K-POPの“聴きやすさ”重視のトレンドがグループの真価をより総合的なものに ILLIT『SUPER REAL ME』評

 同じことは「Midnight Fiction」にも言うことができて、あまりにもスムーズでシンプルな歌メロにクセのないアレンジが心地よくもあり、物足りなくもある。同じ4つ打ちでもファンキーな「Lucky Girl Syndrome」はディスコチックなK-POPのオーソドックスな楽しみがあるけれど、突出した印象を残すことはない。

 最近のK-POPシーンをめぐるバズワードとして「イージーリスニング」という言葉がある。このトレンドを紹介する記事では、NewJeansやFIFTY FIFTY、BOYNEXTDOOR、RIIZEといった比較的新しい世代のグループが中心的に紹介されているが、厳密な定式があるわけではない(※1、※2)。それでもその言わんとするところは伝わったのか、ファンのあいだでも頻繁に使われるラベルになった。あえて言えば、K-POPが売りにしてきた大胆な展開や印象的なフックから距離を置き、また同様に物語やコンセプトを重視する傾向からも離れて、リスナーを没入させると言うよりはライトに楽しめるように意図された作品のことだ。つまり特定のスタイルや雰囲気(たとえば少し前の流行り言葉なら、「チル」とか)というよりは、楽曲がどのように設計されているかの問題だ。

 『SUPER REAL ME』はまさしく「イージーリスニング」的に設計されているように思える。かつ、それはかなりの程度成功をおさめている。クオリティも高く、結果もついてきている。一方で、そうした成功が必ずしも音源としての興味深さと結びつくわけではないという実例にもなっている。

 しかし、MVやパフォーマンス動画を見ると楽曲の印象とはまるで違う、フィジカルを強調するきびきびとしてアスレティックなパフォーマンスを披露している。活力あふれるパフォーマンスは音源の単調さを補って余りある華があり、音源、アートワーク、MV、そしてパフォーマンスまでをトータルで味わわなければそのグループの真価を味わうことができないのだということを改めて確認させてくれる。

ILLIT (아일릿) ‘Magnetic’ Official MV

※1:https://www.donga.com/jp/article/all/20230802/4329826/1
※2:https://www.kbsworld.ne.jp/entertainment/view?blcSn=64939

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