桑原彰が支えたRADWIMPSの音楽と哲学 無二の存在としてあり続けたギタリスト、突然の脱退発表に寄せて

 桑原のギタリストとしてのすごさをシンプルに体感するのであれば、14thシングル『シュプレヒコール』のボーナストラックとして収録された「22:20:12:5:14:2012」をオススメしたい。この楽曲は即興で収録されたインスト曲であり、鍵盤を軸としたジャジーな空気感が持ち味になっている。そのため、ギターのサウンドはあまり歪ませずに成立させ、熟達したリズムアプローチや技巧的なソロの展開を堪能できる。そこに、彼のアイデアの豊富さやリズム的造形の深みが光っているのだ。

 ここまで書いてきたが、何が言いたいかと言うと、桑原のギターは数えきれないほどの魅力を持っているということ、そして楽曲の多くで重要な役割を果たしてきたということだ。“サウンドに足し算する”のあり方が華麗で無二的であったからこそ、桑原のギターはRADWIMPSの音楽における“RADWIMPS感”を構成する大きな要素になったわけだ。ただ、その桑原がRADWIMPSを脱退する。その決断に至るまでにどんな話し合いがあり、どのような経緯でその決断に至ったのかは計り知れない。だが、桑原彰というギタリストのプレイがRADWIMPSの音楽で大きな役割を果たしたことは、これまでもこれからも変わらないことである。

 この先、RADWIMPSがどのように変化していくのか、そして桑原がどういう道を歩むのか、正直まだわからない部分が多い。だからこそ、思うのだ。いつか、「独白」の歌詞にあった〈下じゃない前を見ろ〉という言葉を大切にした結果として、今回の選択があったのではないか、と。そして、そういう意志の結果として決めた道だからこそ、その先に新しい音楽的な豊かさと出会うことになるのではないか、と。きっと単一で白黒つけられるものではないと想像できるからこそ、それぞれの飛躍に繋がる未来を想像して、この記事の結びにかえさせていただきたい。

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