PEDROの音楽は“ジャンルが変わった” アユニ・Dが赤裸々な感情と向き合って生まれた『意地と光』

PEDRO『意地と光』を語る

 PEDROが新作ミニアルバム『意地と光』を11月6日にリリースした。9月から12月にかけて全国25都市27公演をまわる全国ツアー『ラブ&ピースツアー』を開催中のPEDRO。筆者は10月3日に行われた川崎 CLUB CITTA'公演を観たのだが、そのセットリストにおいても「アンチ生活」など同作の収録曲はキーポイントになっていた。そして、PEDROの音楽性が確実に変わってきているのを実感した。

 アユニ・D(Vo/Ba)がフロントマンを務めるバンドプロジェクトとしてスタートしたPEDRO。活動休止期間を経て、田渕ひさ子(Gt)、ゆーまお(Dr)を迎えた編成で再始動したのが2023年の夏のことだった。そこから度重なるツアーや日本武道館公演を経て、今のPEDROの楽曲はメロディに乗せて言葉をしっかり伝えるアユニ・Dの歌心が軸になっている。いわば“オルタナフォーク”とも呼べる音楽性に変貌してきているのではないかと感じたのだ。

 というわけで、インタビューではそのあたりの直感を3人にぶつけてみた(以下のやり取りにはツアーのセットリストのネタバレも含まれるのでご注意いただきたい)。(柴那典)

「シフトチェンジしてから、如実に感情が届くようになった」(アユニ・D)

ーーまずは今のPEDROのライブについての話から聞かせてください。この取材段階では『ラブ&ピースツアー』が始まったばかりですが、バンドのモードはどんな感じでしょうか?

アユニ・D(以下、アユニ):去年のBiSHの解散を経て、いろいろ紆余曲折を経て、改めて音楽に執着しようという初心に帰って挑んでいるツアーです。携えている新曲たちもお二人と一緒に作ったものだし、ソロプロジェクトでありながらより一層バンドになっていて。立ち位置も今までは自分が端にいたんですけど、今回のツアーでは真ん中でやっていて。フロントマンとしての意識を持ちつつ、サウンド面では心身共につながるようなグルーヴ感を出したいと思ってやっています。

ーーステージで真ん中に立つということには、フロントマンとしての覚悟があったと。

アユニ:そうですね。本当に覚悟という感じです。やっぱり今までは甘えてたなと思って。自分の視界に誰かがいないと安心できなかったというか。今回はしっかりとお二人に背中を押してもらいながら、守っていただきながら、先陣を切って進んでいこうという意志です。

ーー田渕さん、ゆーまおさんは、今回のツアーでのアユニさんの変化については、どのように感じていますか?

田渕ひさ子(以下、田渕):インタビューをしてもらうたびに言ってるかもしれないですけど、アユニさんは会うたびに変化のある人で。その都度その都度ちゃんと向き合ってベストを考えてやっていらっしゃると思うんです。今回のツアーは雰囲気もいいし、真ん中に立つ覚悟みたいなものも感じるし。今「お二人に背中を押してもらって」とおっしゃってましたけど、引っ張ってもらってるような感じさえします。

ゆーまお:僕は一番変わったと思うのが歌なんです。今年に入ってからその変化を顕著に感じ始めたんですけど、そこから今は右肩上がりで突っ走ってるような状態というか。あと、最近はライブでも曲の中で「ここはこうしたい」というのをはっきり汲み取ることができるようになってきていて。歌を通して今までになかったコミュニケーションを取ることができている実感がありますね。

ーーアユニさんの歌はどう変わってきた感じがありますか?

ゆーまお:そもそもの声量とピッチも全然違いますし。どんな風に歌えばいいかというのも、すごく話し合ったり考えてたりしている姿を見ているので。歌詞の言葉を大切にして、よりそれを相手に伝えるために、技術や、表現や、感情そのもののレベルを上げているというか。伝えやすくしているというのが、歌の変化に感じることですね。

ーーアユニさん自身はどうでしょうか? 歌い手として、自分はどういう風に変わってきたと思っていますか。

アユニ:BiSHに入ってから8年間ずっと歌と踊りをやって、プロの方に教えてもらったり、ボイトレしたりとかもあったんですけれど、PEDRO1本になってから1人で全曲を伝えるっていうことになって。もっとクオリティを上げなきゃと思って、一つひとつの文字とか単語とかを追求していた時があったんです。あの時は精一杯やっていたんでよかったんですけど、今思うとそういうのじゃないんだなと思って。自分って、人と喋っていても、そんなにコミュニケーションが得意ではないし、緊張しているのがあからさまに伝わっちゃったりするので。小賢しいやり方とかテクいやり方で自分をごまかして上手に見せようとしてもできないんだな、よくも悪くも内面が全部出ちゃうんだなっていうのを改めて実感したんです。じゃあ自分に何ができるんだろうと思った時に、歌詞のこの1文字をどう歌って、この単語をどういう息の量にして……とか、そういう考え方じゃなくて、どういう気持ちでこの曲を歌い上げられるか、どれだけ憑依させてその気持ちに一生懸命向き合えるかっていう方向にシフトチェンジしてからは、如実に感情が曲に乗って届くようになったのかもしれないなって。今はそういう希望を感じています。

アユニ・D

ーーこれは僕が先日のライブを観て一番感じたことなんですけれど、音楽評論家的な言い方をすると、PEDROの音楽ジャンルが変わったんだと思ったんですよ。最初はパンクだと思っていたんです。PEDROのことを3ピースのパンクバンドだと思っていたんですね。でも、CLUB CITTA'のライブを観て「あ、フォークなんだ」と思ったんです。ただ、フォークだとアコースティックギターの弾き語りのイメージがあるし、PEDROは田渕さんのギター、ゆーまおさんのドラムとの3人のバンドサウンドが大事なポイントだから、フォークそのものではない。だから“オルタナフォーク”というジャンルだと思ったんです。そう捉えたら曲も演奏もすごくしっくりきた。あえて言うと、ミツキやフィービー・ブリジャーズと吉田拓郎の間にあるもの、というか。この仮説、まずは田渕さんとゆーまおさんはどう思いますか?

田渕:すごくわかります。サウンドが激しくてもフォークだなって思うバンドって、私から見ても結構いるんで。言葉と歌を大切にしていて、コードの流れにそれが乗ってるという。弾き語りでもできそうな曲というか。

ゆーまお:まずオルタナっていうのは絶対なんで。オルタナっぽく聴こえてるというのは思っていたんですけど、アユニちゃんの“この感じ”って、何だろうなと思ってたんですよ。ゆったりとしているけど、シューゲイザーでもないしな、みたいな。フォークっぽいというのは自分でもしっくりきました。自分がピンと来てなかった部分を言葉にしていただいた気がします。いつも弾き語りでアユニちゃんからデモが届いて、それをアレンジしていくんですけれど、確かにあの弾き語りの状態だったらフォークかもしれないですね。そんな雰囲気はあります。

PEDRO / 祝祭 [OFFICIAL VIDEO]

ーーアユニさんはどうでしょうか? 言葉を大事にして歌ってきたということで、音楽性が徐々に変わってきた実感はありますか?

アユニ:あるかもしれないですね。でも、意図的にというより、自分はもっと音楽の知識を増やさなきゃいけないなって常に思っているし、そこへの好奇心もあるので、いろんな曲を聴くようになって、そこから作りたいものが湧き出て、手と口を動かして出来上がったものが、そうおっしゃっていただけたものになってるという感じです。今は「ああ、自分がやりたいのって、そういうものなのかもしれないな」って、改めて発見した気がします。あとは、音楽に関してもそうですけど、人に関しても、最近は哀愁に勝るものって結局ないのかもしれないみたいなことを考えていて。フォークソングってやっぱり哀愁が漂ってる感じもするし、自分もそこを研究していきたいなって思いました。

田渕ひさ子&ゆーまおから見た、アユニ・Dの曲作りの変化や個性

ーー改めてソングライティングについても聞きたいんですけど、アユニさんは曲のデモというか、歌詞とメロディだけの状態のものってどういう風に作っているんですか?

アユニ:すごく簡単なものです。歌メロだけのものもあるし、そこにギターを入れたりもしてますね。構成も完璧には作っていなかったりするので、デモをお渡しした後に構成をお伝えしたりします。

ーーPCを使ってトラックメイキングをしたりは?

アユニ:やったりはしてるんですけど、下手くそすぎて自分が思い浮かべるものが全然形にできなくて。そこは頼りすぎちゃってますね。

ーー楽器で言えばギターが多い? ベースで曲を作るということはありますか?

アユニ:ギターが多いです。ベースは歌を作る時には触ってないです。ベースを触っていて面白いフレーズが浮かぶ時はあるんですけど、実用はできていないですね。

ーー歌詞とメロディって、どっちが先とかありますか?

アユニ:曲によりけりです。同じくらいですね。

ーー以前からアユニさんの音楽のルーツにはヒトリエとNUMBER GIRLがあるという話を聞いてましたけれど、今のPEDROのフォーク要素というか、哀愁のあるメロディで言葉をしっかり聴かせる歌心って、その両者にはないものだと思うんです。そことは別のところで、アユニさんのメロディセンスのもとになっているものがあるような気がするんですけど、そのあたりはどうでしょうか?

アユニ:なんでしょうね。今までは邦ロックをあまり聴かなくて。改めて邦ロックを聴くようになったのはあるかもしれないですけど。

ーー聴くようになったものって、例えばどのあたりですか?

アユニ:えっと、THE BLUE HEARTSは聴いてるけど、その要素を入れているわけでもないし……無意識的にやってきた何かがあるのかもしれないです。

ゆーまお

ーーゆーまおさんとしてはどうですか? アレンジをしたり曲を作っていく中で、例えばリファレンスがあったり、こういう感じがアユニさんの今の曲作りの影響源になっているんだろうなって推察したりすることはありますか?

ゆーまお:編曲を頼まれる際に、アユニちゃんから結構はっきりとしたイメージを言ってくれるんですよ。この曲はこういう風にしたいとか、はっきり資料を含めて伝えてもらってから作業に入るので。そういうのを見てると、なんとなく「最近はこういう曲が好きなのかな」っていうのが垣間見えるというか。邦ロックを最近よく聴いてるんじゃないかな、と思ってましたね。意識してるのかなって。

アユニ:今までは本当に好きなバンドしか聴かなかったので。NUMBER GIRLとヒトリエ、それ以外はひさ子さんが好きな海外のバンドとか、そういうのしか聴いてこなかったっていうのがあるんだと思いますね。そこから社会に馴染もうとしたっていうのもあると思います(笑)。

田渕ひさ子

ーー田渕さんは、アユニさんのソングライティングに関してどう見ていますか?

田渕:メロディはすごくアユニさんらしいというか、「あ、アユニさんが考えたメロディだ」みたいな個性をすごく感じます。さっきおっしゃってたフォークにも通じるのかもしれないですけど、メッセージ性というか、人に伝えたい思いがすごくある感じがしていて。「こういう曲にしたい」っていうのも、例えば「このバンドのこの曲」みたいに具体的なリファレンスがある時もあれば、「もっとライブでこんな感じでできるような曲がいい」とか「この曲にこういう雰囲気が出せたら嬉しい」とか、抽象的な時もあるし。ツアーとかレコーディングをずっと一緒にさせてもらってるんで、それで「ああ、なるほど」みたいに思うことも多いですね。

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