リアルサウンド連載「From Editors」第54回:ソフィア・コッポラ最新作『プリシラ』を観る前の必須アイテム
「From Editors」はリアルサウンド音楽の編集部員が、“最近心を動かされたもの”を取り上げる企画。音楽に限らず、幅広いカルチャーをピックアップしていく。
超ピンク!超ソフィア・コッポラ!な作品集
最近、ソフィア・コッポラの作品集をもらいました。「天国の覗き見みたいな本」「天国から降ってきたばかりのような本」と贈ってくれたその某氏は言っていたのですが、本当にそれとしか言いようがないくらいにキュート。なんというか、持ってるだけで穏やかな気持ちになれる、そういう本なのです(実際にこの本を抱きしめて眠った時の安眠具合はすごかった)。
まず表紙カバーのこのピンク。今時に言えばミレニアルピンクとも呼べそうな、淡さとビビッドさのちょうど中間のカラー一色に大きな黒文字。このカバーの内側に隠れている表2と表3には、ソフィアの作業部屋と思しき写真がプリントされています。もし表紙に文字がなかったとしても、このピンク色と、カバー裏の“女の子の部屋が散らかっている”という写真だけで、ソフィア・コッポラの作品集だとわかると思います。
それくらいのアイコン性がある本書はソフィアにとって初めてのアートブックで、収められているのは、『The Virgin Suicide』(邦題:ヴァージン・スーサイズ/1999年)から『Lost in Translation』(邦題:ロスト・イン・トランスレーション/2003年)、『Marie Antoinette』(邦題:マリー・アントワネット/2006年)、『Somewhere』(邦題:SOMEWHERE/2010年)、そしてエルヴィス・プレスリーの妻 プリシラ・プレスリーの伝記として描かれた最新作『Priscilla』(邦題:プリシラ/2023年、日本では今年4月12日に公開)までの8作品。各作品の初期の草稿、アイデアメモ、メールのやり取りから参考資料のコラージュ、メモを書き入れた脚本、撮影のオフショットなどが、完璧なレイアウトと完璧な色彩によって配置構成されています。
きゅんきゅんポイントはあまりにもたくさんあるのですが、たとえば衣装。『Somewhere』の衣装案ひとつにしてもそうで、スニーカーをコンバースにするかVANSにするかという簡易的なメモから、実際に絵にデザインを描き起こしたものまで、『The Beguiled』(邦題:The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ/2017年)もドレスのデザインから生地サンプルまで細かにレイアウトされています。特に『The Beguiled』は女性的な視点で描かれた作品でもあったので、生地のみならずレースなど細かい部分も女の子の心をくすぐるポイント。コスチュームがどのようにしてできたのか、その一端を知ることができるのも、洋服好きな自分としてはテンションが上がります。
作品集なのでもちろん写真や資料が主な内容なのですが、ソフィアのインタビューが収録されているのも嬉しい。時系列に沿って彼女自身のこと、各作品のこと、そして今何を思っているかまで、インタビューとしてはシンプルな王道の形です。しかし、最新作の『Priscilla』を撮り終えた彼女が「なぜ“女の子”の物語を作り続けるのか」に向き合って答えた言葉は、抽象的ではあるけれど、それとしか言いようがない理由であり、それをソフィア・コッポラというクリエイターのアーカイブをたどりながら読むことで、意味を正しい尺度で理解できるなと思いました。
『Priscilla』も早く観ねば!と思いながら、この作品集を夜な夜な眺めています。何度見ても飽きない……。まずは、『Lost in Translation』や『Somewhere』あたりを再び観返して、万全の体勢で『Priscilla』鑑賞に挑みたいと思います。
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