DURDN、パーソナルな感情に寄り添ったEP『Komorebi』 充実の2023年を経て目指したビジョン

 トラックメイカー SHINTAとトップライナー yaccoによるプロデュースデュオ・tee teaが、韓国をルーツとするシンガー Bakuと結成したDURDN。昨年はSpotifyの公式プレイリスト「RADAR: Early Noise 2023」に選出され、TVアニメのエンディングテーマや主要フェスへの出演、そしてワンマンライブの開催などを通して大きく飛躍した彼らが、今年初のEPとなる『Komorebi』をリリースした。本作は、「1日」をテーマに早朝、朝、昼、夕方、夜、深夜とそれぞれの時間帯をモチーフにした楽曲が並ぶコンセプチュアルな作品。夕方をイメージし制作された楽曲「Pretense feat.李浩瑋 Howard Lee」ではゲストに台湾のアーティストであるHoward Leeを迎えるなど、その音楽性をさらに拡張しつつもDURDNらしさが色濃く反映された1枚に仕上がっている。今回リアルサウンドでは、メンバー3人にEP制作エピソードはもちろん、今年5月の初のアジアツアー『DURDN 1st Asia Tour Komorebi』や6月からのワンマンツアー『DURDN Live Tour 2024 “Komorebi”』に向けた意気込みなどをたっぷり語ってもらった。(黒田隆憲)

DURDN - EP「Komorebi」Trailer

パーソナルな実体験と結びついた“木漏れ日”という言葉

――昨年はDURDNにとって飛躍の年だったと思います。改めて今、どのような心境でいますか?

SHINTA:「RADAR: Early Noise 2023」に選出していただいたこともそうですし、念願だったタイアップ(「My Plan」でアニメ『Buddy Daddies』のエンディングテーマを担当)を年初から叶えることもできました。フェスに関しても、望んでいた場所で演奏できて本当に充実した1年だったと思いますね。ワンマンライブは3公演行ったのですが、DURDNを好きで聴いてくれている人が、こんなにいるんだということを改めて実感できて嬉しかったです。それもあって今回のEPは、DURDNのことをより濃く知ってもらいたいという気持ちで制作に臨むことができました。

yacco:「RADAR: Early Noise 2023」がきっかけとなって、昨年は一般のリスナーだけでなく音楽関係者の方々の耳にも、私たちの音楽が届くようになったのかなと。いろいろなフェスにお声がけいただいたり、こうやってインタビューしていただいたり、稼働も露出も前年よりぐっと増えました。私もSHINTAと同じく、充実した1年だったなと思います。がむしゃらに動いてきた分、今年は一つひとつにしっかりと意味や意義を見出しながら取り組みたいです。その第一弾が今作だと思っています。

Baku:DURDNとしての1年は、2人と同じ気持ちです。個人的には音楽に対する向き合い方も、これまでとは大きく変わりました。例えば最近は自分の声以外の楽器にも意識が向かうようになったというか。「ベースはこんなフレーズを弾いているんだ」「ドラムはこんな音色なんだ」みたいなことを考えられるようになり、同じ曲を聴いても以前とは違う響き方に感じるようになりました。トラックを作った人の意図、例えば「ここではどんな楽器を使って、どんなことを表現しようとしているのか?」みたいなことを、これからも集中して聴くようにしていきたいです。

――そんな2023年を経て完成した、初のコンセプトEP『Komorebi』にはどんなテーマやコンセプトがあったのでしょうか。

yacco:EPとして明確なコンセプトが決まったのは、最初に「PRIDE」という楽曲を仕上げたときでした。この曲には“まだ日が昇る前の早朝”という、はっきりとした情景がイメージできていたんです。そこからEPとして意味のある作品にしようと思ったとき、朝、昼、夜と1日の流れを楽曲で表現したら面白いんじゃないかと。

――『Komorebi』というタイトルの由来は?

yacco:タイトルは最初すごく悩んでしまい、全然決められなかったんです。日本語のタイトルにしたいとは思っていたのですが、ジャケット(写真)に入れたときにローマ字表記の方がバランスはいいのかなと。ただ、1日の流れを表現するローマ字表記がなかなか見つけられず、1カ月くらい悩んでいました。それで、あるときにふと“木漏れ日”という言葉が思い浮かび、これは1日の流れを表す比喩表現としてすごくいいのではないかと。言葉の響きも綺麗ですし、内容にもマッチしていると思ったので、このタイトルにしました。

――木々は日々成長を繰り返し、そこに当たる陽の光も刻一刻と変化する。同じように見えて常に違う模様を作り出す木漏れ日に、1日たりとも同じ日はない日常を重ね合わせたのですね。

yacco:おっしゃる通りです。

yacco

――僕はこのタイトルを見たとき、昨年公開されたヴィム・ヴェンダース監督の映画『PERFECT DAYS』を思い出したんです。あの映画でも“木漏れ日”が、同じような意味の象徴として取り上げられていました。

yacco:実は私も、このタイトルが決まった1週間後くらいに『PERFECT DAYS』を観に行ったんです。観終わった直後はそれほど大きな感動はなかったんですけど、帰宅してベッドに入った瞬間どっと感情が押し寄せてきて。「自分はあんなふうには生きられないんだろうな」と思ったら、なんだかすごく辛くなって。そういう意味では、このEPと『PERFECT DAYS』は、どこかリンクする部分があるかもしれないです。

――では、1曲ずつ聞かせてください。まずはその「PRIDE」ですが、どのように作っていきましたか?

yacco:いつもDURDNではSHINTAがトラックを作り、そこに私がトップライン(メロディ)と歌詞をつけていく流れで曲を完成させているんですけど、この「PRIDE」では私の中にコード進行やテンポ感、ビート感など明確にイメージがあったので、それをSHINTAに伝えるところから始まりました。

 歌詞だと、例えば〈ボロボロの服 ボロボロの靴/口座の貯金も底をついてますけど〉という部分は、私自身の実体験というか……幼少期のトラウマみたいなものと向き合いながら書いています。「その頃自分が欲しかったものは、お金じゃなかったのに」という思い。とはいえ、ここで歌っている〈豊かな人生〉とは何なのか、私自身まだ正解を見つけられていなくて。例えば1年前に考えていたことと、今思っていることは全く違っていたりするから、模索している最中でもあるんですよね。

SHINTA:この曲のトラックは、なるべく音数を絞り込んでシンプルにしていきました。DURDNの曲作りでは宇多田ヒカルさんの楽曲がリファレンスに上がることが多いのですが、この曲もその一つです。

SHINTA

――朝靄の向こう側から聴こえてくるようなギターソロも印象的です。

SHINTA:今回のEPの中でも、この曲のギターソロは特にお気に入りなので嬉しいです。まだ日が昇っていない、薄暗い海の向こうから聴こえてくるようなサウンドをイメージしながら音作りをしました。

――目覚まし時計のアラーム音から始まる「Alarm」は、夢の中と現実の狭間にいるような感覚を音像化しているなと。歌詞も、yaccoさんらしい言葉遊びがふんだんに盛り込まれていますよね。

yacco:ありがとうございます。DURDNのメンバーは、集まるとよく夢の話をしているんです。「昨日、こんな夢を見たんだよ」って。それを歌詞にしたいと思ったのが、この曲を作るきっかけでした。みんな怖い悪夢を見るんですよね。

SHINTA:そうそう。しかも、見終わってすぐ夢占いをやるんですよ(笑)。

yacco:あと、私自身はSF映画ってほとんど通っていないんですけど、Bakuが結構いろいろ観るので歌詞に入れています。それからディズニー映画。この曲を作っているときに、ちょうど『マイ・エレメント』を観てめちゃくちゃ感動したので、ああいうファンタジー的な要素も入れようと思いました。

SHINTA:僕はArctic MonkeysのようなUKロック、レッチリ(Red Hot Chili Peppers)のようなオルタナティブロックへの熱が再燃していた時期だったので、ギターはそれこそジョン・フルシアンテへのリスペクトを込めたつもりです。

Baku

――ショートディレイやファズを通したギターの音色も印象的ですが、ソロではパンで音を左右に飛ばすなど遊び心も随所に感じます。

SHINTA:ありがとうございます。二度寝を繰り返しているうちに悪夢になっていく状態を、ギターで表現してみました。

Baku:僕は、サビの〈一瞬で〉の裏声で歌う部分がなかなか上手く表現できずに苦戦しましたね。いつも裏声は空気多めで薄く出すやり方なんですけど、この曲はファルセットのすぐ後に濃いめの地声がくるので、それだと裏声の印象が薄くなってしまう。なので、いつもよりも濃いめの裏声を出すことによって、地声との繋ぎがスムーズになるよう工夫しています。

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