GLIM SPANKY、初ベストアルバムが正真正銘の“ニューアルバム”である理由 溢れ出るエネルギーと原点回帰
今年でメジャーデビュー10周年を迎えるGLIM SPANKYが、初のベストアルバム『All the Greatest Dudes』をリリースする。Mott the Hoopleの代表曲「All the Young Dudes」からインスパイアされたタイトルの本作は、ファンからのリクエストをもとに、メンバー自身が選曲を担当。荒々しいガレージロックを奏でていた初期の楽曲から、さまざまな音楽スタイルを取り込み唯一無二の「GLIM SPANKY流ポップス」を確立した近年の楽曲までを網羅し、ビギナーからコアなファンまで楽しめる内容となっている。しかも、本作のために書き下ろしたチャレンジングな新曲も複数収録されており、バンドの軌跡を総括しつつ未来への展望も示した正真正銘のニューアルバムと言えよう。(黒田隆憲)
ベストアルバムはそのアーティストにとっての“玄関口”になるもの(松尾)
――まずは、バンドとして初の公式ベストアルバムを出そうと思った経緯を教えてもらえますか?
亀本寛貴(以下、亀本):「そもそもベストアルバムにどれだけの意味があるんだろう?」と、正直ずっと考えていました。サブスクやストリーミングが普及して以降、曲を聴く手段もどんどんフィジカルから離れていっていますし、個人的にはベストアルバムに対してあまり意味を感じていない部分があって。もしGLIM SPANKYのベストアルバムを作るのであれば、ファンの方たちが買って意味があると感じてもらえるものにしたい。そういう気持ちがまずありました。
松尾レミ(以下、松尾):私も、そもそもベストアルバムは聴かないタイプだったんです。特に初めて知るアーティストに関しては、まずオリジナルアルバムをしっかり聴きたいと思っていたし、高校時代から亀(亀本)にもよくそんなことを話していました。「ベストアルバムは本人が選んだわけじゃない曲も入っていたりするし、まずはオリジナルを聴いたほうがいいよ」って。しかも、今言っていたようにここ最近はサブスクがすでにベストアルバムの役割をしてるじゃないですか。
亀本:サブスクに登録しているアーティストのトップページにいくと、再生回数の高い順に曲が並んでいたりするからね。
松尾:そうなんだよ。「初めての○○○」みたいなプレイリストもあるし、それってある意味ベストアルバムみたいなものじゃないですか。ただ不思議なことに、そういうサブスクのプレイリストは私も聴けるんですよね。それを考えると、やっぱりベストアルバムはそのアーティストにとっての“玄関口”になるものだなとも思ったんです。ベストアルバムや「初めての○○○」を聴いて、そこからオリジナルアルバムに興味を持ってくれることだってあるかもしれない。
――たしかに、自分も10代の頃はまずベストアルバムを聴いてお気に入りの曲を見つけたら、それが入っているオリジナルアルバムを聴く、ということをしていました。
松尾:ですよね。ただ、代表曲を集めたものを出してもやっぱり意味がないな、と。『GLIM SPANKY GREATEST HITS』とか、『Best of GLIM SPANKY』みたいなタイトルには絶対したくなかったですし(笑)、ちゃんと書き下ろしの新曲も入れたかった。“ベストアルバム”であると同時に“ニューアルバム”としてもとらえてもらえるようなタイトルを考えた結果、『All the Greatest Dudes』になりました。(Mott the Hoopleの代表曲「All the Young Dudes」をもじって)ロックの歴史にリスペクトを表しつつ、“デュード”(=奴ら)というのはGLIM SPANKYに関わってくれているみんなのことや、私たちの愛すべき楽曲のことでもある。「最高な奴らが揃ってる」という意味を込めて、このタイトルを冠したベストアルバムを作りました。
亀本:「ベストアルバムを売る」というよりは、「新作にベストアルバムを付ける」くらいの感覚だよね。
もう7枚もアルバムを出しているから、勢いだけじゃやっていけない(笑)(亀本)
――個人的なことを言わせてもらうと、僕は「闇に目を凝らせば」がものすごく好きなんですよね。
松尾:ありがとうございます。あの曲は映画『少女』のタイアップで、実は何度も作り直したんですよ。最初は違う曲を作っていたんですけど、「もっとGLIM SPANKYらしい、ダークで不思議な感じがほしい」ということで、自分の好きな世界観に思い切り寄せることにしました。
――アレンジも歌詞もメロディも、たしかにグリムのマニアックな部分が凝縮されていますよね。中期The Beatlesや『OK Computer』の頃のRadiohead、あるいはレニー・クラヴィッツあたりをも彷彿とさせる。
松尾:ああ、なるほど。THE INCREDIBLE STRING BANDのようなブリティッシュトラッドをイメージして作り始めたんです。それに、この曲には「これだ!」と思って参考にした絵があって。マックス・エルンストというシュルレアリスムの画家が、エッチング技法で作った版画なんですが、光るランプに虫が群がっているようにも見える作品があって。それにビビッときて〈ガス燈へと群がる虫たち/自ら命を燃やしに集うよ〉という歌詞が浮かびました。
歌い出しの〈夜景画の山肌に月が顔出して〉という部分も、エルンストの作品のなかに月のように見える不思議な雰囲気の絵もあって。もちろんシュルレアリスムの絵なので“月”とは断定できないのですが、そこに私が大好きな作家、稲垣足穂の『一千一秒物語』にある「キネオラマの月が顔を出して」という描写も引っ張ってきて、すべてを掛け合わせながら作っていきました。自分としては、詩人のような気持ちで取り組んだ曲ですね。