連載『lit!』第98回:米津玄師、BUMP OF CHICKEN、幾田りら&ano……今春の映像作品を彩るロック5作品

ano「絶絶絶絶対聖域 feat. 幾田りら」

 映画『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 前章』の主題歌。まず、映画における幾田りら&あのの声の演技がとても素晴らしかった。幾田が声優にチャレンジするのは、2021年の公開『竜とそばかすの姫』以来で今回が2度目。『竜とそばかすの姫』の時点ですでに彼女の声優としてのポテンシャルは存分に発揮されていたし、一方、あのは今回が声優初挑戦ではあるが、レギュラーのラジオ番組『あののオールナイトニッポン0(ZERO)』(ニッポン放送)のコーナー「あのアニ」で、毎週底知れぬ声優スキルを爆発させ続けている。そうした経緯があったので、今回の映画におけるふたりの声の演技に対する期待は際限なく高まっていたが、実際に作品を観てその期待を上回る堂々とした名演に痺れた。

ano feat. 幾田りら 「絶絶絶絶対聖域 」Music Video

 特に驚かされたのは、ふたりの声の相性の素晴らしさだ。そしてそれは、ふたりが歌唱を務めた主題歌にもそのまま反映されている。作曲編曲を手掛けたのは、TK(凛として時雨)。TK節が容赦なく炸裂したダンスロックチューンで、その轟音に負けじと彼女たちが豪快にシャウトをしまくる展開がたまらない。そして、ふたりの声が美しく重なった時に生まれる鮮烈な響きが深く胸を打つ。一般的に、複数のボーカリストがコラボレーションする楽曲では、違う声同士のハモりを聴かせどころとして強調するケースが多いが、この曲の後半以降、お互いの声を求め合うようにして彼女たちがひとつに重ね合わせ続けながら怒涛のラストへと向かっていく。その展開に、幾田りら演じる小山門出とあの演じる中川凰蘭の“絶対”的な関係を感じた原作ファン、映画の観客は少なくないと思う。また、あのが綴った歌詞は、原作に対する深い理解と愛に基づいていて、〈革命前夜はあいつのキモいとこ言おう〉〈地球が壊れたよ 二人で空飛ぼう♪〉をはじめ、全編にわたってパンチラインが溢れている。昨年末から今年にかけて、「鯨の骨」、「YOU&愛Heaven」というキラーチューンとも言うべき自作曲が連続してリリースされている流れもあり、あののクリエイティビティの爆発から引き続き目が離せない。

幾田りら「青春謳歌 feat. ano」

 5月24日公開予定の映画『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 後章』の主題歌。『前章』の主題歌「絶絶絶絶対聖域」がano名義の楽曲だったのに対して、こちらは幾田りら名義の楽曲で、作詞作曲も彼女が手掛けている。映画で描かれるのは、日常と非日常、平時と有事が複雑に絡み合う世界であり、それに照らし合わせて言えば、“非日常”にフォーカスした楽曲が「絶絶絶絶対聖域」で、“日常”にフォーカスした楽曲がこの「青春謳歌」であると位置づけることができる。サウンドのテイストも、前者が切実な破壊衝動に満ちた重厚なロックだったのに対して、この曲では軽快に弾ける親しみやすいバンドサウンドに。そのうえで歌われる“日常”を紡ぐ言葉たちはあたたかな普遍性を帯びている。たとえば、歌い出しの〈炭酸が抜けてるソーダみたい/甘ったるくてもう飽きた/手応えのひとつすら/感じられない毎日です〉という一節は、誰しもが記憶のなかから思い起こすことができるような普遍的な青春の風景であると思う。ただ、やはり映画『デデデデ』の主題歌というだけあって、単なる“日常”を描くポップスに終始しないのがこの曲の肝である。

幾田りら feat. ano「青春謳歌」Official Music Video

 〈いつの日かそんな欠片が煌めくのです〉という一節は、青春の季節は永遠には続かないことを予感させ、また、〈初めからずっとこの世界は/どこか壊れていたの〉という一節は、“日常”と“非日常”が並存する世界の不穏さを表している。ただ、そうしたカオスな世界をタフに生き抜くポジティビティを持っているのが小山門出と中川凰蘭であり、〈誰も彼も信じられない世界で/君がくれた“絶対”だけは/嘘がないって分かるから〉という一節には、彼女たちの揺るぎない絆が滲んでいる。『デデデデ』の物語の本質をまっすぐ射抜いた素晴らしい主題歌であると思う。とはいえ、今回の映画では、原作とは異なるエンディングが用意されることがアナウンスされているため、実際にこの曲がエンドロールでどのような響き方をするのかは現時点ではまだわからない。期待して『後章』の公開を待ちたい。

コレサワ『日々愛々』

 バラエティに富んだ全7曲を収録した、コレサワの最新ミニアルバム。昨年リリースの「♡人生♡」、超ときめき♡宣伝部へ提供した「最上級にかわいいの!」がTikTokなどのショート動画を中心にで大きなバズを巻き起こしており、大きな注目が集まるなかでの新作となった。昨年、「♡人生♡」を初めて聴いた時、自らの信念をまっすぐ貫いて生きることを高らかに歌う同曲のメッセージに強く心を動かされたことを今でもよく覚えている。この『日々愛々』にも、想いをまっすぐに伝える楽曲が多数収録されていて、やはりと言うべきか、そのほとんどが(もしくは、解釈の仕方によっては“すべて”が)恋愛をテーマにしたものである。

コレサワ「君がおじいちゃんあたしがおばあちゃん」【MUSIC VIDEO】

 特筆すべきは、現在放送中のアニメ『じいさんばあさん若返る』(TOKYO MXほか)のオープニング主題歌「君がおじいちゃんあたしがおばあちゃん」だ。サビの前半では、〈君がおじいちゃん あたしがおばあちゃん/なんて最高な未来よ/どんな風に変わったって側にいてあげるもん〉というように、どれだけ年を重ねても決して果てない愛情が歌われている。それはサビの後半も同じなのだが、最後に〈君のせいでこの愛が 最後の愛なんだから/最高の愛なんだからね〉という凄みの効いた一節があり、これこそまさに唯一無二のコレサワ節である。死ぬまで恋をし続けることこそが、この曲の主人公にとっての生き様、人生であり、たとえどれだけ自分と相手が老いたとしても恋はまだ終わっていないし、終わることはない。そうした恋愛観/人生観があるからこそ、一緒に年を重ねていくことをポジティブに捉えることができるのかもしれない。これまでもコレサワは多彩なラブソングの数々を生み出し続けてきたが、今回タイアップという形でまた新たな扉が開いたことに驚かされたし、これから生まれる新曲への期待がますます高まる。

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