Linked Horizonと『進撃の巨人』の10年 Revoが最後の2曲で描ききった一大音楽巨編を徹底レビュー

※本記事内で紹介している歌詞は、公開されているもの以外は筆者が聞き取った言葉を表記しています。

 2023年11月5日放送を以て完結となったテレビアニメシリーズ『進撃の巨人』。壮大かつ圧倒的なクオリティで10年という歳月をかけて描き、アニメファンのみならず多くの人々を魅了してきた。そんなテレビアニメのラストとなった「The Final Season 完結編(後編)」のメインテーマ、そして配信版である「The Final Season 完結編(各話版)」オープニングテーマを飾ったのが、サウンドクリエイター・RevoによるLinked Horizonだ。

 Linked Horizonは2013年に、第1期の前期オープニングテーマ「紅蓮の弓矢」でアニメと共に世界中の人々を震撼させた。スリリングでダイナミックな楽曲展開と金管楽器による壮大なアレンジ、そしてアグレッシブなメロディラインをなぞる勇猛さを感じるRevoのボーカル、すべてにおいて圧巻だった。どこか古典的な音楽性を漂わせながらも聴いたことのないような斬新さを感じさせる曲調はまさに『進撃の巨人』で描かれた、時代も背景も不明瞭な壁の中の世界にぴったりであった。メインストリームのロックやポップスがそのままアニメ主題歌に起用されることも多いなかで、これほどまでに作品の世界観に寄り添った楽曲自体は珍しくもあった。以降、Linked Horizonは多くの楽曲で『進撃の巨人』の世界を彩ってきた。『進撃の巨人』でLinked Horizonの存在を知った人も多いことだろう。

 しかしながら「The Final Season(第4期)」以降は、オープニング&エンディング曲ともにLinked Horizonが務めることはなかった。最後の最後にしての帰還となったのだ。

 各話版のオープニングテーマである「最後の巨人」。その荘厳たるシンフォニックな響きは「紅蓮の弓矢」から一貫したものだ。冒頭のすずかけ児童合唱団による歌唱に被さるように始まるRevoの歌は、まるで主人公のエレン・イェーガーが“地鳴らし”で世界を蹂躙する様相を表しているようである。

 Revoはこれまで自らが未知なる巨人に立ち向かう調査兵団の一員であるかのように楽曲を制作してきた。ときに“鎖地平団(Linked Horizonを兵団化した呼び名)”の団長として、物語を補完するような役割にあったともいえる。しかしながら、「Season3(第3期)」のラストで調査兵団が海に辿り着いたとき、Linked Horizonもひとつの目的を果たしたように考える。

 「The Final Season」はこれまでの中世を彷彿とさせる壁に囲まれた世界から、近代的な外の世界へと舞台が移った。調査兵団が巨人に立ち向かうという従来のストーリーから大きく異なる展開になっていく。合わせてアニメの制作会社もWIT STUDIOからMAPPAへと変わっている。その作画も演出も大きく変わり、同じ作品ではあるものの別の近代的なアニメになった印象すら受ける。そうした大幅な転換もあり、主題歌も調査兵団視点で書かれるLinked Horizonの楽曲ではなく、別のアーティストが担当したほうがいいという意図が少なからずあったのではないだろうか。

 「最後の巨人」は従来の『進撃の巨人』楽曲を踏襲しながらも大きく異なる点がある。楽曲構成だ。これまでは「紅蓮の弓矢」をはじめとし、Aメロ、Bメロ、サビ……といったJ-POPのセオリーに縛られないクラシック音楽のような構成を持っていた。シンフォニックなサウンドプロダクトのみならず、固定概念にとらわれない楽曲構成による展開が、重厚で壮大な物語の一翼を担っていたのである。

 しかしながら「最後の巨人」にはそうした展開は少なく、比較的J-POPに近い楽曲構成を持っている。尺も4分ジャストと、歴代楽曲の中では最も短い。これまでの曲は物語の複雑さ、張り巡らされた伏線を楽曲に落とし込んだ故のものであり、最後となる本曲ではその必要性がなくなったともとらえることができる。

 「最後の巨人」は最後の主題歌として、集大成としての意味合いが込められている。それが歌詞だ。Linked Horizonのみならず歴代の楽曲タイトルを連想させている。1番には、オープニング曲を思い起こさせる言葉が並ぶ。

弓矢のように飛び出した(「紅蓮の弓矢」/ Linked Horizon)
自由を夢見た奴隷は(「自由の翼」/ Linked Horizon)
いくつもの《心臓》見送って(「心臓を捧げよ!」/ Linked Horizon)
紅に染る鳥と成る(「Red Swan」/ YOSHIKI feat.HYDE)
屍を敷き詰めた道は(「憧憬と屍の道」/ Linked Horizon)
争いを辿り 海を越え(「僕の戦争」/ 神聖かまってちゃん)
ただ大きく地を鳴らしながら(「The Rumbling」/ SiM)

 2番には、エンディング曲が時系列順に並べられている。

この残酷な壁の世界(「美しき残酷な世界」/ 日笠陽子)
例え何処へ逃げても(「great escape」/ cinema staff)
落日に追われ羽を捥がれ(「夕暮れの鳥」/ 神聖かまってちゃん)
夜明けの詩を待ち侘びる(「暁の鎮魂歌」/ Linked Horizon)
過る愛の名を欺いて(「Name of Love」/ cinema staff)
衝撃と絶望を飼い慣らし(「衝撃」/ 安藤裕子)
ただ悪魔と蔑まれても(「悪魔の子」/ ヒグチアイ)
同じ樹の下にいたかった(「UNDER THE TREE」/ SiM)

 楽曲の終盤「間違っているのはもう 俺だけでいい ただ 最後の巨人は独り吠えた」、これはまさに物語のラストにおけるエレンの心情だ。「お前らはモリを出ろ」と言い、「この罪は赦さずに住け」とRevoの絶叫でボーカルパートが突如終わってしまう。そして静寂のなかでオルゴールが鳴る。「もしこの壁の中が一軒の家だとしたら」(2013年7月リリース、アルバム『自由への進撃』収録)のメロディだ。懐かしくぬくもりに包まれたメロディをバックに、アルミン・アルレルトの声で「そして彼は、この世界から巨人を駆逐した」と楽曲は閉じられる。ここでいう“彼”は誰のことだろう。目的を成し遂げたエレンのことであり、伝承としてエレンを討ち取った英雄アルミンのこととも取れる。

 Revoは、“調査兵団の一員であるかのように楽曲を制作してきた”と先に述べたが、もっと簡潔にいえば、エレンの心情に寄り添いながら楽曲を制作してきたのだろう。勇猛果敢な調査兵団としてのエレンと共に戦い、歌ってきたのだ。であるから「The Final Season」における、心の読めないエレンに寄り添うことも、かつてのように一丸ではなくなってしまった調査兵団の視点に立つこともできなくなっていたのだろう。Linked Horizonが「The Final Season」で主題歌を担当していない理由はそこにあったようにも思えてくる。

最後の巨人

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