「石井恵梨子のライブハウス直送」Vol.3:プッシュプルポットの本気が放つ生の実感 剥き出しのまっすぐさ

 本人が照れてしまえばステージは台無しになる。どんな直球表現も、人生ごと懸けていると伝え切れたなら、それは誰にも奪えない説得力に変わっていく。もちろん、今ある命を全肯定する山口の歌詞は、13年前の震災が裏づけになっているところがある。ただ、被災の悲しみを引きずる子は皆無。むしろ今この瞬間だけを見つめる歌が多いので、それは密になって大声を出せるコロナ明けの喜びを象徴しているようにも感じられる。「基本、悪いことがあってもプラスに捉えちゃう」と山口が笑うように、憂鬱だったコロナ禍は、このバンドに逆の効果をもたらしたという。

「ちょうど社会人になって就職するメンバーもいて、以前ほど精力的に活動できなくなるタイミングだったんですよ。でも本当にコロナになってみたら、『何とかしなきゃ』『とりあえずやれること全部やりたい!』と思うようになった。そこからオーディションも本気で受け出して、ツアーも全部自分たちでライブハウスに電話かけるところから始めたんです。金沢にいてもツテも何もないし、教えてくれる先輩もいなかったから」(山口)

 この時、勢いで仕事を辞めたメンバーもいたのだから、最初はヤケクソ気味の見切り発車だったかもしれない。しかし、レーベルLD&Kと手を組んだ2021年以降はハイペースなリリースが続き、さらには年間120本を超えるツアーの日々が始まった。今年に入ると初の東名阪クアトロワンマン公演の成功、初の『京都大作戦』出演など、舞台は目に見えて大きくなっていく。

 そんな上昇気流を象徴するのがラストに披露された「バカやろう」だ。〈学校 仕事や バイトも全部/やりたくないこと今すぐ辞めて/逃げ出そうぜ〉と実体験を綴る歌い出しから〈今日を楽しまなくちゃ勿体ない/僕らでバカやろう〉というサビになだれ込むパンクロックは、今のプッシュプルポットの勢いを強く感じさせるもの。山口はそれまで持っていたギターを置いてハンドマイクでフロアに突っ込んでいく。罵倒の意味とは正反対、生きること万歳ソングとして響く「バカやろう」は、苦労や涙の痕跡を語る説教くささがないぶん、どこまでもカラッとすがすがしい。この勢いで、バンドが楽しいという実感だけを振り回して、どこまで進むのか。そう簡単には止められないうねりが、すでにライブハウスには起こっている。

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