真心ブラザーズ、デビュー35年の道のりと現在地 「“いい歌詞を書こう”と思わなきゃいくらでも書ける」

 真心ブラザーズの歴史に残る名盤、であることを超えて、1990年代の日本のロックの名盤である『KING OF ROCK』(1995年)。デビュー35周年である2024年のニューアルバム『SQUEEZE and RELEASE』は、その『KING OF ROCK』を意識して制作された、ということが、本作の宣伝資料やすでに出ているインタビュー等で明らかにされている。

 Rage Against The Machineはデビューしていたが日本ではまだ知られておらず、ミクスチャーロックという音楽ジャンルがこの国に根付くはるか前だった当時、いかに『KING OF ROCK』が衝撃的だったかを記憶している方は、ファンでなくても多いと思う。

 が、それから29年後にリリースされる『SQUEEZE and RELEASE』は、それと同種の刺激に満ちていながら「それだけではない」作品になっている。そしてそれは、当時と今では時代が違うから、というだけが理由ではないことも、聴けばわかる。以下、YO-KINGとは対面で、桜井秀俊はウルフルズのサポートで地方にいたのでPCのリモート画面で話してもらったのが以下のテキストです(撮影は後日実施)。(兵庫慎司)

仕事≒遊び≒趣味、みたいな感じ。そういう意味では、仕事楽しいなと思う(YO-KING)

YO-KING

――アルバム制作は、いつ頃から?

桜井秀俊(以下、桜井):今年の春先ぐらいからかな。俺、3月の後半ぐらいに、AC/DCを聴き始めたんで。

――え、なぜ?

桜井:魂の練習として。まず、『KING OF ROCK』的な、ハジけたフィジカルな感じのアルバムを作ろうよ、っていうことになったんです。去年あたりから、フェスとかでやる時は定番の曲もいいんだけど、『KING OF ROCK』の「マイ・リズム」とか、ああいうゴリッとした曲をやると、むしろそっちのほうが盛り上がるんじゃないか、みたいな感じでバッファローズ(グレートマエカワとサンコンJr.)と4人のなかであって。35周年のアルバムも、わかりやすいとかポップなものよりもそういうものをやっちゃっていいんじゃない? と、足枷が外れた感覚もあったんですよ。で、『KING OF ROCK』なら――最近そのへんが鈍っていたから、アンガス・ヤング師匠の音を聴き直して。

――そこでRage Against The MachineやRed Hot Chili Peppersじゃなくて、AC/DCだったというのは?

桜井:レイジ、レッチリも聴いたんですけど、コンセプトに走ってしまいそうな気がして。もっとバカな、突き抜けたものがいいと思って、それでAC/DCを。「もっと肉体だ!」と。

桜井秀俊

――バンド編成のツアーと、ふたりでのアコースティックツアーに加えて、YO-KINGはひとりで弾き語りの『マイクナシ』っていうツアーも始めたじゃないですか。

YO-KING:うん。単純にライブが好きで、「時間が許す限りライブをやりたいな」っていうのがあって。で、いちばん身軽でライブをやりやすいのはソロで弾き語り。しかも、なんならマイクもなし、ギターにシールドもなしで、ちっちゃい人数でやるライブもおもしろいなと思って。

――YO-KINGが『マイクナシ』を始めたのを知った時――30年くらい前かな、桜井さんが大学の卒業試験で動けなかった時、ひとりで弾き語りライブをやったり――。

YO-KING:ああ、やってたねえ。

――ソロのカセットテープを作って、勝手に西新宿の海賊盤屋で売ったり。『厄除け』でしたっけ、タイトル。

YO-KING:『厄除け』! よく覚えてるね。

――あの頃と近いのかなと。ゲリラっぽく、フットワーク軽く動く感じとか。

YO-KING:ああ、そう言われるとそうかもね。仕事でありながら趣味でやってる、みたいな。どこまで仕事でどこまで趣味か、ずっと線引きがないままやってきたけど、特に今はそれが強いかもしれない。このあいだ、福岡ドーム(みずほPayPayドーム福岡)でホークスのあとに4万人の前で「どか〜ん」をやって(8月2日、福岡ソフトバンクホークスのイベントで、北海道日本ハムファイターズ戦のあとにライブを行った)、次の日には50人の前で「どか〜ん」とかをやってるわけよ。そういうのはねえ、無性におもしろい。楽しい。

――そういう勢いも、このアルバムになだれ込んできたところはある?

YO-KING:ああ、あるかもね。あらためて、仕事って楽しいな、というか。イコールに点々が付いてるアレ(≒)、なんて言うの?

桜井:ニアリーイコール。

YO-KING:ニアリーイコールか。仕事≒遊び≒趣味、みたいな感じで。そういう意味では、仕事、楽しいなと思うね。マツコ(・デラックス)さんがよく言ってんじゃん、「結局仕事がいちばん楽しい」って。音楽を作るのがいちばん楽しい、それは認めざるを得ない。「アーカイビズム」(アルバム『GREAT ADVENTURE』収録/1996年)では、「聴くだけでオッケー」みたいなことを言ってたけど――。

――当時はよくそういうことを歌っていたし、インタビューとかでも言ってましたよね、「ずっと受け手のままでも楽しいと思う」とか。「JUMP」(ミニアルバム『time goes on』収録/1995年)の〈コーヒーを飲み音楽を聴いて マンガの山からCDの森まで/奥深く進んでく〉というのもそうだし。

YO-KING:そう。オタクが爆発していたんだよな、あの頃は。受け手でいいって思ってたけど、30年近く経ったら、受け手の人生も楽しいけど、やっぱり投げ手の自分があってこそのものだなって。

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