清水美依紗「今度は私が愛を届けます」 自身を作り上げた音楽を巡る旅、ソロツアー『Roots』を振り返る
ディズニー映画のオープニングで流れることでも有名な「星に願いを」のメロディが、ピアノでゆったりと奏でられる。そこからステージが明るくなると、中央には静かに佇む清水美依紗の姿が――。そんなライブの幕開けは、まるでこれから語られる“清水美依紗”というひとりのアーティストの物語に誘われているようだった。
『清水美依紗 Solo Tour 「Roots」』は、タイトル通り彼女の音楽ルーツを辿るものであり、カバー曲やこれまでのリリース作品を通して、今の彼女がどのようにして成り立っているのかを紐解いていくライブだった。本稿では、10月3日にヒューリックホール東京で行われた東京公演を振り返る。
ルーツを辿っていくということで、前半は彼女が触れてきた楽曲のカバーがメインとなる。まず届けられたのは、「夢はひそかに」(映画『シンデレラ』)、「I Want You Back」(The Jackson 5)、「Don't You Worry 'bout a Thing)」(映画『SING』)の3曲。すべて母親から教えてもらった曲たちで、なかでも「夢はひそかに」は子守歌として聴いていた曲だという。自身がディズニー作品に親しむきっかけになった歌でもある。その流れで初めて観たディズニー映画に『リトルマーメイド』を挙げると、劇中歌の「Part of your World」をカバー。流れるようなピアノに乗せて、凛とした伸びやかな歌声を響かせた。
いつもは観客を巻き込んだ賑やかなライブを展開していく印象だが、今回は彼女の歌声に静かに聴き入るようなステージが続く。観客も終始着席スタイルで、MCで楽曲にまつわる思い出を語る彼女からは、少し緊張している様子も感じられた。しかし、それもパフォーマンスになると一転。学生時代に聴いていた楽曲を詰め込んだ“懐メロメドレー”では、「Best Friend」(西野カナ)、「TT」(TWICE)、「ミラクル」(miwa)といったヒットソングから、「Uptown Funk」(マーク・ロンソン)、「Love On Top」(ビヨンセ)といった世界で活躍するアーティストたちの名曲も見事に歌いこなす。「私、雑食だったんですよ」と話していた通り、歌われたのは邦楽、洋楽、K-POPとさまざま。彼女が学生の頃からジャンルを横断して好きな音楽を貪欲に取り込んできたことが感じられた。
続いて披露した「I Have Nothing」(ホイットニー・ヒューストン)は、彼女が高校3年の時に出演した『歌唱王』(日本テレビ系)の予選オーディションで歌った楽曲だ。そして、見事予選を通過し、ファイナルステージで歌唱した「On My Own」(ミュージカル『レ・ミゼラブル』)へ。12月からは、ミュージカル『レ・ミゼラブル』においてエポニーヌ役を務めることも決定している。高校生の頃、こんな未来が訪れることは彼女自身も予想していなかったかもしれない。「この曲を役として歌えると思うと嬉しい」「人生のピースがハマったみたい」と喜びを露わにしながら、感情豊かに歌を届けていった。
今度は父親からのルーツソングを紹介するというが、彼女の父親は音楽には無頓着で、歌っている姿は一度も見たことがないという。そんななかで選んだのは「木綿のハンカチーフ」(太田裕美)。父親が車で流していたという、思い出の一曲だ。
明るく歌い上げたあとは、自分が音楽の道を志した時に、父親がとても応援してくれたことを振り返った。「そんな父は、2年前に亡くなってしまったんですけど……」と語る彼女の声が震える。「……全然、乗り越えられてへんくて」と言葉を詰まらせながら、「乗り越えていないからこそ、次歌う2曲を父に向けて歌いたいなと思います」と宣言した彼女は、家族の大切さを歌った「Home」、感情の波を受け入れていいというメッセージが込められた「Wave」を歌い上げた。どちらも、父が亡くなったことを経て制作した楽曲。彼女の愛や感謝の言葉は、きっと遠くまで届いただろう。