連載『lit!』第124回:じん、ハチ、kemu、syudou……一時代を築いたレジェンドボカロPたちによる直近カムバック作

 今でこそ大衆的な知名度も獲得しつつある音楽ジャンル・VOCALOIDだが、現在のカルチャー成熟には大勢の先人たちの活躍が欠かせないものでもあった。特に多くの人気クリエイターによってジャンルが大きな成長期を迎えた2010年代前半、そして各SNSでのバズや時代潮流に沿ったコンテンツをきっかけに、その人気をもう一段押し上げることとなった2020年前後。この頃にシーンで活躍したボカロPの中には、日本の音楽シーンを牽引する存在へと成長した人々も多く存在する。

 商業的成功を納め多忙な日々を送るゆえに、そんな作り手の多くがボカロシーンから徐々に足が遠のいていくのもやむを得ないことではあるだろう。しかし、それでも様々な出来事を契機に、一時代を築いたレジェンドボカロPたちが新たな作品を持って久々にシーンへと舞い戻ってくる事象が、直近ではあちこちで散見された。

 今回はそんな、シーンにとって非常に喜ばしいニュースともなったボカロPたちのカムバック作をピックアップ。話題を席巻した新作の数々、その妙を映像と音楽ともに楽しんでみては。

じん「Summering」

Summering / じん【Official MV】

 10月1日に本人SNSより投稿された「夏、終わらせにいきましょう」という言葉に追随し、数日後に動画がアップされた本作。ボカロ好きであれば誰もが知る『カゲロウプロジェクト』シリーズでシーンに金字塔を打ち立て、近年も様々なタイアップやイベント事に合わせボカロ曲を発表するじんだが、今回のようなノンタイアップ曲は2022年8月投稿の「ヘンシン」以来2年以上ぶりとなる。

 意味深な事前の投稿告知に大勢のファンが期待を寄せた本曲だが、蓋を開ければ過去にじんと多くのビッグヒットを生み出したクリエイターの面々の再集結という、とてつもなく豪華なコラボが実現。映像担当のしづ、楽曲制作に携わったびび、ベースの白神真志朗、そしてドラムのゆーまお(ヒトリエ)。彼らとともにきっと多くのリスナーも、“あの夏”に思いを馳せたに違いない。

ハチ「ドーナツホール 2024」

ハチ - ドーナツホール 2024 , HACHI - DONUT HOLE 2024

 米津玄師として4年ぶりのアルバム『LOST CORNER』をリリースしたばかりの彼だったが、その盛り上がりも冷めやらぬ中で投稿された今作。世界的チョコレートブランド・GODIVAとの商品コラボをきっかけに制作された本PVでは、投稿から11年を経た楽曲PVに登場するGUMIほかキャラクターたちのデザイン原案をハチ自身が担当している。

 今やお茶の間にまで浸透した米津の名ではなく、あくまでボカロP・ハチとして彼が今回のリブートを行ったことも大勢のファンを喜ばせた。YouTubeのみならず、ニコニコ動画にも2017年「砂の惑星」以来の投稿が行われたことに加え、2013年の原曲投稿時とほぼ同じ内容の「どうもハチです。」という動画概要欄も、多くのボカロファンが胸を熱くしたポイントである。そんな彼の投稿を喜ぶ人々の熱烈な歓迎の意が、動画の“王の帰還”タグにも表れているのだろう。

関連記事