YOASOBI、なぜ「あぁ」が頻出? “らしさ”を作り出すikuraの歌の凄さ――全曲聴き比べてみた

 「アイドル」においても「あぁ」は印象的に作用している。楽曲のラストに登場する「あぁ」は〈やっと言えた これは絶対嘘じゃない 愛してる〉という「アイドル」を締めくくる重要な箇所の前フリとして機能している。前述した“感情に心を動かされる言葉”という意味でとらえるならば、この「あぁ」は〈やっと言えた〉に掛かっており、安心という感情を感じさせる。しかしそれ以上にこの部分は過剰なほど強い音が詰め込まれた「アイドル」という楽曲のなかでもシンプルなビートが刻まれるだけの演奏となり、ikuraの歌唱が強調される部分でもある。「あぁ」でグッとリスナーを惹き込むと同時に、楽曲の言わば大オチとして〈愛してる〉というフレーズをより強調しているのだ。

YOASOBI「アイドル」 Official Music Video

 楽曲の最後を飾るフレーズを「あぁ」で強調する「アイドル」とは対照的に、「怪物」では曲の出だしから「あぁ」というフレーズが登場する。こちらは〈素晴らしき世界に今日も乾杯〉という皮肉っぽい歌詞に対する憂いを帯びた「あぁ」であると共に、透明感のあるikuraのボーカルが出だしから低音の「あぁ」で始まることで、リスナーを惹き込むフェイクでもある。普段はキャッチーでポップな歌声が印象的なikuraだが、この「あぁ」は冒頭からシリアスでダークな空気が漂う。この曲がそれまでのYOASOBIの他の曲とは違う空気を纏った曲であることを、出だしの「あぁ」で表明しているとも言えるだろう。「怪物」はサビ前や転調前にも「あぁ」というフェイクが使用されており、YOASOBIの「あぁ」を堪能するにはもってこいの曲だ。

YOASOBI「怪物」Official Music Video (YOASOBI - Monster)

 YOASOBIの楽曲において、こんなにもさまざまな「あぁ」が使用されるのはikuraの類稀な歌唱力があってこそだろう。ikuraの歌唱は歌うのが難しいメロディやボーカロイドがルーツの言葉が詰め込まれた譜割りを歌いこなす部分に注目が集まりがちだが、同じフレーズでも楽曲に応じて使い分ける楽曲への理解度と歌心、そして歌詞ではない「あぁ」を使い分け、歌詞とサウンド以上の意味を与えることもikuraの武器だ。YOASOBIの“小説を歌にする”というコンセプトもこのikuraの歌唱があってこそなのだと「あぁ」を聴き比べることであらためて実感できる。ぜひYOASOBIを聴くときは「あぁ」をはじめとしたikuraのフェイクにも注目してほしい。

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