くるりの本質はシングル表題曲以外に宿る 演奏バリエーションでも楽しませたFC限定公演

 ライブ中盤ではフロアランプと椅子が運び込まれ、岸田と佐藤がそこに座り、野崎を加えた3人がステージに残る。1976・1977年生まれの「同い年ユニット」で披露されたのは、CHAGE and ASKA「クルミを割れた日」のカバーで、野崎がメインボーカルで美声を響かせた。ちなみに、この曲について岸田は「『SAY YES』の次に入ってる曲」と紹介していたが、これは1992年にリリースされたアルバム『TREE』のことで、2曲目が「SAY YES」、3曲目が「クルミを割れた日」だった。

 野崎がステージを降り、岸田と佐藤の2人になると、「B’z状態になった。アレンジャーの明石昌夫さんが好きだった。『BAD COMMUNICATION』のCDを買った」と引き続き世代トークで盛り上がり、この日披露された中でも最も古い曲、1998年発表の『ファンデリア』収録の「坂道」を2人だけで演奏。さらにはそこに石若が加わると、音源では打ち込みっぽい雰囲気の「Brose&Butter」を抑制の効いたアレンジで披露した。「くるりと関わるようになって今年で7年目」という石若の多彩なプレイも、もはやくるりに欠かせないものになっている。

 「雨上がり」から再びフルバンドに戻ると、「ハム食べたい」は岸田が使用するドラゴンフライ・B6カスタムの乾いたサウンドが最高で、Touch and Go系のポストハードコアな曲調によく似合う。こちらもオルタナ〜アメリカンロック寄りな「犬とベイビー」、さらには佐藤がボーカルを務めるリフもののロックナンバー「BLUE NAKED BLUE」を続け、この曲では音源にも入っているマネージャーによる語りを本人がステージに登場して再現するサプライズも。そして、冒頭からひと際大きな歓声が起こった「マーチ」はバンド全体の熱量高い演奏が素晴らしく、特に石若による手数の多いアウトロのプレイは、昨年のツアーにひさびさに参加したクリフ・アーモンドにも引けを取らない豪快なもので、曲が終わると同時にこの日一番の大きな拍手が贈られた。

 本編最後は「新しい曲を」と言って、昨年発表の『感覚は道標』から「California coconuts」と「In Your Life」を演奏。オリジナルドラマーの森信行を迎えて制作された『感覚は道標』にはどこか過去を振り返るようなムードがあり、セルフオマージュ的な要素を含む「In Your Life」はそれを象徴する一曲で、様々な年代の曲をやるライブの締め括りによく似合う。くるりの音楽が人生の中に深く濃く存在するオーディエンスとともに、過去を振り返った上で今という瞬間を噛み締めることは、とてもとても幸せな体験だった。

 アンコールでは岸田がピアノの弾き語りで「カレーの歌」を披露するという非常にレアなシーンもあり、佐藤と2人で「急遽やることにした」という「遥かなるリスボン」を届け、最後はもう一度フルバンドで「ポケットの中」と「潮風のアリア」を演奏。「ポケットの中」は『リラックマと遊園地』の主題歌なので軽やかなイメージが強かったが、ライブだと音源よりも松本のギターが前に出ていて、迫力十分でかっこいい。ファンクラブイベントということで、この日ばかりは一ファンとして、全22曲を堪能させていただきました。いやあ、楽しかった。

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