『ガールズバンドクライ』迷い悩む少女たちの物語を照らし出す トゲナシトゲアリ、1stアルバム全曲レビュー
6.黎明を穿つ
『Girl's Rock Audition』開催時から存在しており、メンバーは課題曲として早くから練習していたという。「理想的パラドクスとは」に続いてキクイケタロウが作詞・作曲(作詞はMumeiとの共作)を担当しており、穏やかなオープニングからサビで一気に爆発するバンドアレンジ、メロディの高低差など確かな表現力が求められるほか、2番Bメロ後には楽器隊の見せ場が凝縮されたハイライトも用意。一見シンプルなようで実はかなり奥深い1曲と言える。
7.極私的極彩色アンサー
結束バンド「ひみつ基地」「忘れてやらない」などの作曲で知られる吉岡大地が手がけたこのミディアムナンバーは、個々の力量が試されるという点では「黎明を穿つ」に引けを取らないほど高難易度。気怠く囁くような序盤から徐々に熱を帯びていくボーカル、そのバックで各プレイヤーが細やかで主張の強い音を奏でながら一体感を生み出していく構成など、バンドの急成長ぶりを確認する上でも打ってつけの楽曲ではないだろうか。
8.傷つき傷つけ痛くて辛い
冒頭の感傷的なピアノフレーズからバラードを想像するも、実はダンサブルな4つ打ちビートを導入したアップチューン。「理想的パラドクスとは」「黎明を穿つ」に続き三度キクイケタロウが作詞・作曲を手掛けており、裏声を多用するキー高めで流れるようなメロディ、全面的にフィーチャーされた難易度の高いピアノプレイ、そうした要素を下から支えつつも隙あらば存在感の強さを発揮させる各パートの個性など、約3分の中に聴き逃せない要素がたっぷり詰め込まれている。
9.運命に賭けたい論理
JUJU「一線」(トモ子との共作詞)、ミライスカート+「MIRAI ROCKET」や佐藤日向「キミだけ見てたい」(ともに作曲)などを担当してきたカイザー恵理菜の作詞・作曲による本作品は、そのキャッチーなメロディと爽快感の強いバンドアンサンブルの質がさらに一段階上がっていることに気付かされる。明らかにライブ映えを狙ったであろうその王道感も含め、これからの彼女たちにとって「名もなき何もかも」や「爆ぜて咲く」同様切っても切り離せない代表曲になりそうだ。
10.サヨナラサヨナラサヨナラ
プロデューサーの玉井が「トゲナシトゲアリなりの『紅』(X JAPAN)(※1)」と語る、バンド史上最速ナンバー。「運命に賭けたい論理」同様カイザー恵理菜が作詞・作曲を手掛けている点でも、本作リリース後に控えていた1stワンマンライブ『薄明の序奏』(3月16日開催)へ向けた“必要なピース”だったと言える。また、1曲通して高速ビートというわけではないので、歌や演奏面での緩急の付け方やメリハリの付け方も重要になってくるので、テレビアニメ『ガールズバンドクライ』放送開始前最後の難関でもあったのか……との側面もある気がしている。
以上10曲をソングライティングやアレンジ面中心に解説してきたが、各楽曲で綴られている歌詞についても改めて触れておく。中卒で親元を飛び出し単身上京した井芹 仁菜、音楽の道を一度は諦めかけた河原木桃香など、それぞれ迷い悩む少女たちが、葛藤を乗り越えて夢に向かって一歩踏み出す様が描かれた各楽曲は、『ガールズバンドクライ』に登場するメインキャラクター5人の心情と重なるところも多く、ある意味ではテレビアニメのサイドストーリー的内容とも言える。『ガールズバンドクライ』とあわせて本アルバムを楽しむことで、テレビアニメの世界観や登場人物の抱える複雑な心情をより深く理解することができるのではないだろうか。
全10曲で約32分、1曲平均で3分前後(最短が「極私的極彩色アンサー」「サヨナラサヨナラサヨナラ」の約2分半、最長が「理想的パラドクスとは」の約3分50秒)というコンパクトさは現代的なもので、密度が非常に高いというのもボカロ文化以降のそれと重なるものがある。昨今のバンドシーンやアニメソング界隈、ネット音楽文化との共通点を持ち、たった1年で独自の個性を開花させたトゲナシトゲアリは、アニメのOP主題歌/ED主題歌を収録した6thシングル『雑踏、僕らの街』、7thシングル『誰にもなれない私だから』のリリースを5月22日に控えている。トゲナシトゲアリというバンドを知るための入門編としてはもちろんのこと、『ガールズバンドクライ』プロジェクトの軸を理解するという点でも、この『棘アリ』というアルバムは必聴の1枚だと断言したい。
※1:https://realsound.jp/2024/02/post-1582956.html
※2:https://realsound.jp/2023/09/post-1440171.html
※3:https://realsound.jp/2024/03/post-1614160.html
■リリース情報
トゲナシトゲアリ『棘アリ』
2024年4月24日(水)リリース
初回限定盤:CD+Blu-ray UMCK-7238 ¥4,950(税込)
通常盤:CDのみ UMCK-1766 ¥3,300(税込)
https://togenashitogeari.lnk.to/togeari_cd
<CD収録内容>
01.名もなき何もかも
02.偽りの理
03.気鬱、白濁す
04.理想的パラドクスとは
05.爆ぜて咲く
06.黎明を穿つ
07.極私的極彩色アンサー
08.傷つき傷つけ痛くて辛い
09.運命に賭けたい論理
10.サヨナラサヨナラサヨナラ
<Blu-ray収録内容>
CD収録曲全10曲のミュージックビデオ
<初回プレス分封入特典>
トレーディングカード(メンバーソロ絵柄5種+全員絵柄1種 合計6種のうち1種)
■イベント情報
『トゲナシトゲアリ オリジナルアルバム「棘アリ」発売記念
TVアニメ「ガールズバンドクライ」<第8話>振り返り上映会』
2024年5月25日(土)
<第1部>14:00
<第2部>17:00
会場:東京・アニメイトシアター(アニメイト池袋本店 B2F)
■関連リンク
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