BUCK-TICKに憧れた“カラオケマニア”ディレクターが作る『龍が如く8』の世界 堀井亮佑×青木千紘対談
春日一番と桐生一馬を包括したイメージを掴むのに苦労
ーー『8』と『7外伝』、2本のゲームを同時に作るって、できるものなんですか?
堀井:まぁ、なかなか簡単にはできないですよね(笑)。実は最初の段階では僕は『7外伝』のディレクターはやっていなかったんです。ただちょっと途中で『7外伝』の進行に行き詰まりが生じたので、最終的には『7外伝』と『8』を両方ディレクターとして見ることになりました。
青木:異例です、異例。途中本当にヤバかったですよね。
堀井:両方の繁忙期が重なってしまった時期はさすがにヤバかったですね(笑)。『7外伝』はそもそも『8』への導入として出す作品なので、『8』より先に完成させなければいけないんですが、作り始めたのは後なので、進捗が悪かった時期は「おい!『8』のほうが先にできちゃうだろ!」みたいな危機感がありました。ただ両作とも同じエンジンを使っているので、『7外伝』のバグを直せば『8』の同じバグも直る、みたいなこともあったり、2つの作品を内容的にうまくリンクさせたりすることもできたりと、並行して作ったからこそ得られるメリットもたくさんありました。クリエイターとしては良い経験をつめたな、と思います。
ーー『7外伝』『8』はいずれも反響はいかがですか?
堀井:すごくいいです。『7外伝』はストーリーはもちろん、アクションの部分も評価していただいて“桐生一馬アクションの集大成”となる作品にできたのかなと思います。あとは並行して作っていたおかげでサウンドのアプローチなども『7外伝』と『8』でうまく差別化することができました。『8』に関しては、うちのスタジオとしては今までで一番時間と予算をかけた作品ですし、結果的に「最高傑作」として胸をはれる作品にすることができました。すごく反響も良くて嬉しいですね。
ーー『8』の新要素や、大事にしたテーマなどはありますか?
堀井:今回は「ダブル主人公」なので、春日と桐生の2人をいいコントラストで描けるようにしたいとは思っていました。春日は明るくて開放的、桐生は落ち着いてシリアス、という性格や思考の違う2人が、話を進めるうちに分かり合い、認め合い、影響を与えたっていく、みたいなことがやりたいな、と。結果的にはその辺りをうまくゲームで表現することができた思っています。音楽のたてつけもそうですし、ゲームコンテンツとしても彼ら2人のカラーの違いが出るようにしています。春日には「クレイジーデリバリー」などの派手なコンテンツを用意し、桐生には「エンディングノート」という人生を振り返るコンテンツを用意しています。陰と陽、喜びと悲しみ、過去と未来、というような、人生にとって必要な真逆のコントラストをたくさん入れることで、ゲームの中でいろいろな感情を抱いてほしいな、と。「ちょっと前まで自分はガチャピンとムックと一緒に笑っていたのに、なんで今は桐生の話で泣いてるんだろう」みたいな。
青木:忙しいですよね、感情が(笑)。
堀井:人生ってそうじゃないですか。泣いていた10秒後に笑っていたりもするし、つらい病気にかかったとしてもその後ずっと泣いているわけじゃない。喜怒哀楽こそが人間ドラマだと思うので、感情が忙しいゲームにできたところは個人的にすごく気に入っています(笑)。
ーー『8』の楽曲制作において意識したことや、難しかったことはありましたか。
青木:「ダブル主人公」というゲームのコンセプトを曲にどう落とし込めば良いのかがわからず結構悩みました。春日のイメージと桐生のイメージ、それぞれの単体のイメージははっきりしているものの、その2つを合わせた包括的なイメージをなかなか掴めずにいまして。特に「春日の物語に登場する桐生」をどう描くのかっていうのは大きな悩みだったんです。そんな折に『7外伝』の制作が決まったので、「桐生の桐生らしいところはこっちで出そう」という判断ができたんです。『7外伝』との対比ができたことで『8』の解釈も深まり、桐生らしさは残しつつも『8』の楽曲と比べた時に浮かないような楽曲にすることで、自分の中でも納得できました。そういう意味では開発者としても『7外伝』があってよかったなと思います。
堀井:『7外伝』のおかげで「『龍が如く』らしさ」や「桐生らしさ」の再定義ができましたよね。『8』の楽曲は『7外伝』ほどシリアスでもなく、でも桐生らしさもある、うまく溶け込むような感じのBGMになったと思います。
実際、ゲームとしても「桐生の変化」というのは大きな描きたいテーマだったりするんです。彼は今までずっと伝説の男として他人を支えてきた人で、他人の幸せのために自分が犠牲になるような生き方をずっとしてきたんですけど、今回、ガンという病気におかされて、初めて人に支えられます。そして支えられる中で、桐生という人間が少しずつ変わっていくんです。より本音をさらすようにもなるし、弱音もはくこともある。怖いものを怖いと言うようになる。これは桐生にとっては本当に大きな変化なんです。今回の桐生は今までのシリーズで一番身体的につらい状況だし、肉体的には弱いのかもしれません。でもその分、人を素直に頼ったり、人に心を許したりすることができる。ガンになって桐生がかわいそう、みたいな意見もたくさん見ますが、健康なら幸せ、病気になったから不幸せ、というのは違います。桐生は今回病気ですが、僕には今までで一番今回の桐生が楽しそうだし、人間らしいし、幸せそうに見えます。というか、そう見えてほしいな、という思いをこめながら作ったという感じですね。
ーーゲームの舞台がハワイになることや、ジャンルがRPGになることが音楽に対して影響を与える部分はありましたか?
青木:バトル曲で最初に作ったのが「Waikiki Down Beat」という楽曲で、「ハワイらしさx 『龍が如く』らしさ」をどう表現するか、というところからアプローチしていきました。最初のデモでレゲエの要素が前面に出たイントロにしていたら「ノンビリし過ぎている」と指摘が出まして、もう少しイントロの緊張感を出して塩梅を模索しました。あとはバトルスタイルがRPGなので、イントロの長さを意識せずに楽曲を作れるようになったのも大きかったですね。というのもアクションゲームだとバトルがスタートしてからすぐにキャラクターを動かせるので、イントロが長い曲を当てると楽曲が盛り上がり切る前に敵を倒してしまうことがあるんです。アクションのバトル曲についてイントロは長くても8小節ぐらい、というのを決めて作っていたんですが、RPGになってからはそこはあまり意識せずに作れるようになったと思います。
あとは今回、敵の組織ごとにバトルBGMを変えています。「BARRACUDA」などはその一例ですが、BGMを区分けしたことで各組織の色が出たのは良かったです。ゲーム自体のボリュームもすごいですし、楽曲を用意するにあたってどこにバリエーションを持たせるかを考えたときにそこが一番うまくハマった部分です。
堀井:エンカウント曲(通常戦闘曲)は一番聴く曲なので、単体として聴いたときにテンションが上がるかどうかを重視しています。音楽的にいい曲であるというのはもちろん必要ですが、たとえばジムでのトレーニング中とか、受験勉強中とかに聴いて気合を入れられるような曲のほうが長く愛してもらえるのかなとも思うので、そこは気にしていましたね。
青木:そうですね。エンカウント曲はやっぱり飽きないように作るのが大事ですし、ボス曲はボスの戦いでしか流れないものなので逆にインパクト重視だったりもしますね。
堀井:ボス曲はそれ単体でストーリー性を持たせられるけど、エンカウント曲はストーリー性はほぼないので、おっしゃる通り「飽きない」というのがすごく大事。あとはテンションを上げるツールとしての側面が強いと思います。
ーー敵が出てきてもあまり不穏な曲が流れず、軽快に戦闘が楽しめるゲームだと感じました。もっと不安を煽ったり、あるいはアンビエント的な楽曲演出でエンカウント前の状況をシリアスに描いたり、プレイヤーにストレスを与えることもできると思うのですが、それをしないことを意識していますか?
堀井:それはあるかもしれないです。『龍が如く』も過去作では「不穏なときに不安な音が鳴る」みたいな演出を結構やっていたんですけど、最近はあまりやらないですね。うちのゲームは、たとえばすごくシリアスなシーンで、敵に「明日、ミレニアムタワーの上で待っているぞ!」とか言われても、その足で麻雀をやりにいけるゲームなので(笑)。
青木:そうなんですよ。キャバクラに行ったり(笑)。
堀井:自由度の高さが魅力のゲームなので、「このシーンはシリアスに」っていう風に演出を押し付けちゃうと、その前後のプレイヤーの自由が奪われてしまうんですよ。もちろん「ここからはシリアスなシーンだから、この期間はキャバクラに行っちゃだめです」というゲームにもできるんですけど、でもそれは『龍が如く』じゃないかな、と。だからそういうキャラクターの感情を決めつけるような演出は、自由に遊べるアドベンチャー中は結構省いています。プレイヤーがやりたいことをやりたいときにやれる自由を変に制作者の都合で縛りたくないな、と。逆にプレイヤーが「よし行こう!」となったときにはその背中をアゲアゲの音楽で押してあげたい、そういう発想で設計しています。