葛谷葉子、25周年迎えた今だからこそ歌いたいメロディ 最高傑作を自負する『DRAMATIC』が完成するまで

 2021年にリリースしたベストアルバム『MIDNIGHT DRIVIN’-KUZUYA YOKO MUSIC GREETINGS 1999~2021-』、新曲「midnight drivin'」でアーティスト活動を本格的に再開させた葛谷葉子。2022年にはじつに21年ぶりとなるオリジナルアルバム『TOKYO TOWER』を発表し、R&Bリスナーはもちろん、シティポップの文脈でも評価を高めている。

 約2年ぶりとなるニューアルバム『DRAMATIC』には、冨田恵一とタッグを組んだ先行デジタルシングル「Youthful Days」を含む10曲を収録。R&B、シティポップ、ヒップホップなどを自由に行き来する本作は、25周年に相応しい、質の高いポップスアルバムに仕上がっている。その中心にあるのは、洗練されたメロディと、透明感と奥深さを備えたボーカルだ。今回リアルサウンドでは、葛谷葉子本人にインタビュー。アルバム『DRAMATIC』の制作、メロディやボーカルへのこだわりなどについて聞いた。(森朋之)

メロディ優先で構築される葛谷葉子の世界

ーーリアルサウンドでは2021年11月に、葛谷さんの活動に関わっていた松尾潔さん、ジェーン・スーさんの対談を掲載しました。

葛谷葉子:はい。私も読ませていただきました。

ーー当時はメアリー・J・ブライジやベイビーフェイスなどをよく聴かれていたそうですが、やはり90年代のR&Bがルーツということでしょうか?

葛谷:そうですね。きっかけは久保田利伸さんだったんです。久保田さんのラジオを聴かせてもらって、R&Bという音楽を知って。そのなかで気に入ったアーティストのCDを買ったり、そういうことを始めたのが中学、高校の頃ですね。松尾さんが書かれたライナーノーツもよく読んでいたので、(デビュー時に)お仕事をご一緒できるという話を聞いたときは本当にうれしくて。

ーージェーン・スーさんは葛谷さんのプロモーションを担当されていたそうですね。

葛谷:当時はよく怒られてました(笑)。私は東京に出てきたばかりで、いきなりデビューという形だったので、いろいろとわからないことが多くて。プロ意識を持って向き合うというところまで自分の気持ちが追いついていなかったんです。毎日をこなすだけでも大変だったし、いろいろとお叱りも受けましたが、そのぶんしっかりフォローしていただいて。人に心を開くのがすごく苦手だったので、カウンセリングのようにお話を聞いていただいたりもしてました。

ーーデビュー当初、音楽に関してはどんなビジョンがあったんですか?

葛谷:とにかく自分が好きな音楽を作っているという感じだったと思います。それをどうアレンジして、どういうふうに出していくかは全部お任せというか、そこまではわからなかったんですよね。1stアルバム(『MUSIC GREETINGS VOLUME ONE』)、2ndアルバム(『MUSIC GREETINGS VOLUME TWO』)もそうで、19歳、20歳くらいの頃に作った曲からピックアップしていただいて、アルバムにしたという感じだったんです。

ーー初期の楽曲に対してはどんな思いがありますか?

葛谷:曲自体のことよりも、「こういう歌い方をしたほうがよかったかな」という反省点があるという感じですね。最初の頃は「時間内にしっかりやらなきゃいけない」だけで精一杯だったので。

ーーそして2021年には21年ぶりのフルアルバム『TOKYO TOWER』を発表。大きなリアクションがあったと思いますが、葛谷さんはリスナーからの反応をどう捉えていますか?

葛谷:『TOKYO TOWER』はEPIC時代に書いた曲も入っているんですけど、20年以上経って、「サイドシート」などはシティポップとして受け入れてもらえたところもあって。最初はちょっと不思議な感覚だったんですけど(笑)、私自身も80年代の楽曲を新鮮な感覚で聴くことがあるので、そういう感じで聴いてもらえているのかなと。小学生の頃は中山美穂さん、荻野目洋子さん、安全地帯さんの曲なども大好きで、テレビにかじりついて聴いていたんですよ。

ーー80年代後半のJ-POPもルーツになってるんですね。では、ニューアルバム『DRAMATIC』について。R&B、シティポップ、ヒップホップまで網羅した、今の葛谷さんの多彩な音楽性が反映された作品ですが、制作を始めたときはどんなアルバムにしようと思っていたのでしょうか?

葛谷:作り始めたのは去年だったんですけど、『TOKYO TOWER』でやり切った感じもあったし、最初はどういうアルバムにしたらいいのか全く見当がつかなかったんです。そんな状況のなか「まずはいい曲を作ろう」という感じでスタートして。自分の新しい部分も見せていけたらな思って曲を作って、第一段階としてスタッフの皆さんに聴いていただいたら、あまり反応が良くなかったんですよ(笑)。そこから練り直そうとしたら、考えすぎてスランプ状態に入ってしまったんです。

 きっかけになったのは、アルバムに入っている「Risky」。あるコンペのために書いた曲なんですけど、その頃は本当に行き詰っていて、ちょっと気分転換みたいな感じで作ってみたら、結構スラスラ出てきて。そこでちょっと自信を取り戻して、曲作りがスムーズに進むようになったんです。その流れのなかで「Dramatic」という楽曲が出来て、アルバム全体のイメージがパッと浮かんで。その後は新しい曲も作りつつ、昔作った曲についても「あの曲を入れたらどうかな?」というアイデアが浮かんできたんです。たとえば「Youthful Days」のサビは10年くらい前に作っていて、iPhoneのなかにずっと録音されたままになっていたんですよ。

ーーなるほど。「Dramatic」は確かにアルバムの全体像を決定付ける楽曲だと思います。これはどんな曲想から生まれた楽曲なんですか?

葛谷:曲を作るためにスタジオに行く前にランチしていたら、スッとサビのメロディが浮かんできて。それを形にしていったのが「Dramatic」ですね。以前からそうなんですけど、本当にメロディから作っていくタイプなんです。自分のなかで納得のいくサビのメロディが出来たら、そこからAメロ、Bメロを作って。「Dramatic」はサビ以外のパートがすぐに出来なくて、日をまたいでしまったんですけどね。上手くメロディをダウンロードできない感じがあって、かなり悩みました。

ーー楽器を弾いて作るのではなくて、メロディが浮かぶのを待っている?

葛谷:そういうことが多いですね。キーボードを弾いてるときに浮かぶこともありますけど、だいぶ少ないかな。メロディが出てこないときは焦りますけど、そういうときは諦めるしかないというか(笑)。何か他のことをしてるときに浮かんでくることもあるし、待つしかないんですよね。

ーー歌詞については、メロディから想起させるストーリーや情景を描く……という感じですか?

葛谷:そうですね。「Dramatic」の場合は、最初に“Dramatic”という言葉が浮かんだので、そこから広げて。歌詞が最初にあって、そこにメロディを付けるという順番で作ったのは、今まで1~2曲くらいしかないです。CM曲だったんですけどね、それは。自分で歌う曲を書くときは、必ずメロディが先です。

ーー経験や感情を歌にしたいというより、あくまでもメロディ優先なんですね。

葛谷:もちろん人によって違うと思うんですけどね。自分の苦しみや悲しみを歌詞で表現する方もいらっしゃると思いますけど、私はメロディの段階でその状態になるんです。メロディを作ることで、自分のなかにあるいろいろなものが昇華されると言いますか。

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