Coldplayが“終わり”を意識して果たす責任 新アルバム『Moon Music』で辿り着いた境地とは

Coldplayが新アルバムで辿り着いた境地

 全世界で1億枚以上を売り上げ、名実ともに21世紀を代表するロックバンドと言えるColdplayの記念すべき10枚目のアルバム『Moon Music』が、10月4日に発売された。

 Coldplayといえば、1997年の結成以来「Yellow」や「美しき生命(Viva La Vida)」、「A Sky Full of Stars」などの大ヒット曲を次々と発表し、2016年にはポップカルチャーの頂点のみが立つことを許される『スーパーボウル』のハーフタイムショーに出演するなど、現代のロックバンドを最も代表する存在であるといっても過言ではない。その功績を語る方法は、圧倒的なグラミー賞の受賞数や、LEDリストバンドの導入といった大規模ライブへの影響力の大きさなどさまざまだが、今なお全英チャートやSpotifyのUKチャートで彼らの名曲がランクインし続けているという事実を示すだけでも、きっと十分なのではないだろうか。『Moon Music』も、全英/全米チャートともに初登場1位を獲得するというヒットを記録しており、その人気の高さを改めて証明している。

 だからこそ、フロントマンを務めるクリス・マーティンが2021年末のラジオ出演の際に、「2025年に最後の作品をリリースして、以降は楽曲制作を行わずにツアー活動やコラボレーションのみに専念する」と発言(※1)した際には、ファンはもちろん、音楽業界全体にも大きな衝撃が走った。とはいえ、2015年に『A Head Full of Dreams』をリリースした際に「最終章か何かみたいに感じる」と語っていた(※2)ように、Coldplayはアルバム制作後のタイミングを中心に幾度なく終わりを仄めかしてきたバンドでもある。一人のファンとしても、「きっと、いつものようにアルバム制作を終えて燃え尽きているだけで、またモチベーションが生まれたら新作を作るに違いない」と思っていた。

 だが、先日実施されたApple Musicのインタビューで、クリスは「(次々作となる)12枚目のスタジオアルバムを発表した後に引退する」と改めて明言(※3)。必ずしも2025年が活動期限ではなくなったと捉えることもできるが、今回はライブ活動なども含めた活動終了を示唆しており、少なくとも今のColdplayが“終わり”を見据えた上で活動をしているのは、間違いなさそうである。

 その背景としては、彼ら自身が影響を受けたThe Beatlesやボブ・マーリーといったアーティストたちが約12枚による充実したディスコグラフィーを構築していることなどを例に、あえて制限を設けることでクオリティの高い作品を作り上げたいということや、メンバーが自分らしく過ごせる時間を確保したいといった想いが語られており、The Rolling Stonesのように生涯にわたるキャリアを構築するよりも、バンド/メンバーともに充実した時間を過ごすことができるという考えがあるのだろう。世界屈指のロックバンドとなった今でも、その地位に甘んずることなく、今でも3~4年おきに新作をリリースする彼らのクリエイティブに対するストイックな姿勢が、活動の在り方自体にも表れたというわけだ。きっと、ファンであればあるほどに、その理由に納得してしまうのではないだろうか。

 それでも、どこか勿体ないという気持ちを抱いてしまうのは、単純に彼らのファンであるということに加えて、Coldplayというバンド自体が、世界で活躍するアーティストの基準を築いてきたことにある。近年の活動の中で最も象徴的なのは、彼らの魅力でもある大規模なワールドツアーにおいて、環境に配慮したサステナブルなやり方を提示したことだろう。莫大な電力を要するライブ演出に再生可能エネルギーを活用し、演出に使われるLEDリストバンドなどの素材や移動手段においてサステナブルな素材や燃料を使用するなどの取り組みが実施された『Music Of The Spheres World Tour』(2022年~現在)は、まさに現代におけるワールドツアーの基準となった。

Coldplay - Music Of The Spheres World Tour 2023 (Official trailer)

 さらに、今回の『Moon Music』のCD版では、世界初の「EcoCD」(使用済みの製品を回収し、再生資源化した再生ポリカーボネート樹脂を90%使用して生産されたCD)を使用しており、環境への取り組みがさらに押し進められている。もちろん、ビリー・アイリッシュやDave Matthews Bandのように、環境への取り組みを積極的に実施しているアーティストは他にも数多く存在するが、ここまでの規模でそれを実現しているのはColdplayくらいだろう。だからこそ、彼らの活動終了は、今後の制作物だけではなく、ひとつの「基準」が失われてしまうのではないかという物悲しさがあるのだ。

 とはいえ、きっとそれはColdplay自身にとっても同様なのではないだろうか。近年のバンドの活動を見ていると、これまでに時折見せていた内省的な側面はかなり控え目になり、グローバルアーティストとしての責任を最後まで果たし、その想いを人々に託そうとしているように思えてならない。それは、1曲目を飾るタイトルトラック「MOON MUSIC」で〈I’m close to the end〉(終わりへと近付いている)と歌う最新作『Moon Music』においても同様だ。

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