トゲナシトゲアリ、『ガルクラ』からデビュー1年強でCDチャートも好成績 令和を代表するアニメ発バンドの地位を確立

 8月28日にリリースされたトゲナシトゲアリの2ndアルバム『棘ナシ』が好調なセールスを記録している。オリコンデイリーランキングで初登場4位を記録した本作は、9月9日付週間ランキングにて2万5,571枚という好セールスで6位にランクイン。ダウンロードやストリーミングを含めた週間合算ランキングでも6位、Billboard Japanの9月4日公開Hot AlbumsおよびDownload Albums、Top Albums Salesではそれぞれ初登場5位という成績を残している。近年、アニメ作品に関連した音楽アイテムがCDランキングやストリーミングチャートで好成績を残しているが多くなっているが、トゲナシトゲアリのようなアニメとリアルでの活動が並行して進められるロックバンド、しかもデビューから1年強という新人がここまでの数字を打ち立てることは非常にレアなケースであり、アニメ同様にバンドとしても大成功といえる結果を打ち出したのではないだろうか。

 今年4月から6月にかけて放送されたテレビアニメ『ガールズバンドクライ』が放送を追うごとに話題を集め、その結果として劇中バンドのトゲナシトゲアリにも注目が集まったという話は過去のコラムでもしているが(※1)、今回のアルバムセールスにおいてもその余波がまだ続いていることが窺える。昨今はストリーミング中心に音楽シーンが回っていると言っても過言ではないが、そんな中でもアニメ界隈においては依然CDやBlu-ray/DVDといったフィジカルメディアが大切にされている。もちろんそこにはパッケージ限定の特典などが用意されているというのも大きいが、大好きなアニメ作品に関連する“アイテム”をそばに置いておきたいというファンならではの所有欲も影響している。と同時に、デジタルチャートでも高順位にランクインしているということは、純粋に楽曲が支持されているという表れとも言える。

 今回リリースされたニューアルバム『棘ナシ』はタイトルからもわかるように、今年4月に発表された1stアルバム『棘アリ』と対になる1枚と言えるもの。ただ、前作はアニメ放送開始前の活動で発表してきた楽曲群をひとまとめにした“『ガールズバンドクライ』前夜/前日譚”的な作品だったのに対し、今作はアニメの作中で使用された楽曲を軸に、『ガールズバンドクライ』という作品と連動した内容であることが大きな特徴だ。聴いているだけでアニメのオープニング/エンディング映像や、各エピソードのクライマックスなど名場面が脳内再生されるという方も多いことだろう。

TVアニメ『ガールズバンドクライ』ノンクレジットオープニング|トゲナシトゲアリ「雑踏、僕らの街」
TVアニメ『ガールズバンドクライ』ノンクレジットエンディング|トゲナシトゲアリ「誰にもなれない私だから」

 アルバムはアニメのオープニングテーマ「雑踏、僕らの街」、エンディングテーマ「誰にもなれない私だから」の2曲からスタートすることで、否が応でも気持ちが昂る。それぞれ楽曲単位で注目しても非常に個性的かつ特徴的な仕上がりであり、例えば「雑踏、僕らの街」は音楽プロデュースを手がけるagehaspringsの玉井健二をはじめとするクリエイター陣が、1stアルバム『棘アリ』までの活動で培った経験をすべて注ぎ込んだかのような高難易度な1曲であることからも、その肝入りぶりが窺える。170超の高速BPMに乗せて、曲冒頭では井芹仁菜役の理名(Vo)が言葉数の多い歌詞を早口で歌う……デビュー曲である1stアルバム『棘アリ』のオープニングを飾る「名もなき何もかも」から始まったこのスタイルこそ“トゲナシトゲアリらしさ”を表現する上で欠かせない要素のひとつであり、2ndアルバムも同じスタイルを踏襲するのは必然と言える。しかも、そういう曲をアニメのオープニングテーマとして用意したという事実も、『ガールズバンドクライ』を通してトゲナシトゲアリがどんなバンドなのかを伝えるという点においても非常に重要だ。

 さらに、この曲ではAメロに4分の6拍子が取り入れられており、疾走感と流麗さが際立つアレンジの中に引っ掛かり/違和感を作り上げることに成功。このAメロがあるからこそ、4分の4拍子に戻りながらも音数を減らしサビへ向けて盛り上げていくBメロがより映えることになる。日常的に耳にするJ-POPやヒットチャートを賑わすJ-ROCKというよりも、オルタナティヴロック的な香りが漂う「雑踏、僕らの街」はトゲナシトゲアリというバンドの成長が端的に表れた1曲と言える。

 また、この曲は歌詞においてもこれまでの楽曲同様、『ガールズバンドクライ』という作品およびトゲナシトゲアリというバンドを言い表す上で欠かせない、「物事がうまくいかずネガティブな言葉を吐き焦燥感に苛まれてしまう中、それでも現状を打破しようと一筋の光に向けて手を伸ばそうとする」物語の主人公の姿が端的に表現されており、それは井芹仁菜や夕莉(Gt)が演じる河原木桃香といった『ガールズバンドクライ』の登場人物が“僕らの街=(物語の舞台である)神奈川・川崎”で悪戦苦闘する姿と見事に重なる。と同時に、仁菜や桃香と同世代の、日々の生活を送る少年少女たちの日常とも重なるものがあるのではないだろうか。そういった現実とのリンクも含めて、この曲を含むトゲナシトゲアリの楽曲群が高く支持されているのだとしたら、現在の人気ぶりにも合点がいく。

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