鈴木真海子、気心の知れた仲間たちとの音楽空間 『mukuge』恵比寿ガーデンホール公演

 chelmicoのMamikoこと鈴木真海子が、自身の誕生日である6月26日にリリースした2ndソロアルバム『mukuge』を携え、同タイトルのワンマンライブを7月12日に東京・恵比寿ガーデンホールで開催した。

 幻想的なシンセサウンドが鳴り響く中、まずはサポートメンバーであるRyo Takahashi(Dr)、井上真也(Ba)、沼澤成毅(Key/Ob)、ESME MORI(Key)、そしてTiMT(Gt)がステージに上がる。

 chelmicoにも楽曲提供を行なっているピスタチオスタジオのryo takahashiは、前作『ms』に引き続き『mukuge』でも真海子を全面的にサポート。多くの楽曲でアレンジを手がけ、アルバム全体のムードを統一させることにも一役買った重要人物だ。一方、TiMTも『mukuge』に収録された「5月のうみ」を真海子と共に共作。さらに井上、沼澤、ESME MORIは、前回Billboard Liveで開催された真海子の初ワンマンツアー(2021年)でもRyo Takahashiとともにサポートを務めており、まさに気心の知れた仲間たちといえよう。

 一段高くなった段上に横並びとなった5人の姿に、周囲から「クラフトワークみたい!」と歓喜の声が。遅れて現れた真海子はブルーグレーのセットアップを身にまとっている。後のMCで彼女が明かしていたが、これは「うつつ」のミュージックビデオでダンサーのソラキ(THE D SoraKi)が着用していたものだ。

 一瞬の静寂の後、スリリングなベースラインに導かれ「EO」からライブはスタート。『mukuge』の最後に収録されていたこの曲は、アコースティックでブラジルミュージック色が濃かったアルバムの中で、ひときわ異彩を放っていた不穏なヒップホップチューンだ。そのまま1stミニアルバム『Deep Green』収録の「19」につなげ、音源ではローファイかつミニマルだったブレイクビーツを、オルガンサウンドを前面にフィーチャーした哀愁のラテンロック風味にアレンジしてみせた。

 「こんばんはー! 鈴木真海子です。よろしくね」と元気よく挨拶した後、『mukuge』の冒頭を飾る「うつつ」を披露。自宅にある傾いたサボテンを眺めながら、アコギを弾いているうちに生まれたというこの曲は、荒井由実の初期曲を思わせるような、可愛らしくも洗練されたメロディが印象的。一つひとつの言葉を確かめるように、丁寧に歌い上げる真海子の少しハスキーな歌声が心のひだに染み渡る。

 TiMTの弾くアコースティックギターから始まった「お酒を飲んだ夜」は、ブルックリンを拠点に活動するシンガーソングライター、メイ・シモネスとコラボしたアコースティックな楽曲。ライブでは途中からバンドも加わり、真海子の歌をそっと支えながらじわじわと盛り上げていく。それに呼応するかのような、アドリブのスキャットもたまらなくキュートだ。

 その後もパーシーことTOSHIKI HAYASHI(%C)と2018年に共作したソウルチューン「金木犀」や、リズミカルなピアノの上を、ほのかにビートリッシュなメロディが乗ったシャッフル曲「Come and Go」、ryo takahashiのガットギターを伴奏にしっとりと歌い上げた「kimochi」など、真海子の「メロディーメイカー」としての才能を、ひしひしと感じさせる楽曲を次々と披露していく。

 白眉だったのは、『mukuge』の中でもとりわけ印象的だった「5月のうみ」。広大な海が目の前に広がるような前半のアコースティックなセクションから(曲名の「うみ」は、「海」ではなく「膿み」なのだが)、日常の景色を切り取りながらも自己の内面へと深く潜っていくラップのセクションへ。寄せては返す波のように、「静」と「動」を行き来するダイナミックな演奏と、まるでストーリーテラーのような真海子のボーカル表現に、一遍の映画を見終わったような気分を味わった。

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