ボカロシーンで活躍中のアーティストを徹底解剖 第1回(前編):煮ル果実に聞く音楽との出会い&ルーツ

煮ル果実に聞く音楽との出会い

歌詞へのこだわりはRADWIMPS 野田洋次郎らの影響も

――物語性で魅せてくれる音楽という意味では、先ほど挙げてもらったRADWIMPSの野田洋次郎さんやBUMP OF CHICKENの藤原基央さんの魅力とも通じるものがあるかもしれません。

煮ル果実:そうですよね。やっぱり、そこに惹かれているんだろうな、と思います。曲の中に起承転結があって、曲の主人公が何かを得たり、失ったりする――。それによって曲が変わる、というところがすごくいいなと思うし、自分自身もそういう音楽をつくりたいな、と思います。ボーカロイド楽曲のいいところって、そういうストーリー性を映像とも組み合わせていろんな形で表現できるところだとも思っているので。

――とはいえ、煮ル果実さんが実際に活動をはじめるのは、少し先のことだったんですよね。

煮ル果実:正確には、その時もやろうとは思ったんですけど、パソコンが使えなさすぎて一度諦めてしまったんです。ソフトは買ったものの、どうすればいいか分からなくて。

――ソフトを買うところまでは行ったものの、結局頓挫してしまった、と(笑)。

煮ル果実:はい(笑)。でも、その後バルーン(須田景凪)さんの音楽を聴いて、それこそじんさんの時と同じくらいハマってしまって。「もう(つくり方が)分からないって言ってる場合じゃない」「やろう!」と思ってボカロ曲の制作をはじめました。まずは簡単なところからやってみようと思って、スマホに入っていたGarageBandのアプリを触りはじめたんです。

――当時、スマホによっては初期アプリとしてGarageBandが入っていましたよね。

煮ル果実:そうなんですよ。なので、「これでつくれるじゃん!」と。ただ、その前に、僕はニンテンドーDSで『大合奏!バンドブラザーズ』にハマっていた時期があったので、そこで培われたものがあったのかもしれないです。GarageBandも、ちょっとそれに操作感が似ていたんです。そのおかげで曲をつくれるようになって、そこからLogic Proに移行しました。

――そうして本格的にボカロPとしての活動がはじまったんですね。煮ル果実さんが楽曲をつくるときに大切にしているのはどんなことでしょう?

煮ル果実:やっぱり、歌詞ですね。

――確かに、煮ル果実さんの曲を聴いていると「これは何についての曲なんだろう?」「どんな物語なんだろう?」と想像が膨らんでいくような魅力を感じます。

煮ル果実:僕が歌詞を書くうえで一番尊敬しているのは、さっきお話したRADWIMPSの野田洋次郎さんと、BUMP OF CHICKENの藤原基央さんと、バズマザーズ/サニアラズの山田亮一さん(元ハヌマーン)なんですけど、この3人が好きという時点で、やっぱり僕自身も「歌詞にこだわりたい」「歌詞こそが大事」と思うタイプだと思うんです。あと、自分の場合は、割と言いたいことが最初にまとまっていて曲をつくりはじめるというか、普段から日常的に色々なことをメモっている中で、「これはこのシーンで使えそうだな」と思ったものを引っ張り出して曲になっていくことがよくあります。なので、スマホのメモ帳というか、メールで打ち込んでいるんですが、その件数がすごいことになってしまっています(笑)。

――膨大なアイデアの断片から、つくりたい曲が形になっていくことが多いんですね。

煮ル果実:「こういう要素を入れたら、次はこうしたいな」と考えていったりするという感覚です。

――煮ル果実さんの名前の由来や、楽曲ごとに付け加えている「イメージフルーツ」などを筆頭にした「フルーツ」のモチーフについても詳しく教えてください。

煮ル果実『FRUITÁGE』
煮ル果実『FRUITÁGE』

煮ル果実:僕がそもそもフルーツをモチーフにしているのは、「いろんな楽曲をつくりたい」「いろんな味を楽しんでもらいたい」という思いからです。そこは自分が大事にし続けていることですね。イメージフルーツに関しては、あくまでオマケ要素なんですけど、曲をつくっているときに思いつくこともあれば、曲や映像ができてから思いつくこともあります。果物の場合、植物だから花言葉もあったりするので、毎回その辺りも踏まえて考えるんですけど、「この歌詞だったら、この花言葉が合うな」とか、「このフルーツを提示すると楽曲を読み解いてもらうヒントになるかもしれない」とか、「オマケ要素ではあるけれど、ちょっと馬鹿にはできないな」という感覚のものだと思います(笑)。

――お話を聞いていても、煮ル果実さんの楽曲はとても情報量が多いというか、いろんなところで驚いたり深読みできたりするような要素がちりばめられていますよね。

煮ル果実:自分は結構、(物によっては中からおもちゃが出てきたりもする)イースターエッグのようなものが好きで、「これに気づいてくれたらすごいぞ」という小ネタを、大量に入れたりするのが好きなんですよ。その結果、みんながコメントで発見してくれたり、僕が意図したものとは違っていても感想をもらえたりすると「感性が豊かだな」と嬉しくなるので。

――つまり、リスナーのみなさんがレスポンスしてくれることも含めて楽しい、という。

煮ル果実:そうですね。そこはかなり大切なところなのかな、と思います。それこそ、僕自身がバルーンさんの曲を聴いて活動をはじめたばかりの頃は、「ボカロ曲をつくりたい!」という自分の気持ちひとつだったこともあって、「本当に自分の曲を聴いてくれる人がいるのだろうか?」という感覚でした。でも、ボーカロイド文化のすごくいいところって、初期の頃からいろんな人たちが楽曲を聴いて、反応してくれたり、そこからさらに二次創作をしてくれる人が出てきてくれるということで。聴いてくれる人達が動画にくれるコメントや、ライブをしたときにいただいたお手紙などを見てもそうですけど、「この曲のこういうところに背中を押してもらえました」と言ってくれる人達がいて、これは僕自身も、リスナーとして音楽を聴いていて思っていたことだったりしていて。今は僕自身、「それと同じようなことができているのかな」と思ったりもします。そういう意味でも、「リスナーの人達も含めてのボカロ文化なんだな」ということを、すごく感じていますね。

ボカロシーンで活躍中のアーティストを徹底解剖 第1回(後編):煮ル果実が考えるボーカロイドの可能性

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