香取慎吾、黒木彰一プロデューサーと最後に交わした誓い 楽曲「質問」が心を奮い立たせてくれる理由
香取がこの曲を歌うという案は、実は3年ほど前からあった話だという。もともと「千の風になって」など数々の名曲を手掛けてきた音楽プロデューサーの朝妻一郎氏から「この曲を君に託すことで、どうにかできないかな」と黒木氏が預かったものだったそう。そして「新しい地図の3人で歌ってはどうか」と持ち込んだのが3年前だった、とも。
それが黒木氏が旅立つ直前に、舞台の劇中歌として起用され、そして配信シングルという作品として完成したのも、きっと何かの縁だろう。縁といえば、この曲は1993年にも香取の人生に交わっていたことが、稲垣吾郎のラジオ『編集長 稲垣吾郎』(文化放送/3月17日放送回)で語られていたのも感慨深い。
「昔、グループ(SMAP)みんなで『ANOTHER』っていう舞台をやったとき。あれは『十五少年漂流記』のような少年たちが無人島に漂流して……っていう話なんだけども。そのなかでちょっと悲しいシーンがあって。反乱を起こしたチームがいて、そこで亡くなってしまうんですよ、ひとりの少年が。その少年を演じたのが(KinKi Kidsの)堂本剛くんだったんですけど」「その悲しいシーンのなかで、寺山修司さんのアングラ的要素を舞台の中に入れてたんですよ。そこで、香取慎吾さんが配信している『質問』という曲も実際に舞台で使われていた」と振り返った稲垣。
また、この舞台はSMAPメンバーが3人ずつ東京と京都の2会場に分かれて、“同じ島に漂流しているけれど場所が異なる”という2次元中継的なものだったこと、稲垣と香取は別のチームだったことなどを補足しながら、「たぶんね、(『質問』を)堂本くんが歌ってたような……」と記憶を手繰り寄せる。たとえ細かなところは曖昧になったとしても、「本当に美しいメロディがそれから何十年経ってても、ずーっと僕の頭のなかに残ってて」「時折このメロディを僕は思い出してたんですよ。それぐらい僕、大好きな曲で」と、忘れられない楽曲のひとつであったと続けた。そして、「仲間の香取慎吾くんがこの歌を歌って、寺山修司さんを演じるっていうのは、何か不思議な縁みたいなものを感じて僕はとても嬉しかったんですよ」とも。
人生には意図せず引き寄せられるように実を結ぶことや、必然としか思えないタイミングで事態が大きく動き出すことがある。なかでも、このエンターテインメントの世界で長く活躍している彼らの周囲には、そうした話が絶えない印象だ。それも彼らが一つひとつの縁を大切にしているからだろう。香取は病床の黒木氏に「これからは迷ったとき、どうしようかな」と問いかけたという。そのとき返ってきた言葉に勇気づけられ、「これからも歌い続ける」と誓ったという話もインタビューで語られていた。
今、必死になって取り組んでいることが、何年後、あるいは何十年後かにつながっていく。そんな長期的な視点を持って日々生きるのはなかなか難しい。生きるということは、その瞬間瞬間の積み重ねでしかないとわかっていても、挫けそうになることも。そんなときこそ香取が力強く歌う「質問」が、心を奮い立たせてくれるのではないか。この踏ん張りが、この人と交わした言葉が、いつかの自分を創り上げる。そんな大切なことを香取の舞台、そして黒木氏とのエピソード、「質問」という歌からあらためて教わったような気がする。
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