椎名佐千子、2年ぶりシングル『いごっそ海流』で聴かせる力強さ 新曲に詰め込んだ想いを語る

 演歌歌手の椎名佐千子が、4月17日(シイナの日)に約2年ぶりのシングル『いごっそ海流』をリリースした。高知県の土佐を舞台に、鰹の一本釣りに命を賭けるたくましい漁師の姿を歌った「いごっそ海流」で、アツい歌声を聴かせている。カップリングには迷宮都市モロッコで男性の面影を追う「カサブランカホテル」、椎名の地元である千葉県旭市への思いを自身で綴った「マイホームタウン」を収録。彼女の歌声の魅力が詰まったシングルになった。各楽曲への思い入れはもちろん、衣装へのアレンジ欲やかつてのギャル時代の話など、多彩な話題で椎名佐千子の素顔に迫った。(榑林 史章)

落ち込んだり不安を感じた時はいつも海を眺めて慰めてもらった

――約2年ぶりのシングル『いごっそ海流』がリリースされます。リリース発表の動画は、新幹線のなかで撮影されていましたね。

椎名佐千子(以下、椎名):スタッフさんから発売日の決定を移動中の新幹線で聞きまして、一刻も早くファンの皆さんにお知らせしたいと思ったら駅まで待てなくて(笑)。一分一秒でも早くお知らせしたくて、新幹線のなかでカメラを回しました。公共の場でしたので、他の乗客の方のご迷惑にならないようにと思って、それでちょっと小声だったのですけど。

――ファンの皆さんはさぞ喜ばれたことでしょうね。

椎名:そうなんです。発売日が決まって、私も「ようやく皆さんにお届けできる!」と思って、とてもうれしかったです。

――発売日が4月17日で、“シイナ”と語呂合わせができるのも、あえてそういう日を狙ったのですか?

椎名:いえ、実は偶然なんですよ(笑)。ステージで日付を発表させていただいたら、ファンの方が「“シイナ”って読めるね!」と客席から言ってくださって、そこでハッと(笑)。

――なるほど(笑)。2年ぶりのリリースというのは、率直にいかがですか?

椎名:少し前まではコロナ禍だったり、私自身も歌手生活のなかで環境が変わったり、「このまま次の作品を出せないんじゃないか……」と弱気になった時もありましたので、発売日が決まった時はとてもうれしかったです。

――昨年のバースデー配信の時に、新曲のリリースとファンクラブ設立を宣言していて、どちらも有言実行できてよかったですね。

椎名:ありがとうございます。待っていてくださる皆さんをとても不安にさせてしまっていたと思いますし、なんとかして早く安心させてあげたいと思っていたので、本当によかったです。

――新曲「いごっそ海流」は、前作の「面影みなと」とは一転パワフルな演歌です。

椎名:私自身「面影みなと」のようにしっとりと演じられる作品は好きなんですけど、いろいろなタイプの歌の主人公がいるなかで、勇ましかったり男らしい作品を演じることも大好きなんです。そういう意味で「いごっそ海流」はまさしく私らしい楽曲で、椎名佐千子というものを100%で表現できる楽曲になりました。

【ミュージックビデオ】椎名佐千子『面影みなと』

――こういう楽曲は、漁師歌と言うのでしょうか。

椎名:そうですね。“海もの”と呼んだりもします。曲名の「いごっそ」は、土佐弁で「気骨のある男」「酒豪」「頑固者」といった意味があります。歌詞のストーリーとしては、港で待つ大事な人のことを思いながら、そのことさえも力にして、荒れる海に命賭けで漁に出る――そんな歌です。私自身“海もの”がとても好きで、出身地である千葉県旭市も銚子港の少し手前で海がすごく近いので、子どもの頃から海で遊んでいて、落ち込んだり不安を感じたような時はいつも海を眺めて慰めてもらっていました。今回の楽曲は高知の土佐が舞台ですが、海をお守りにしてじゃないけど、心強い気持ちで歌っています。

――でも、どうして高知県の土佐を舞台にしたのですか?

椎名:高知県土佐市にある足摺岬が歌の舞台で、断崖絶壁に波がぶつかる荒々しさがあるんです。そういった力強さが、聴いてくださる皆さんに力を与えてくれるのではないか、と。年明けから日本では大変なことが起こって、ご苦労なさっている方がいまだにたくさんいらっしゃいますが、そんな時代に「一緒にがんばっていきましょう」という、応援のメッセージも込めて歌わせていただきました。

――土佐というと鰹の一本釣りが有名で、揺れる甲板で波を頭からかぶりながらどんどん鰹を釣っていく映像を観たことがあります。「いごっそ海流」を聴くと、その過酷さや逞しさが目に浮かびます。

椎名:そうですね。歌詞にも〈しなる太竿(オッショイ)一本勝負〉というフレーズがあり、荒れ狂う波を〈ザンザザンザ〉という擬音で表現していて。波をかき分けて進む様子や、大漁旗を掲げて戻ってくる様子が浮かびますし、港で待っている大事な人と飲み交わしたいといった気持ちも感じられます。私自身の思いとも重なる部分が多くて、すごく勢いのある楽曲でもありつつ、歌っていてジーンとする部分やグッとくる部分もあります。

――鰹のタタキで日本酒が飲みたくなります(笑)。

椎名:いいですね(笑)! コンサートで「新曲の舞台は高知の土佐です」というお話をしたら、「高知市にある“ひろめ市場”にぜひ行ってみてください」とすすめていただきました。魚と地酒が美味しいそうなので、絶対行こうと思っています。

――お好きですね(笑)。

椎名:大好きです(笑)。

――でも、「いごっそ」は男性に対して使う言葉ですよね。

椎名:「性格が男っぽい」と言われることが私自身多くて。「やってやるぜ!」という、ある種の男気を感じるそうで、「さっちゃんらしさ100%だね」と言っていただけます。

――荒れた波を表現した、〈ザンザザンザ〉という言葉も絶妙です。

椎名:ここは思い切り唸っています。デモテープは、作曲の岡千秋先生が歌を吹き込んでくださっていて、ここのインパクトがすごく強くて。「浪花恋しぐれ」をヒットさせたあの独特の味のあるお声で歌われていて、デモテープを聴いてすごく印象に残りました。聴いてくださった方には、「タイトルは覚えていなくても、あの〈ザンザザンザ〉と歌っている曲」というふうに印象に残るのではないかなと思います。あとポイントは〈オッショイ〉という掛け声ですね。

「椎名佐千子はこれだよね!」と迎えてもらえるような作品に

【ミュージックビデオ】椎名佐千子『いごっそ海流』

――〈オッショイ〉は、レコーディングの時の男性スタッフが声を入れたのですか?

椎名:私も歌っていますし、現場にいらっしゃった方全員で掛け声を録って。作曲の岡千秋先生や編曲の南郷達也先生の声も入っています。音源の公開前にステージで歌わせていただいたのですが、やはり印象に残るパートなのでしょうね。1コーラス目で覚えて、2コーラス目にはすでにお客さまが歌ってくださっていました。会場の一体感が増すパートで、次のコンサートでまた一緒に歌ってもらえると思って今から楽しみです。

――〈オッショイ〉も高知の掛け声なのですか?

椎名:高知の言葉ではないのですが、これは「ヨイショ」というような気合いを入れる掛け声です。スタッフが、何かいい掛け声はないかと考えてくださって、それこそ「ヨイショ」とか「ソ〜レ」とかいろいろ出たんですが、この〈オッショイ〉がバチッとハマって、これで行こうと決まりました。

――久しぶりに皆さんに届ける歌は、やっぱりこういったゴリゴリの演歌がいいという思いがありましたか?

椎名:そういった思いもありました。「椎名佐千子はこれだよね!」と、皆さんに「待ってました!」と迎えてもらえるような作品がいいな、と。以前イベント会場で演歌の先輩の“海もの”を歌った時にとてもハマっていて、担当ディレクターも「これが椎名佐千子だ」と再認識したそうで、そういったこともあって今回はこういう曲調になりました。

――この「いごっそ海流」を歌って、釣り上げたいものは何ですか?

椎名:やっぱりファンの皆様の心です!

――『紅白歌合戦』じゃないのですか(笑)?

椎名:それももちろんなんですけど、それを釣り上げるためには、まずは皆さんの心をつかまないといけないですからね(笑)。ヒット曲を生み出すことは、今の時代とても大変なことですけど、楽曲の力を信じて一途に頑張れば、きっと叶うと信じています。私の熱い気持ちを早く皆さんにお届けしたいと思っています。

――4月24日にはファンクラブ「しいなさちこサポーターズ」が正式に発足しますが、お客さんやファンの方とのコミュニケーションで予定していることはありますか?

椎名:まだ練っているところもあるのですが、今までファンの皆さんと触れ合う機会が少なかったので、これを機にいろいろな企画を考えて、皆さんと身近に触れ合えるチャンスを増やしていきたいと思っています。まずは配信で活動のお知らせや報告をして、皆さんからのご意見もいただきたいなと思っています。いずれは皆さんと乾杯したりとか、身近に感じていただけることをやっていきたいと思っています。

――カップリング曲「カサブランカホテル」についてですが、こちらは大人の女性の歌で、男性の面影を追い求めながらモロッコまで行ってしまう、とてもロマンチックな楽曲です。

椎名:はい。男性への思いが揺らいでいて、彼の足跡を辿りながら思い出の記憶がよみがえっていく――つまり、女性の心情が迷子になっているようなシチュエーションで。モロッコ
には世界一の迷宮都市と呼ばれるくらい道が複雑なところもあって、そういった部分とも重ねて歌っています。

――歌詞に〈あなたの面影〉と出てきますが、前作の「面影みなと」と繫がりはあるのですか?

椎名:直接的な繫がりはありませんが、シングル『面影みなと』のカップリングに「雪のメロディ」という曲を収録していて、それも岡千秋先生の作曲なのですが、三連のリズムで「こういう路線もいいね」と言ってくださって。今作はそれとはまた違った三連の楽曲で、大人の女性を歌うのも面白いんじゃないかということで書いていただいた曲です。レコーディングは「いごっそ海流」と同じ日で。でも、主人公像は「いごっそ海流」とはまったく違うので、気持ちを作るのは苦労するかなと思ったのですが、思っていたよりもスッと気持ちを入れることができました。

カサブランカホテル

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