アルステイク、大胆不敵な力強さでライブハウスを支配 『唸れツアー』地元・岡山公演に刻んだ生き様
「岡山、アルステイク、ライブ始めます」
11月24日、岡山CRAZYMAMA KINGDOM、『アルステイクpre.“唸れツアー初日編”ワンマン』のライブは、そんな言葉から始まった。キャパシティ600人ほどのライブハウスで、岡山のライブハウスとしては大型の部類のフロア。イベントによっては集客に苦戦することもあるこのライブハウスはこの日、アルステイクのことを待ち望んでいるオーディエンスでパンパンだった。
アルステイクのライブと言えば、観客も血気盛んで早々にモッシュやダイブが炸裂することだって珍しくない。しかしこの日のライブは、ひだかよしあき(Vo/Gt)がセンチメンタルなギターのアルペジオを弾く流れでスタートし、エモい空気感を引き連れたまま最初に「5F」を披露。印象深いギターのフレーズと、のん(Ba/Cho)の優しいベース、あむ(Dr/Cho)の柔らかいタッチのビートメイクでアンサンブルを奏でる。会場全体をアルステイクの音で満たすと、ひだかが出力を上げて言葉にダイレクトなエネルギーを込め、間髪入れずに「生きている」を披露。爆音に呼応して、オーディエンスもさらに活気づくのだった。そこからは「一閃を越え」「アイプチ」と、アルステイクのキラーチューンを立て続けに披露する流れ。力配分なんて存在しないと言わんばかりに、アッパーな楽曲を惜しみなく披露する。あちらこちらでエネルギーの爆発が勃発する痛快さがあった。
岡山CRAZYMAMA KINGDOMは、壁などに「ジャンプ禁止」「モッシュ禁止」といった掲示が貼られている。ひだかは楽曲の途中で、この掲示にも触れながら「横にジャンプ、モッシュ、ダイブ禁止って書いてるけど、さっきKINGDOMの店長に確認したら、もう好きにやっていいよって」と公言し、本当の意味で自由に楽しんでいいことを会場に告げる。当然、オーディエンスはさらに大盛り上がり。それにしても、「ただやりたいように好きにやる」んじゃなくて、関係のある店長ときちんと言葉を交わした上で「自由にやっていいよ」と公言するあたりに、アルステイクの「らしさ」が漂っている印象を受けた。
そういうある種の気遣いの姿勢は、ライブ中に繰り出される言葉の中にも投影されていたように思う。ライブ中、ひだかは「自由に楽しんでいい」と、事あるごとに口にした。ダイブを肯定する、後ろの方でライブを観ることを肯定する、心の中に弱さやネガティブな感情を宿すことを肯定する。決して誰かを置いていくということはしない。そういう姿勢がアルステイクの言葉にも行動にもずっとあったように思う。それは、アルステイクに「誰にとってもライブハウスという場所はマイナスな感情をひっくり返せる場所にしたい」という強い思いがあったからのように感じたし、ゆえに、楽曲の中で繰り出される言葉の一つひとつが、全身でパフォーマンスをする3人の姿が、鳴っている音が、どこまでも胸に突き刺さるのだった。
アルステイクは不思議な魅力に満ちたバンドである。どこまでいっても飾らない空気感があって、バンドとしては激しさが先行するものの、単に“激しい”だけじゃない空気感を持っている稀有なバンド。シャツにズボンというラフな格好でライブをしているから、等身大な部分が見えやすいのかもしれない。3ピースバンドであり、メンバー全員が常にパフォーマンス中躍動して、とにかくステージ上で“動ける限り動く”生き様を見せる部分もそういうものを感じさせるのかもしれない。でも、仮に似たようなパフォーマンスをするバンドがいたとしても、アルステイクの“それ”は、また違う飾らなさを感じさせてくれるのだ。そう感じる理由の根源は、ライブを通じたその場にいる人への向き合い方に表れているのかもしれない。
自分がライブを観ていて「このバンド、いいな」という深みを感じるのは、ひたすらにかっこいいときよりも、実はある種の怯えが見え隠れする瞬間だったりするのだが、この日のアルステイクはその塩梅が絶妙だった。出てくるまでは緊張していたと口にしていたし、泥臭い人間の空気がライブ全編でも香っていたように思う。
ただ、誤解してほしくないのは、アルステイクは“弱さを見せるバンド”というわけではないこと。むしろ、逆だ。アルステイクのライブはある種の怯えも確かに調味料くらい、うっすら入っているように思う。でもそれを圧倒的に凌駕する大胆不敵な力強さがある。少なくとも、バンドになったときの迫力は痛快すぎるのだ。この怯えとかっこよさのバランスが絶妙だからこそ、圧倒的な興奮と感動と、そして言葉の一つひとつが刺さるリアルさがライブハウスの中に顕現し続けることになる。