもあったけど、そういう時も大御所なのにプライドや勉強の邪魔になるものは全部捨てて、ひたむきにジャズと向き合っていました。
ーー1曲目の「MORIYAMA」は良子さんの自己紹介ソングになっています。
大江:僕が曲を作り始めた頃、良子さんとお話をしている中で、「私のお客さんは本当に私のコンサートを楽しみにして、エネルギーを持って帰って、それぞれの人生の中でもっとチャレンジしよう、頑張ろうって思ってくださる方が多い」ということを聞きました。さらに「だから私ね、ジャズで難しいことをやろうっていうのではなく、こんなにみんなで一緒に楽しめる音楽なんだということを伝えたい」ということを聞いてハッとしました。
ーー色々あっても軽やかに生きているアーティスト・森山良子の姿がこの曲にはあります。
大江:ずっとこのアルバムの入口で、ライブでみんなで歌ったり口ずさんだりできる曲を入れたいって思っていました。でも薄っぺらくなくて、人生に深く刺さる言葉が存在しながらも、軽やかで、ウィットが効いていて、ジャズって嬉しい涙と悲しい涙の曲、両方あるじゃないですか、その両方が見えるものを作ることができたらと思いました。〈私は MORIYAMA RYOKO 世界にひとりのRYOKO><ジャズを探すの遅すぎるの? I Don‘t Think So〉って歌う。“お父さんがジャズトランぺッター”、世界中で私だけ、一つだけのチャンスがあるの”って歌ったら、ジャズのオーソリティも、そうじゃない人も、みんな一瞬ハッピーな顔になるんじゃないかなと思って。やっぱリアリティを歌って欲しいなって。
森山:発想が最高に面白くて(笑)。
大江:日本のバーブラ・ストライザンドのジャズアルバムを作るっていったら、腕利きのミュージシャン達が集まってくれて、そのミュージシャンに“RYOKO”ってコーラスもやってもらいました。
ーー良子さんのアイデンティティ、人柄が詰まっている歌詞で、ラストに〈世界にひとつだけの自分だけの“JAZZ”〉と宣言しているところがグッときました。このアルバムは表題曲の「Life Is Beautiful」も含めて、人生は辛いことや苦しいこともあるけど、前向きな気持ちにさせてくれるアルバムで、良子さんの人生のストーリーをなぞりながら千里さんのポジティブなメッセージとメロディ、良子さんの歌と一つひとつの音が心に響いてきます。
大江:言葉も音符も引きの美学というか、そのスペースの中で集まったミュージシャンと音のキャッチボールをするときに、速球ではなくて緩やかなボールでのやり取りかつ、テイクを重ねないようにそこに生まれる空間を一緒に楽しむことを心がけました。とはいえ、ジャズって1日で9曲録るんです(笑)。集中的なセッションで作り上げて、スタジオのいくつかのスペースをまたいでの作業なので、ジャズの現場なのに汗だくになって、力が入っている様子が「Life Is Beautiful」のMVで垣間見ることができます(笑)。
森山:でもアルバムは最初から最後まで極めて軽やかな感じになっています(笑)。
大江:よかったです。
ーー良子さんは来年の1月で58周年を迎えますが、このタイミングでエネルギーを充電するというか、新しい扉を開くというか、作る意義、意味が大きなアルバムだと思いました。
森山:大きいですね。もうコンサートでもニューヨークで勉強した声の出し方で歌ったり、色々な工夫をしていると、声帯への負担が軽減されているのも実感できているし、もうちょっと歌えるかも、という気持ちになりました。
ーー良子さんの人生を映したジャズアルバムですが、千里さんがジャズピアニストを目指して2007年に47歳で渡米してからの人生と、手にした音もストーリーとして流れている、二人の物語のような作品になっている気がします。
大江:良子さんが3回目にニューヨークに来た時に、僕の愛犬が亡くなって。一緒にアメリカに来て、会社を興した時もどこへ行くのも一緒だったパートナーなので、この子がもし亡くなったらもうジャズを辞めてもいいんじゃないかって思っていました。
森山:そうだったんですか……。一番辛い時期だったんですね。
大江:もうやることやったから、僕ももう自分の人生はいいんだと思い始めていました。でもこの『Life Is Beautiful』だけは全身全霊で取り組みました。
ーーこの作品は千里さんにとっても再生の物語の一部になっているんですね。
大江:受け皿になってくれたのかもしれません。良子さんには「この歌詞はぴちゃん(愛犬)のことよねって、大事に歌うわ」っておっしゃっていただいて……。奇しくも「Gloria」の歌詞の中には、人生まだまだこれからだけど、ちょっと達観したようなことを言ってみる主人公がいて、巡り巡って〈ほら 幸せがはじまっている〉という世界があって。このアルバムを作って、今こういう話をしていて僕自身元気になっているし、創作意欲がどんどん湧いてきました。
ーー来年1月11日には長崎(アルカスSASEBO大ホール)でこのアルバムを初披露するライブを行ないます(1月16日東京・ブルーノート東京でも開催)。
大江:『Life is Beautiful』というタイトル、言葉の意味、そしてメッセージを良子さんの声とこのノリから感じ取って欲しいです。良子さんとこのアルバムを真っ白な画用紙のような気持ちでお客さんの前で広げて、それぞれの人生、色を重ねて歌を広げていってほしいです。
■CD情報
アルバム『Life is Beautiful』CD
発売日:2024年12月18日(水)
品番;MHCL-3117
価格:¥3,300(税込)
発売元:ソニー·ミュージックレーベルズ レガシープラス
<収録曲>
1 MORIYAMA 作詞·作曲·編曲:大江千里
2 LOST AND FOUND 作詞·作曲·編曲:大江千里
3 Oshaberi Bossa Nova 作詞·作曲·編曲:大江千里
4 Futari Dakeno Togetherness 作詞·作曲·編曲:大江千里
5 TONIGHT'S SPECIAL 作詞·作曲·編曲:大江千里
6 Life Is Beautiful 作詞·作曲·編曲:大江千里 *先行デジタル·シングル
7 Gloria 作詞·作曲·編曲:大江千里
8 NADA SOUSOU 作詞:森山良子 作曲:BEGIN 編曲:大江千里
9 Soramimi Datte 作詞·作曲·編曲:大江千里
<予約特典>
■Sony Music Shop ··· L版ブロマイド
■楽天ブックス ··· アクリルキーホルダー
■セブンネットショッピング ··· トート型エコバッグ
■Amazon.co.jp ··· メガジャケ
※いずれも先着特典となりますので無くなり次第終了となります。
CDのご購入はこちら:https://RyokoMoriyama.lnk.to/LifeIsBeautiful
■リリース情報
アルバム『Life is Beautiful』LP
発売日:2024年1月22日
品番;MHJL-409
価格:¥4,730(税込)
発売元:ソニー·ミュージックレーベルズ レガシープラス
<収録曲>
Side-A
1 MORIYAMA 作詞·作曲·編曲:大江千里
2 LOST AND FOUND 作詞·作曲·編曲:大江千里
3 Oshaberi Bossa Nova 作詞·作曲·編曲:大江千里
4 TONIGHT'S SPECIAL 作詞·作曲·編曲:大江千里
Side-B
1 Life Is Beautiful 作詞·作曲·編曲:大江千里 *先行デジタル·シングル
2 Futari Dakeno Togetherness 作詞·作曲·編曲:大江千里
3 Gloria 作詞·作曲·編曲:大江千里
4 NADA SOUSOU 作詞:森山良子 作曲:BEGIN 編曲:大江千里
5 Soramimi Datte 作詞·作曲·編曲:大江千里
特設サイトはこちら:https://www.110107.com/s/oto/page/Moriyamajazz2024
■ライブ情報
『森山良子 with SENRI OE TRIO 』
森山良子と大江千里トリオのライブが決定
2025年1 月11日(土)
アルカスSASEBO大ホール(長崎)
open 14:00 / start 15:00
https://www.arkas.or.jp/?a10=a10_53056
2025年1月16日
ブルーノート東京
[1st] open 17:00 / start 18:00
[2nd] open 19:45 / start 20:30
https://www.bluenote.co.jp/jp/artists/ryoko-moriyama/