“第二次シティ・ポップ・ブーム”で進む再評価 杏里、中原めいこらハイレゾ配信で集まる注目

“第二次シティ・ポップ・ブーム”までの流れを整理

 日本の70~80年代のシティ・ポップ(以下、日本のシティ・ポップ)が世界的に流行している――こんな話題を耳にするようになってから久しい。“第二次シティ・ポップ・ブーム”とも言われたこの現象は、もはや一過性のものではなくなり、新しい動きを見せながら、定期的にチャートを賑わせている。第二次シティ・ポップ・ブーム、もしくはそこから派生したネオ・シティ・ポップ・ブームは、様々な要素や世代を飲み込み、令和レトロという追い風とともに、新たなカルチャーとして成立しつつあるように思う。まずはこの“第二次シティ・ポップ・ブーム”の流れを簡単に振り返ってみたい。

「真夜中のドア~stay with me」/ 松原みき Official Lyric Video

 台湾などを中心に、2010年代後半から注目を集めていた日本のシティ・ポップ。そのブームの決定打となった1曲が「真夜中のドア~stay with me」(松原みき)である。2020年後半の時点で「アジアのクラブでキラーチューンとして定着している」と、日本と韓国を行き来し、クラブDJとしても日本と韓国のシティ・ポップを中心にプレイするプロデューサー/ミュージシャンの長谷川陽平氏が語っている(※1)。さらにその後、ブームは米国西海岸へ渡る。第二次シティ・ポップ・ブームは、逆輸入されるような形で、現在の日本の音楽シーンにも大きな影響を与えているが、その立役者の1人が韓国の音楽プロデューサー・Night Tempoである。2021年11月21日、彼がアメリカ・ロサンゼルスでDJをした際に「フライディ・チャイナタウン」(泰葉)で熱狂するフロアの様子を映した動画をTwitter(現X)に投稿すると、それが世界中へと拡散。2022年5月24日に原曲のサブスクリプション音楽配信サービスがスタートすると、日本国内でも一気にシェアされた。2022年6月には楽曲のシェア数がチャートに反映されるSpotify「Daily Viral Songs(Japan)」において、「フライディ・チャイナタウン」はチャート2位を獲得している。この時期の同チャートにはFRUITS ZIPPERや水曜日のカンパネラなども名前を連ねており、まさに群雄割拠の中でのトップ3入りだ。これは日本のシティ・ポップの逆輸入における象徴的なエピソードのひとつと言えよう。

 “シティ・ポップ”という言葉はもはや音楽ジャンルだけでなく、時代を背景にしたムードそのものを指すようになっている。こういった言葉の意味の広さも、第二次シティ・ポップ・ブームを継続させている理由だと考える。音楽マニア、クラブDJ、令和レトロ好きなど、複数の側面からディグることができるゆえ、これだけの広がりを見せたのだ。

2024年に入ってから一段ギアを上げて再生数を伸ばす杏里の楽曲

杏里 ANRI / オリビアを聴きながら [Official Video]

 そんな中で“第二次シティ・ポップ”という言葉が台頭し始めた頃から、その常連と言えるアーティストの1人がシンガーソングライター/歌手の杏里である。複数の楽曲が、継続的に安定して再生数を伸ばし続けている。1978年、17歳の時に「オリビアを聴きながら」でデビューした杏里には数々のヒット曲があるが、1983年にリリースされたテレビアニメ『キャッツ♥アイ』(日本テレビ系)の主題歌「CAT'S EYE」が有名だろう。自身初のオリコンシングルチャート1位を獲得した曲でもあり、同年末には『第34回NHK紅白歌合戦』に初出場し同曲を歌唱している。間違いなく杏里の代表曲のひとつであるが、注目してほしいのはサブスクリプション音楽配信サービスの再生数である。Spotifyだけで見ても「CAT'S EYE」よりも再生回数の多い、もしかすると桁違いの楽曲も数多くあるのだ。特に1983年12月に発売され、オリコンアルバムチャート1位となった『Timely!!』の収録曲の再生数が急上昇している。6月6日時点で、「WINDY SUMMER」が1700万回再生超え、「悲しみがとまらない I CAN'T STOP THE LONELINESS」が3100万回再生超え、「SHYNESS BOY」が1960万回再生超え、昨年からTikTokやリール動画のおすすめ曲、各サブスクリプション音楽配信サービスのプレイリストなどでもよく見かける「Remember Summer Days」に至っては3560万再生を突破している。他収録曲もすべて100万回再生を超えており、「DRIVING MY LOVE」は600万回再生、「STAY BY ME」「CAT'S EYE(-NEW TAKE-)」は400万回再生を突破している。

ANRI アンリ 杏里 ”Remember Summer Days” Timely!!🎤♪🎶🎸[Official Video]

 これらの楽曲は先述した通り“第二次シティ・ポップ・ブーム”における世界的な流行が要因として大きいが、実は2021年頃から続くこのブームのなかでも2024年に入ってからは一段ギアを上げる形でさらに再生数を伸ばしている。「Remember Summer Days」はメキシコ、インドネシア、カナダでの再生回数が増えており、これまで台湾・韓国・アメリカなどが中心だった“第二次シティ・ポップ・ブーム”からさらに広い国と地域に波及しているようだ。今のトレンドであるエレクトリックブギに通ずる少しラテンが入ったリズム、クリアでのびやかな歌声も、リアル杏里世代以外の年齢層に新鮮に響いているのではなかろうか。こういったさらなる注目を受けて、2023年には『Timely!!』と同年に発表されたアルバム『Bi・Ki・Ni』も含め杏里が満喫できる4タイトルのハイレゾ配信もスタートしている。彼女のレーベルメイトであり、1980年代初頭に注目を集めた川口雅代、テレサ野田のハイレゾ配信も始まったので、興味のある人は是非そちらもチェックしてみて欲しい。

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