小林聡美が初コンサートで発揮した“ミュージシャン・マインド” 小泉今日子演出、貴重なステージ経験を振り返る

「埋もれた歌謡曲の伝道師」になったようで、ちょっとうれしい

ーーだけど、そこから「砂漠のタイムマシーン~東京ツタンカーメンズのテーマ~ ムーディーVer」という転換と衣装替えを経て、後半は「KISS~K・I・ダブルS」「黄色の世界」「サイケな街」で、一気に昭和サイケデリック・ワールドで爆発します。

小林:この辺は小泉さんから「振り切ってください」という指示もありました(笑)。これは遠慮してたら歌えない曲ですよね。前半に大変だった3曲よりもノリも激しいしもっと大変なはずなんだけど、勢いで行こう! という感じでした。

ーーライブの構成的にも、このあたりまでくればチャッピー小林の世界なら何でもありとお客さんも理解できていたのではないかと。

小林:そうなんでしょうか! 小泉先生がそんなふうに考えてくれていたのかも。

ーー「サイケな街」みたいなマニアック曲(もともと『KISS~K・I・ダブルS』のシングルB面)を選曲リストの候補に出すときも、小林さん的には何の躊躇もなく?

小林:そうですね。だって、変な曲だし面白いじゃないですか(笑)。でも、さっきも言いましたけど、聴いてて楽しい曲は歌ってて疲れるんです。大人のセットリストじゃないなと思いました(笑)。

ーーでも、その自由さが面白いですよね。みんなが知ってるヒット曲から、マニアックな昭和歌謡まで。

小林:チャッピーはタイムマシーンであちこち行っていて、持ち歌が無限に広がる設定なので。時代も年齢も超えていける。すごく自由な感じにできましたよね。

ーー最後は、舞台が横浜だったので横浜出身であるひばりさんとのつながりも紹介されてましたけど、そういう「何でも歌える自由な存在」の象徴としての、最後の美空ひばりさんパート(「車屋さん」「恋人よ我に帰れ Loveer come back to me」「お祭りマンボ」)の意味もあるのかなと思ったんです。コミックソングあり、ビッグバンドジャズあり、マンボあり。まるで、チャッピー小林の原型として存在していたような。

小林:そんな、ひばり様に対しておこがましいです。ひばりさんの歌は素晴らしいし、すごいなといつも思うばかりですね。ただ、ひばりさんの歌って、大ヒット曲以外にも面白いのがたくさんあるんですよ。

ーーありますよ。「ロカビリー剣法」とか。

小林:ツイストテイストの曲とかね(笑)。

ーーラストの「ブルー・ライト・ヨコハマ」が、歌とギターとパーカッションだけのアコースティックセットで、また素敵でした。あれを聴いて、お客さんもみんな満足したと思います。小林さんが最初に感じていた緊張感を解き放つ歌でもあったのかなと。

小林:ありがとうございます。リハーサルのとき、ラストが「お祭りマンボ」では(お客さんが盛り上がって)終わらないんじゃないかという話になり、「静かな曲を入れたら?」って小泉さんがひとこと言ってくれたので、この曲を。あとで、横浜の曲なら「よこはま・たそがれ」もあった、と思ったんですけど(笑)。でも、ここは「ブルー・ライト・ヨコハマ」でよかったです。

ーー東京ツタンカーメンズというビッグバンドとの演奏を通じて、特に印象的だったことは何ですか?

小林:とにかく、プロの方々はすごい! 楽器がただ鳴ればいいんじゃなくて、ひとつひとつにその人だけの表情があって、それを調和させて、歌とも合わせて、本番で音を出し合う。すでに上手いのに、すごく練習するんですよ。みんな「ミュージシャンはお気楽~」みたいに見せてるけど、とても真面目だし練習もする。積み上げてきたものにさらに磨きをかける姿勢に感動しました。ミック・ジャガーも矢沢永吉さんも、鏡のある練習室で練習してる映像とかあるじゃないですか。「みんな不良っぽいのに真面目にやってんだー、すごいなー」って思います。私は真面目なのが好きなので(笑)。

ーー歌っていた小林さんは、お膳立てされた雲の上に乗っていた気持ちよさだったんでしょうか? それとも、小林さんのなかでもミュージシャンとしてのマインドが発動して、音楽を一緒に作っていったのでしょうか?

小林:いや、もちろんミュージシャン・マインドですよ(笑)。人前で歌うのは初めてだったから、ミュージシャンのみなさんのようにできることは少ないですけど、そのときのベストでみんなの調和に乗っていきたいという感じはありました。「私が引っ張る!」というより、「みんなでいい音楽を届けましょう!」みたいな感じでした。私は責任感の無い次女気質なので(笑)。

ーーチャッピー小林と東京ツタンカーメンズのコンサートがこの一回限りなのは惜しいという声もいっぱいあると思うんですが。

小林:やってるときはその場限りというか、「チャッピーはラクダに乗って昭和に帰りました」というエンディングがあると思ってやりましたけどね。でも、そのあとで魔法が一気に溶けちゃった感じになっちゃって。歌わないから声も全然出さなくなったし、喉の煙突が詰まったみたい。体調的にもどうなんだろう、って気持ちにはなってます。ときどきは歌ったほうが、体にはいいかもしれないです。

ーーまだまだリストに選ばれなかった候補曲もたくさんありそうですしね。

小林:若い人たちから、私の歌ったセットリストから毎日スマホで聴いてますとか、曲名を知りたいとか言われると、自分が「埋もれた歌謡曲の伝道師」になったようで、ちょっとうれしいですけどね。そういえば、初日のライブの模様を翌日のワイドショーで紹介していただいたんですけど、そのなかで阿部さんとデュエットした「ナオミの夢」のインパクトがすごかったらしくて、「こういう別バージョンもある」とか「クリスタルキングも歌ってる」とか私にも阿部さんにもいろんなメールが来て、ひと盛り上がりしましたね(笑)。

ーーいつかまたタイムマシーンに乗って現代に帰ってきてください! そして、タイムマシーンといえば、8月にWOWOWの放送/配信で『あつまれ!夏の小林聡美まつり』と題して、小林さんが出演された映画、ドラマ、舞台、そして、チャッピー小林と東京ツタンカーメンズの初ライブなどが放映されます。

小林:私としては、ラインナップに『ゴジラVSモスラ』(1992年)が入ってるのが、ちょっとうれしいですね(笑)。「砂漠のタイムマシーン」にも「モスラ」という言葉が出てきて、オマージュみたいなところもありますので。

ーー特集のタイトルも素晴らしいです。

小林:昔、『百恵ちゃんまつり』みたいなイベントや特集があったじゃないですか。そういうイメージで、私から提案させていただきました(笑)。

<セットリスト>
M1 砂漠のタイムマシーン~東京ツタンカーメンズのテーマ~(新曲)
M2 若いってすばらしい(槇みちる、1966年)
M3 帰り道は遠かった(チコとビーグルス、1968年)
M4 そばにいて(ピンキー・チックス、1968年)
M5 そんな夢(麻里圭子、1968年)
M6 ふたり(つなき&みどり、1973年)
M7 ナオミの夢(ヘドバとダビデ、1970年)
M8 くれないホテル(西田佐知子、1969年)
M9 黄昏のビギン(水原弘、1959年/ちあきなおみ、1991年)
M9.5 砂漠のタイムマシーン~東京ツタンカーメンズのテーマ~ ムーディーVer(新曲)
M10 KISS~K・I・ダブルS(万里れい子、1968年)
M11 黄色の世界(J・ガールズ、1969年)
M12 サイケな街(万里れい子、1968年)
M13 車屋さん(美空ひばり、1962年)
M14 恋人よ我に帰れ Lover, Come Back to Me(美空ひばり/カバー)
M15 お祭りマンボ(美空ひばり、1952年)
M16 ブルー・ライト・ヨコハマ(いしだあゆみ、1968年)

■放送・配信情報
『小林聡美NIGHT SPECTACLES チャッピー小林と東京ツタンカーメンズ』
8月24日(土)午後8:00 
※放送・配信終了後アーカイブ配信あり
https://www.wowow.co.jp/release/007022

特集『あつまれ!夏の小林聡美まつり』
8月19日(月)~8月24日(土)
https://www.wowow.co.jp/special/021557

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