葛谷葉子、25周年迎えた今だからこそ歌いたいメロディ 最高傑作を自負する『DRAMATIC』が完成するまで

『DRAMATIC』は今の自分にとって最高のアルバム

葛谷葉子「Dramatic」Lyric Video

ーーアレンジに対するスタンスはどうですか? 「Dramatic」は鮮やかなシンセサウンドが印象的でしたが、メロディを作っている段階からこういう音像をイメージしていたんですか?

葛谷:そこまでははっきりしてなかったんですが、デモは自分で作るので、私なりに「こういう曲にしたい」というイメージをアレンジャーの方にお渡ししています。「Dramatic」のアレンジは、前作にも参加してくださった宮野弦士さん。宮野さんにお願いするときはいつもそうなんですが、私のデモをイメージを広げる感じで作ってくださるんですよ。私が思い描いていたよりも80年代色が強いサウンドだったんですけど、宮野さんは「この方向性で」という確信みたいなものがあったみたいで。プロデューサーの方も「すごくいい」と仰っていたし、信頼のおける二人が言ってるんだから……という感じで作っていきました。

ーー「I'm Glad I'm Me」はMANABOONさんがアレンジを担当。キックとベースがしっかり効いていて、ダンサブルな要素もありますね。

葛谷:この曲はシティポップを意識して書いた曲なんですよ。MANABOONさんにアレンジしていただくときは、こちらが思い描いていたものとはまったく違うものが出てくる楽しさ、面白さがあって。「I'm Glad I'm Me」もまさにそういう感じだなと。

ーー先行配信曲「Youthful Days」は、冨田恵一さんの編曲によるバラードナンバー。冨田さんとタッグを組むのは初めてですよね?

葛谷:はい。スタッフの方から「この曲を冨田さんにアレンジしてもらうのはどうですか?」という提案があって、私としても「もしお願いできるのならぜひ」という感じでした。作業に入る前に冨田さんのスタジオにお伺いして、いろいろとお話をさせてもらったんです。「いつもはどういうふうに録ってるんですか?」と聞いていただいて、「ボーカルは自分が納得いくまで何度も何度も録り直します」と答えたり(笑)。すごく緊張していたんですけど、優しく接してもらえてありがたかったですね。アレンジも本当に素晴らしくて。デモ音源はピアノと歌だけのシンプルなものだったんですが、アルバムのタイトルに相応しいと言いますか、壮大でドラマティックなアレンジにしていただいて、終始感動しました。

ーー切なさと明るさが同時に感じられるようなボーカルも素晴らしいですね。

葛谷:ありがとうございます。いつもそうなんですが、ボーカルは自宅のスタジオで黙々と一人で録ってるんですよ。

ーー葛谷さん以外は誰もいないんですか?

葛谷:誰もいないです(笑)。「Youthful Days」に関しては、冨田さんにコーラスやハモを丁寧に入れていただいたので、それを受け取ってから歌録りして。かなり時間を長くいただいて、納得いくまでやってましたね。

ーー「Impossible Love(feat.ASOBOiSM)」には女性ラッパーのASOBOiSMさんが参加。

葛谷:ASOBOiSMさんはMANABOONさんに紹介していただいたんです。彼女の曲や声を聴かせていただいて、すごく素敵だなと思って。「Impossible Love」は90年代のヒップホップをイメージして作った楽曲で、同じコード進行がループしているので、ラップが入ったら面白いんじゃないかなと。歌詞はまず私が書いて、「こういう内容でお願いします」とお伝えして。ASOBOiSMさんのラップが入ったことで曲の温度が上がったし、やっぱりすごく才能がある方だなと思いました。

ーー「Love You」は抒情的なバラードナンバー。この曲は葛谷さんの楽曲「ロマンスはもう一度」(小田急ロマンスカー CMソング)のアレンジを手がけた安部潤さんが編曲を担当しています。

葛谷:安部さんとご一緒するのは、それこそ20年ぶりくらいですね。「Love You」は10年くらい前に、あるCMのために作った曲です。結局採用にならなかったんですけど、私としても気に入っていたし、いつか出せたらいいなと思っていたんです。今回のアルバムに収録することになったときに、ぜひ安部さんにお願いしたいなと。ピアノを主体とした、シンプルなバラードにしていただきました。

ーー〈ほつれた髪に 通す指から 落ちる香を/幾億時が 流れても 覚えてるでしょう〉という歌詞もそうですが、大人の恋愛を描いた歌詞も素晴らしいなと。この曲の登場人物の年代はどれくらいを想定しているんですか?

葛谷:基本的には自分の年代に重ねています。歌詞を書くときは必ずシチュエーションを思い浮かべるのですが、自分に近い年代の方が書きやすいし、歌っていても違和感がないので。

ーー2021年の松尾さんとジェーン・スーさんの対談のなかで、スーさんが「いま振り返ってみると、こちらが大人の世界観を期待しすぎたのかもしれないですね」と仰っていましたが、今現在、楽曲の世界観と葛谷さんご自身の年齢がしっかりリンクしてきたのかも。

葛谷:そうかもしれないですね。当時は本当に若かったし、自分の経験をプラスして歌詞を書こうとしても、ぜんぜん足りていなかったので。ただ、作詞は今も苦手ですね(笑)。メロディのほうが得意というか、歌詞はいつも悩んでいます。

ーー『DRAMATIC』の最後に収められているのは、グルーヴィーな心地よさを備えた「Midnight Train」。

葛谷:7~8年前くらいに書いた曲ですね。作家としても活動していたのですが、並行して「いつか自分で歌えたらいいな」という曲も書き溜めていて。そういう曲が何10曲とあって、再始動のきっかけになった「midnight drivin'」もそのなかにあったんです。「Midnight Train」も同じ時期に書いた曲ですね。この曲もメロディが先だったんですが、コード感やサウンドもイメージしながら作っていきました。収録することになったときに、自分のなかで「この曲のアレンジは宮野さん」と決めていて。宮野さんにお願いすることを想定してデモを作り直したんですが、私の意図がしっかり伝わって、イメージ通りのカッコいいアレンジにしていただきました。

ーーアルバム全体を通して、透明感と深みを感じさせるボーカルが心に残りました。葛谷さんご自身も、ボーカル表現の幅が広がっているのを実感しているのでは?

葛谷:どうでしょうか……? 先ほども言いましたけど、ボーカル録りは一人でやっているし、本当に孤独な作業なんですよ。自分で自分に「どう歌ったらいいか?」と問いかけながらやっているので、よくわからなくなることもあります(笑)。ただ、時間をできるだけ有効に使いながら、納得いくまでいろんな歌い方を試せるのはいいことなのかなと思っています。

ーーそのストイックさが、葛谷さんの音楽のクオリティにつながっているんだと思います。気が早いですが、次作の構想もあるんですか?

葛谷:一つ作り終えると、「もっといいものを作りたい」という欲が出てきちゃうんですよね。『DRAMATIC』は今の自分にとって最高のアルバムですけど、「こういう曲もやってみたい」というものもあるし、それを形にできたらなと。

ーー素晴らしい。ファンの皆さんは葛谷さんのライブも待ち望んでいると思いますが……。

葛谷:今までずっと逃げてきたんですけど、だいぶ逃げきれなくなってきたというか(笑)。人前に立って歌うのは苦手で、曲を書いたり、歌を録ることのほうが好きなんですよ。でも、スタッフの方々やリスナーの皆さんから「そろそろお願いします」という声もあるし、覚悟を決めてステージに立たなきゃいけないなと。具体的なことはまだ何も決まってないんですけど、「こういう会場がいいな」「フルバンドがいいな」みたいなことは考えているので、実現に向けてがんばろうと思ってます。

ーー期待してます! もう一つ、リスナーとして気になっている音楽はどんなものですか?

葛谷:いろいろ聴いてますね。以前はR&Bにこだわって聴いていたんですが、今はジャンルなどは関係なく、いいなと思う曲を聴いているので。娘も音楽が好きで、「この曲いいよ」と教えてくれたり、音楽を聴きながらドライブしたり(笑)。世代を問わず、自分がいいなと感じた曲からはいつも刺激を受けているし、「こういう曲を作ってみたい」と思うこともあって。それがモチベーションにもつながっていますね。

■リリース情報
『DRAMATIC』
発売日:2024年11月27日
品番:MHCL-3116
価格:¥3,300(税込)
購入:https://YokoKuzuya.lnk.to/DRAMATIC
配信:https://lgp.lnk.to/Dramatic
特設サイト:https://www.110107.com/KUZUYAYOKO2024

<収録楽曲>
01. Wheel of Fortune (作曲:葛谷葉子 編曲:宮野弦士)
02. Dramatic  (作詞・作曲:葛谷葉子 編曲:宮野弦士)
03. I’m Glad I’m Me  (作詞・作曲:葛谷葉子 編曲:MANABOON)
04. Youthful Days  (作詞・作曲:葛谷葉子 編曲:冨田恵一)
05. Symphony  (作詞・作曲:葛谷葉子 編曲:MANABOON)
06. Risky  (作詞・作曲:葛谷葉子 編曲:宮野弦士)
07. Impossible Love(feat.ASOBOiSM)
 (作詞:葛谷葉子・ASOBOiSM作曲:葛谷葉子 編曲:MANABOON)
08. Is This Love? (作曲:葛谷葉子 編曲:MANABOON)
09. Love You  (作詞・作曲:葛谷葉子 編曲:安部 潤)
10. Midnight Train  (作詞・作曲:葛谷葉子 編曲:宮野弦士)

『DRAMATIC』LP
発売日:2025年1月22日
品番:MHJL-408
価格:¥4,400(税込)
予約:https://YokoKuzuya.lnk.to/DRAMATIC_LP

■葛谷葉子オフィシャルサイト:https://www.kuzuyayoko.com

関連記事