kiki vivi lily、鈴木真海子、みきなつみ……フィメールメロウラップの活況から昨今のトレンドを紐解く

 近年盛り上がりを見せている日本のラップミュージックシーン。いわゆるアンダーグラウンドのコアなものから、TikTokで爆発的に拡散されるものまで、その活況は幅広いフィールドに及んでいる。ストリーミングチャートの上位にもラップ作品を見かけることが多くなったが、特に近頃は、女性ボーカルによるゆったりとしたサウンドがトレンドになっているように思う。

 例えば、昨年リリースされたkiki vivi lilyのアルバム『Tasty』はその代表格と言えるだろう。遊び心のある可愛らしいサウンド、つぶやくような優しいボーカル、そして全体的に漂っているチルなムードが心地よい。まどろんだ休日の昼間や、気分の晴れない雨の日、疲れて帰宅した深夜など、日常のさまざまな場面に溶け込みそうだ。それでいてトラックのクオリティが高く、耳を澄まして鑑賞したくなる洗練さも兼ね備えている。

kiki vivi lily『Tasty』

 同じく昨年発表されたchelmicoのMamikoこと鈴木真海子のソロアルバム『ms』も同様のテイストを持っている。chelmicoで見せている弾けるようなポップさとは少々距離を置き、彼女がソロで放っているのは全体的にゆるりとした気怠げな脱力感。淡々としたリズムに宙に浮かぶような独特のトラックが面白い「Lazy river」や、ベッドルームポップな「judenchu」など、どこか力強さから逃れていくような楽曲が並ぶ。ひたすら肩の力が抜けたその姿勢は、もはやアンチマッチョイズムといった具合だ。

鈴木真海子『ms』

 作品数はまだ少ないが、抜群のセンスを見せているのが福岡出身のシンガーソングライター・I'm。レイドバックしたリズムにナイトグルーヴィンなサウンドが特徴の「Back Seat Memory」を始め、一歩ずつ大人へと成長していく気持ちを繊細でチルなサウンドのトラックに乗せた「BATHROOM」など、メロウラップど真ん中の楽曲を発表している。今後の活動が最も楽しみなアーティストの一人だ。

I'm - Back Seat Memory(Official Music Video)

 こうした優しい手触りが魅力のフィメールメロウラップ。先日リリースされたみきなつみの新曲「めんどくせ」もその一つと言える。

 元々はYUIをきっかけにシンガーソングライターに興味を持ち、ギターを弾きながらバンドサウンドをバックに歌っていたみきなつみ。しかし、女性3人の踊り手とコラボした「君にだけバレて欲しいな」や、女性ならではの視点で友情を描いた「GIRL」では、ギターを中心としながらも全体的に華やかなポップサウンドを奏でている。昨年発表した「ウシロマエ」ではラップを披露。静かなギターの爪弾きと軽やかな韻がよく絡んでいた。

みきなつみ/Miki Natsumi - ウシロマエ/Ushiromae(Official Music Video)

 1月26日リリースの「めんどくせ」は、そんな変化を辿ってきた自身の音楽性を、さらに一歩前へと進ませた一曲だ。社会との折り合いのつけ方に悩む自身のリアルな心情を、ユーモアを交えながらロックに、かつキュートに歌い上げたこの曲は、芯は尖りつつも表面上はまろやかな感触で仕上げている。ガーリーなピンクのイメージカラーや、ポップな意匠を纏ったサウンドは、まるで彼女がこの曲で歌う「処世術」のように目や耳に優しい。だが、一見気怠げに聴こえるビートには、MVやアートワークに登場する亀のように、周りに影響されずに自分は自分のスピードで生きていこうというある種の強い意志を感じる。駆け出しの時期から成熟期へ、ミュージシャンとして過渡期にある今現在の彼女のモードがよく表れているように思う。ギター一本で歌ういわゆる「ギタ女」への世間の関心が、現在はこの「フィメールラップ」へと移った感もあり、まさにこれまでの彼女のスタイルの変遷が時代の変化を象徴しているようだ。

みきなつみ/Miki Natsumi 「めんどくせ/Mendokuse」Official Music Video

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