TOMOO、星の光にも似た“届いている”実感 特別編成での『TWO MOON』ツアーファイナル
昨年9月にメジャー1stフルアルバム『TWO MOON』をリリースしたシンガーソングライターのTOMOOが、それを携えてのワンマンツアー『TOMOO LIVE TOUR 2023-2024 "TWO MOON"』を11月2日、東京・EX THEATER ROPPONGIを皮切りに全国7都市にて開催。そのファイナル公演が1月30日、東京・TOKYO DOME CITY HALLで行なわれた。
今回、筆者が観たのはピアノ弾き語りのアコースティックバージョンだった初日と、ストリングス&ホーンセクションを率いてのスペシャル編成となった最終日の2回。今回は後者をレポートする。
定刻を10分ほど過ぎた頃、バンドマスターの大月文太(Gt)を筆頭に、伊吹文裕(Dr)、勝矢匠(Ba)、幡宮航太(Key)、横山ともこ(Sax)、小松悠人(Tp)、前田大輔(Tb)、永田こーせー(Bs)、中島優紀(Vn)、須原杏(Vn)、河村泉(Va)、林田順平(Vc)という総勢12名のサポートメンバーがステージに現れおもむろにセッティング。すると会場がゆっくりと暗転し、グランドピアノにスポットライトが当たる。まるで蓄音機で再生しているような古びた音色で、「Moon River」を歌うTOMOOの声が会場に響き渡り、この日のライブが厳かにスタートした。
遅れて登場したTOMOOが真っ赤な照明の下、ジョン・バリーの「James Bond Theme」を彷彿とさせるスリリングなイントロをエレピで奏でると、それに合わせて客席からハンドクラップが自然発生。オープニングを飾ったのは、アルバム『TWO MOON』から「夢はさめても」だ。
「こんばんは、TOMOOです。ツアーファイナル、一緒に最高の夜にしましょう!」そう挨拶し、続いて披露したのは「恋する10秒」。緩急自在に変化していくドラマティックな演奏をバックに、ステージの端から端まで歩きながら、3階席までびっしりと埋まったオーディエンスに手を振るTOMOO。間髪入れずに始まった「HONEY BOY」のお馴染みのイントロに大きな歓声が上がり、ファンファーレのように鳴り響くホーンセクションがこちらの高揚感をさらに煽る。そこから畳み掛けるように披露したのは、疾走感あふれるポップチューン「酔ひもせす」。サビではオーディエンスが一斉に手を頭上にかざし、左右に振って一体感を高めた。
「改めまして、『TWO MOON』ツアーへようこそ。みんなに会えるのを本当に楽しみにしていました。最初の4曲ぶっ通しでしたが、ついてこられましたか?」と満面の笑みで客席に話しかけるTOMOO。「ここまでバンドで回ってきたんですけど、今日はファイナルということでスペシャル編成です。ずっと『フルカラー・フルパワー』と言ってきたこのアルバムツアーですが、最後はこんな形でお届けします。一緒にいい時間を作りたいと思いますので、最後までよろしくお願いします」と改めて挨拶し、会場からは大きな拍手と歓声が鳴り響いた。
ここで少しペースを落とし「17」へ。TOMOOが生み出す楽曲の魅力として、入り組んだコード進行と親しみやすいメロディのコントラストが挙げられるが、この「17」はそれを象徴する1曲といえよう。音の隙間を生かしたシンプルなピアノの弾き語りからスタートし、ストリングスを従えたバンド演奏へと大きく豊かに広がっていく。続く「Grapefruit Moon」では、ストリングスとホーンが緻密かつダイナミックなサウンドスケープを展開し、ブラックミュージックの影響を大きく受けたTOMOOの新境地ともいえるこの曲を鮮やかに彩った。
「私にとって一番新しい曲であるこの『Grapefruit Moon』を、フル編成でお届けするのは今日が初めてです。嬉しい!」と、素直に喜びの声を上げるTOMOO。「今日はこうやって、一緒に演奏してくれる人がたくさんいるので分かりやすいと思うけど、『TWO MOON』というアルバムは生楽器の音でいっぱいなんですよ。人の手や空気感がぎゅうぎゅうに詰まっているこの作品を、今日、こういう形でお届けできるのが本当に嬉しいです」と話し、会場は温かい拍手に包まれた。
ライブ中盤はTOMOO一人によるピアノ弾き語り。まるで月明かりのようなスポットライトの下で、アルバムから「Mellow」を演奏した後は、「その時の自分の気持ちや目にした景色、出来事がミックスされて、『今、これやりたいな』と思った曲を歌うことにしている」という「日替わり弾き語り」のコーナー。この日は「Grapefruit Moon」と同じ時期に書いたという「雨粒をつけたまま」、2017年のEP『Blink』から「What's Up?」の2曲を演奏した。
「空模様にも晴れや曇りなど色々あるように、人の心にも色々な『天気』があると思っていて。例えばそれが、曇りだったり嵐だったり、土砂降りだったりしたとしても、それによってその人の尊さが損なわれることなんて絶対にないな、と思った時に書いた曲です」そう言って演奏されたのは、「窓」。〈心が通うそれ以上の 嬉しいことなんてあるかな〉〈会いたい人がいる以上の 希望なんてどこにあるでしょう〉〈どんな景色でも どんなあなたでも〉そう切々と歌われる歌詞が胸を打つ。ピアノに3本のアコギを加えた編成もユニークだ。
軽やかなニューソウル風味の「レモン」、バンドメンバー紹介からの「ベーコンエピ」を経て、個人的にこの日のハイライトだったのはフル編成での「Cinderella」だ。大胆なグリッサンドを駆使したストリングス、息遣いまで聞こえてきそうな荒々しいホーンがバンドアンサンブルと混じり合い、この曲の主人公が心のうちに抱える混乱や葛藤を、エンディングに向けカオティックに音像化していく。その圧倒的な演奏に、客席からは割れんばかりの拍手と歓声が巻き起こった。