藤井 風は今、“過渡期”の中にいる NHK特番で明かされた次作アルバムへの葛藤と覚悟を読み解く

 だが、アルバム制作が難航している点は気がかりだ。そもそも今年の夏に日産スタジアムで行ったライブは、本来であればすでに発表されているはずの3枚目のアルバムを中心に披露する予定だったという。しかし制作が遅れたことで内容を変更したという“ぶっちゃけ発言”も飛び出し、制作は相当の困難な状況に陥っていることが伝わってきた。2年前から計画されていたそのライブは当初想定していたものとは違うものになり、最終的にはこれまでの活動の集大成的な内容に切り替えたという。それだけ予想以上の遅れが出ているということだ。

 けれども、そうなってしまったことがかえって彼にとっていいきっかけになったのではないかと思う。同ライブで打ち出された“青春”というキーワードによって自分を見つめ直すこととなり、過去の自分が持っていた若々しさや野心に触れた。それがロサンゼルスでの制作に繋がっている。

「何を必要としているのかがはっきりと見えた瞬間があった」
「もっとエネルギッシュでもっと情熱的だった頃の自分が今必要だと思った」
「忘れかけていた情熱的な自分に戻ってきてほしい」

 ライブ以降に放たれたこれらの発言を聞くにつけ、今後彼から生み出される作品はより深みや厚みのあるものになりそうな気がしている。もしアルバム制作が順調に進んでいたとしたら、制作物や活動そのものがより直線的で捻りのない方向へ進んでいたかもしれない。現に制作中に何度も発していた「I Need You Back」という言葉に込められた思いは、自己内対話を繰り返してきた藤井 風のこれまでの作風にも通じるものだし、同時にデビューから年月を重ねた今の彼だからこそ説得力の宿る新鮮なテーマでもある。ある意味で遠回りをしたことで、歌える/書ける曲の幅は広がったのではないか。

 ただ、そうして掴みかけたひらめきも束の間。インスピレーションは続かず、ついに行き詰まっている様子がカメラに捉えられている。その際に聴いていた曲がジャネット・ジャクソンの「Let's Wait Awhile(急がせないで)」だったことには笑ってしまったが、そういう茶目っ気も彼らしいところ。「27歳のうちに3枚目のアルバムを届けたい」という具体的な目標は、新作を待ち望むファンへの“もう少し時間がほしい”というメッセージのようにも感じられた。

 彼にかかる期待とプレッシャーは計り知れない。ゼロから新しい物を生み出すことの難しさは想像を絶するものがあるだろう。しかし、これまでも何度も我々の想像を超えてくれた彼ならば、その壁もまた乗り越えてくれるはずだ。

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