イヤホンズ 高野麻里佳&高橋李依&長久友紀が語るアルバム『手紙』のすべて 素の声で届ける7つの想い
高野麻里佳、高橋李依、長久友紀によるユニット・イヤホンズが、アルバム『手紙』をリリースした。今作は、手紙にまつわる7つのドラマが曲として表現された、オムニバス形式とも言える作品。先行配信楽曲を含めた全7曲が収められている。
7つの楽曲、ひいては“手紙”に彼女たちはどのような思いと声を乗せ、どのように届けていくのか。そして、始動から9年目へと突入したイヤホンズは今後どこへ向かっていくのか――メンバー3人に話を聞いた。(編集部)
始動から9年目に突入、“大人になったイヤホンズ”が纏う特別な雰囲気
――手紙をテーマにした楽曲制作がスタートしたのが、2022年秋に発表された楽曲「在りし日」から。このテーマを最初に知らされた時、皆さんはどう思いましたか?
高野麻里佳(以下、高野):素敵だなと思いました。やっぱり人に届けるものって相手があってこそですし、私たちの職業にもつながるものだと思うので、チャレンジしてみたいって気持ちになりました。
長久友紀(以下、長久):今までは抽象的といいますか、たくさんの方々にいろいろな意味で捉えていただけるようなテーマの曲が多かったんですけど、今回は“手紙”というピンポイントなテーマで。プロデューサーさんも、また面白いアイデアを考えてくださったなと思いました。歌詞も限定的なシチュエーションの内容が多くて、私たちもイメージしやすかったんですよ。さらに、リリックビデオになると「これが私たちが届けたいものだ!」とより共通認識が持てるようになったので、楽しい制作期間になりました。
――配信楽曲のアートワークも含めて、該当楽曲のシチュエーションをイメージしやすかったですものね。
長久:そうなんです。シチュエーションだけじゃなく、曲のテーマも事前にいただいていたので、メンバー同士もイメージしやすかったです。
――高橋さんには「タイムカプセル」リリース時、作者のやぎぬまかなさんと対談していただきましたが(※1)、それ以降に発表された楽曲を歌ってみていかがでしたか?
高橋李依(以下、高橋):手紙というだけでこれだけ多岐にわたる内容になるんだって、驚きますよね。手紙というと、自分の職業にいちばん近い存在だったのがファンレターだったんです。だけど、この作品の制作が始まってから手紙にどんなジャンルがあるか、普段そこまで考えていなかったなって、もう一度深く考えるきっかけになりました。ラブレターもそうだし、故郷への手紙もそうだし……そういえば紙と文字で伝えることってこんなにもシチュエーションがいっぱいあったんだなと気づかされました。
――特に携帯電話が普及して以降は、メールやメッセージアプリが主流になっているので、手書きの手紙を送る機会ってどんどん減りましたしね。
高野:たしかに。自分で書くよりも、今はファンレターなど、いただくことのほうが断然に多いですし。
――皆さん、手紙を書いた直近の記憶って何かありますか?
高橋:私、直近で書いてみたんですけど、ボツにしてしまって結局送ってないんですよ。友だちに「これからもよろしくね」という内容の手紙を書こうと思ったんですけど、伝えたいことがありすぎて、内容があっちこっち行っちゃって。気づいたら第6稿、第7稿になってしまって、なかなか完成しなかったんです。なので、「これは普通に会った時に、直接話そう」と思いました(笑)。「手紙って難しいなあ」って、ちょうど最近感じたところでした。
――たしかにメールやLINEなどと比べて、手紙って書こうとすると気構えちゃうところがありますし。
長久:ですね。私は数年前、年賀状を送っていただいたファンの方に、その年のどこかで年賀状を返すという機会があって。写真も自分でレイアウトして、プリントした文字以外にいただいた年賀状一枚一枚に手書きで一言添えたりしたんですけど、住所を書いたりするのを含めてとても大変で! でも、それくらい皆さんが思いを込めて書いてくださっているからこそ、年に一度の自分の大切な仕事だと思って臨みました。もしかしたら、それが直近では最後かもしれないです。
高野:私は家族の誕生日のたびに、毎年書いていて。
高橋・長久:えー!
高野:直近だと姉が結婚したので、その機会に書きました。日頃の感謝もそうですし、姉に対して思っていることをしたためました。お祝いごとで何か特別なものをプレゼントしなきゃと思うと、手紙みたいに直筆だとその人の思いがより強くこもりますし。
――お三方の例だけでも、これだけ手紙にバリエーションがあるわけですが、今回のアルバム『手紙』に収録された7曲に関しても書き手と送る相手のシチュエーションがこんなにも多岐にわたるんだと驚かされます。そもそも、最初の「在りし日」からして手紙を送る相手が盗まれたバイクですものね。
全員:(笑)。
高野:最初にレコーディングしたのが「在りし日」だった気がします。
高橋:そうそう。
高野:「この企画、どうなっていくんだろう?」「無限大だなあ」と最初から感じましたね。
――イヤホンズという耳に関連したユニット名と手紙という目を通して入ってくる文字が、ここまで親和性が高いのかという新たな気づきもありましたし。皆さんは、楽曲を通してイヤホンズだからこそ届けられる手紙のあり方について考えたりしましたか?
高野:手紙って、普通はひとりの人が書いて、ひとりの人に送って、その人が読むものだと思うんですけど、それを3人で歌っているところが不思議だなと思って。3人の解釈が違えば、届ける相手にもそれだけ解釈の違いが増えるので、私は今回相性のよさを感じて、新たなイヤホンズだなと思いました。
――そういった捉え方や表現含め、「大人になったイヤホンズ」という印象も受けますよね。サウンド的にもそうですけど、歌のニュアンスや届け方も初期と比べるとだいぶ変化していますし。
高橋:デビューしてすぐの頃だったら、このコンセプトには挑めなかったのかなと思います。
長久:先にレコーディングしたメンバーの歌を聴きながらその次のメンバーが歌うんですけど、たしかに9年目だからこそなのか、声を聴いただけで「届けたいものってこれかな?」とわかるようになったんですよね。歌詞の主人公の年齢感も伝わってきますし。もちろん、事前にいただく資料もあるんですけど、声色であったりアクセントの有無であったりでイメージが明確になるようになったなと感じます。そういう意味では、親和性ももちろんあるけど挑戦的でもあって。今だからこそのポイントかなと思います。
高橋:歌の割り振りはプロデューサーさんがしてくれているんですが、誰が歌い出しを担当するかなど、「このフレーズが自分に回ってきた」ということが、9年目なこともあって毎回しっくりくるんですよね。自分に振ってもらった歌詞を、さらに自分の言葉として落とし込んで、任された自分の感性を信じて務める。そして、手紙を俯瞰で見るという今回の作業も、物語の登場人物について考える声優が本業の私たちには身近なものだったりしたので、そういう俯瞰と当事者感のバランス含めて親和性が高かったと思います。
――特に今回の7曲って、それぞれの主人公を声優である皆さんが見事な形で演じ切ることで、聴き手にもよりわかりやすく見えるものがあるのかなと。今まで以上に歌詞や楽曲の世界観の広がり方が、よりディープになっているんですよ。
高橋:普段、声のお仕事でやらせていただいているキャラクターソングという表現とはまた別の“概念”を歌っている感覚もあって。もちろん当事者でもあるんですけど、私たちがもっとキャラクターチックにお芝居して、ミュージカルのように歌った楽曲も別にあって、今回の手紙は言葉に表すのが難しいジャンルだなと思いつつ、あたたかい空気に乗せて運んでいるような感じかな。
長久:わかる。もし自分で演じながら歌うなら、歌詞に〈僕〉とあったらもうちょっと男の子っぽくすると思うんですけど、それを私たちの素の声で歌い、でも演じている部分ももちろんある。その曖昧さというのも、いい意味で届きやすさにつながっているのかなと思います。
高野:そうだね。
――それこそ「タイムカプセル」のように、歌詞の1番と2番で主人公の年齢が変わるケースもあり、それが歌声からもしっかり伝わりますし。
長久:たしかに、意識も少し変えていますね。
高橋:うれしいなあ。「タイムカプセル」に関しては空気を纏っているという感じを乗せられたんじゃないかなと、自分では思っていて。
長久:8年、9年の経験がね(笑)。
高橋:ただ声を変えるだけじゃなく雰囲気を変えるというのが、自分的にはしっくりくる言い方なんですよね。
高野:言葉を読んでいるだけでも、そういう気分に切り替わっちゃうよね。手紙だし、誰に伝えたいのかっていう相手がはっきりしているからこそね。
――なるほど。特に昨年から今年にかけて配信された新規制作楽曲は、それぞれテーマもさまざまで、しかもディープで。大人になった今だからこそいろんな感じ方ができる歌詞ばかりなんですよね。当事者感がリスナーとしてもすごく強く伝わる歌詞が多くて、それを皆さんのナチュラルな声を通じて届けられると、スッと入ってきてじわじわ効いてくる感が強い。そういう歌がこのアルバムには詰まっていると思いました。
高橋:それは嬉しいなあ〜。
長久:曲を聴いた方十人十色で、それぞれいろんな人生を歩まれているからこそ、曲によって刺さるところも違うと思いますし、「なんかここが沁みる」というフレーズがどの楽曲にもある気がして。もちろんまだ10代の方も「大人ってこんな感じなのかな?」と想像が膨らむところもあって、それぞれに沁みるところは違う気がします。