怒髪天×the原爆オナニーズ、全力投球でぶつかり合う美学 『中京イズバーニング』独占レポート

 「スタレビから原爆まで対バンできるのは、日本で怒髪天だけなので、ぜひともご検討いただけますと幸いです」――こんな依頼を断れるわけがないでしょ。というわけで、怒髪天が2016年から名古屋で開催しているライブイベント『中京イズバーニング』の2024年版をレポートする。

 『中京イズバーニング』では、おとぼけビ~バ~、LAUGHIN' NOSE、THE BAWDIES、OUTRAGE、清春などなど......多岐にわたるバンドたちと対バンしてきた怒髪天。だが、冒頭にもあるように結成40周年を迎えた彼らは、さらにカオスとしか言いようのない活動状況に突入している。今年の春には、スターダスト☆レビューが主催する『音市音座』に出演し、アリーナ会場でスターダスト☆レビューや渡辺美里とのコラボを披露。それから5カ月、同じく名古屋で、今度はパンクレジェンド・the原爆オナニーズとライブハウスで対バンするのである。

the原爆オナニーズ
the原爆オナニーズ

 この2組が初めて共演したのは、もう30年以上も前、それも札幌でのことだ。まだ地元北海道で活動していた怒髪天は、ドラムの坂詰克彦はメンバーになる前で、客席からライブを見ていたとか。それから長い年月を経て、今度はthe原爆オナニーズのお膝元である名古屋で、しかも怒髪天の編成は、原爆とともにパンクシーンの黎明期を支えてきたアナーキーの寺岡信芳をサポートベーシストとして従えているのだから、長く活動を続けてきたからこそのめぐり合わせと言えるだろう。

the原爆オナニーズ

 まず登場したのはthe原爆オナニーズ。近年の彼らも、怒髪天に負けず劣らずライブ猛者たちとの共演を続けている。今年は2月のBRAHMANに始まり、THE TRASH、OLEDICKFOGGY、GARLICBOYSなどと対バン、今後も勝手にしやがれ、少年ナイフらとの公演を控えている。メンバーがステージに登場すると、TAYLOW(Vo)がわずかの間を置いてオーディエンスに笑みを飛ばす。「We Are 原爆オナニーズ!」。EDDIE(Ba)の硬質なベースラインが響きわたり、アクトは始まった。MCはほとんどなし。淡々と、だが着実にオーディエンスにビートが侵食していく。主要メンバーが60歳を超えているとは、にわかに信じがたいスピード感。そしてさらに驚かされるのが、the原爆オナニーズは良くも悪くもいつも安定感を保とうとしない。いつもアップデートを繰り返し、いつも違ったモード、そして、いつもバンドにも観客にも一定の緊張感を持たせる。結成40周年を超えるバンドにとって、これは驚くべきことで、そしてパンクやロックが目指すスタイルのひとつの答えがあるように思う。ラストナンバーは、イベントタイトルの元にもなった「発狂目覚ましくるくる爆弾」。最後までストイックなまでのパフォーマンスで会場を揺らし、ステージを後にした。

the原爆オナニーズ

the原爆オナニーズ

 転換を経て登場した怒髪天。一曲目の「歩きつづけるかぎり」が始まるやいなや、感じるのは今年からサポートとして加わった、寺岡信芳(Ba)のベースプレイの存在感だ。the原爆オナニーズから一転、歌をしっかり届けていくバンドのプレイを、寺岡が安定したテクニックで支えていく。バンドに起こった変化に対しての賛否は人それぞれだと思うが、少なくともこの日の冒頭で披露した数曲で、その変化による刺激と恩恵を多くのファンが楽しんでいることを確信した。

怒髪天

怒髪天
怒髪天

 怒髪天も、the原爆オナニーズと同じくいつもよりも少ないMCで、硬派に楽曲を紡いでいく。2バンドが初めて共演してからの30年以上の月日、そしてthe原爆オナニーズのストイックなパフォーマンスに呼応するように、増子直純(Vo)のパフォーマンスは熱い。その様子は、とても対バンのライブ時間とも思えない消耗度である。

怒髪天
増子直純(Vo)
怒髪天
上原子友康(Gt)

 「一択逆転ホームラン」「ロクでナシ」「令和(狂)哀歌」で会場を踊らせると、紆余曲折を経てきた彼らだからこそ説得力を持って聴かせられる「孤独のエール」「クソったれのテーマ」「ド真ん中節」と、怒髪天節のナンバーを続ける。一曲一曲噛みしめるように歌う増子の姿が印象的だ。怒髪天とthe原爆オナニーズ。楽曲のアウトプットはまったく違う。だが、自分の持ち味を恐れず叩きつける姿、全力投球、その日その場所のオーディエンスに向き合う初心。あの札幌の時から同一なまま、それぞれ変化を続けてきたのだ。

怒髪天
坂詰克彦(Dr)
怒髪天
寺岡信芳(Ba)

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