現在のVOCALOID人気を牽引するコンテンツのひとつである、スマートフォン向けゲーム『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』（以下、『プロセカ』）。ボカロ黎明期の人気を支えた楽曲から、今まさにジャンルの最前線をひた走る新進気鋭のボカロPによる新曲まで。実に多彩なVOCALOID曲でゲームをプレイできる点も魅力だが、そんな『プロセカ』で今とある楽曲の異例の実装が話題を集めている。

　今回2024年5月に開始されたのは、VOCALOIDとともにニコニコ動画黎明期を支えた『東方Project』（以下、『東方』）とのコラボ。この企画により、『東方』関連曲から「超最終鬼畜妹フランドール・S」「Bad Apple!! feat.SEKAI」「Help me, ERINNNNNN!!」の3曲が、リズムゲーム楽曲としてアプリに収録・配信開始となった。

　インターネットカルチャーに長年親しむ人々にはもはや説明不要だが、『東方』とは同人サークル・上海アリス幻樂団が手掛ける、PCゲームを中心とした各種コンテンツとなる。

　幻想的な世界観や個性豊かなキャラクター、華やかな画面演出から挑み甲斐のあるゲームシステム、完成度の高いBGMなど、多彩な魅力から非常にバラエティ豊かなメディア展開を今なお続けており、その歴史はまもなく30年を迎える。VOCALOIDと同様、コンテンツの二次創作に対し従来から寛容な風土が根付いている点も、その人気拡大に大きく作用していることだろう。

　『東方』とVOCALOIDというカルチャーにおける二大コンテンツによる今回のコラボ。中でも従来から『東方』ファンのみに留まらない知名度を誇る楽曲「Bad Apple!! feat.nomico」を大元とした「Bad Apple!! feat.SEKAI」は、公式YouTubeチャンネルで公開されたMVがわずか3日間で100万再生を突破。その注目度の高さが如実に表れている。

　今回のコラボで原曲そのままの収録でなく、本家『東方』の魅力を踏襲しつつ、プロセカナイズドされた形で楽曲が登場した点も、注目を集めた一因だろう。歌唱を担当したのはアプリ内ユニット・25時、ナイトコードで。だ。原曲にあたる「Bad Apple!! feat.nomico」版の映像として最もよく知られる影絵PVを踏襲した2DMVも、25時、ナイトコードで。というユニットそのものやメンバー各々が抱えるバックグラウンドと闇に、詞の内容を巧みにリンクさせた映像だ。今回のプロセカ起用において25時、ナイトコードで。の面々が楽曲にこれ以上ない適任であることも、本MVからは伝わってくる。

　編曲についても、ビートまりお×まろんやMasayoshi Minoshimaといった長年『東方』シーンで活躍し続けるクリエイターと、ピアノの「弾いてみた」のみならずボカロPとしても活躍するまらしぃが担当。両カルチャーのコラボとして一切不足のない、盤石の布陣が揃っている。

　ここで言及しておきたいのは、今回のプロセカにおけるコラボは“VOCALOIDシーンへの『東方』楽曲の一方的な流入”のみに留まらない現象だという点だ。『東方』とVOCALOID双方のシーンに対する相互作用が起こっていることも注目すべき点であり、その象徴となるのが「Bad Apple!! feat.SEKAI」と同時収録された「超最終鬼畜妹フランドール・S」「Help me, ERINNNNNN!!」の存在である。

　今回アプリ実装された曲は事前に明かされていた通り、アレンジャー・ビートまりおを中心としたチームによってすべて新規編曲が施されている。もともとこの2曲に対するアレンジや、「ウサテイ」「ナイト・オブ・ナイツ」をはじめとした『東方』アレンジ曲の名手として名高い彼の起用にも、『東方』本家へのリスペクトを感じたリスナーも多いことだろう。