NAQT VANEはここから始まる 澤野弘之&Harukazeが語る1stアルバム『Dispersion』と“挑戦”

 トータルプロデューサーの澤野弘之と、8年の海外生活から帰国したボーカリスト Harukaze、そしてアートワークを担当するClassic 6による3人組のチームプロジェクト、NAQT VANEが1stアルバム『Dispersion』をリリースした。

NAQT VANE 1st Full Album 「Dispersion」(ディスパージョン) DIGEST

 「挑戦者に追い風を吹かせるチームプロジェクト」というテーマを掲げ、一昨年より活動を始めたNAQT VANEは、ドラマや映画の劇伴のみならずアーティストへの楽曲提供など多岐にわたる活動で注目される澤野による洗練されたサウンドと、英語をネイティブのように話せる言語能力を持つHarukazeによる美麗かつエモーショナルなボーカルが魅力。そのボーダーレスな音楽性で世界を視野に活動中だ。

 今作は、映画『唄う六人の女』の主題歌として書き下ろした新曲「NIGHTINGALE」を始め、MBS系ドラマ『恋と弾丸』のエンディングテーマとなった「TOUCH」や、日本テレビ系土曜ドラマ『Dr.チョコレート』の挿入歌「Odd One Out」など、数多くのタイアップ作品を含む計16曲が収録。これまでに築き上げたNAQT VANEのサウンドを凝縮した“名刺代わり”の一枚となっている。

 1stアルバムが完成したことで「やっとスタートラインに立てた」とも話すふたりに、プロジェクト結成の経緯をはじめ、本作に込めた思いやライブで大切にしてること、そして今後の展望までじっくりと話を聞いた。(荻原梓)

「自分が今後どのように活動を広げていけるかという挑戦だと思う」(澤野)

澤野弘之

ーープロジェクト始動から約1年ほどが経ちましたが、現在のNAQT VANEはどういうモードなんでしょうか?

澤野弘之(以下、澤野):ここまでいくつかシングルやEPも出してきたなかで、ようやくフルアルバムという形で自分たちの名刺代わりとなるような「これがNAQT VANEのサウンドだ」と言えるものを作れたタイミングではあるかなと思います。ある意味でやっとスタートラインに立てたという感じですね。

ーーおふたりの出会いからは2年近くになると思いますが、お互いに印象の変化はありましたか?

澤野:印象は変わってないかもしれない。最初に会った時からHarukazeはギャルだと思っていたし、踊るのが好きなんだろうなと感じていて、そこは今も変わらないですね。とはいえ、ちゃんと真面目な部分を持っているからこそ一緒にやっていけると思っていたので声を掛けたんです。

Harukaze:最初澤野さんにお会いする前は、プロフェッショナルなのはもちろん、アーティスト写真の印象もあってクールな方なんだろうなと思っていました。でも、実際にお会いするととてもフランクに接していただいて、いつも音楽に対する真摯な思いや、自分の作りたい音に対する強い熱量を感じるので、リスペクトしています。

ーーそもそも澤野さんはSawanoHiroyuki[nZk](サワノヒロユキヌジーク/以下、ヌジーク)名義でもさまざまなボーカリストとコラボしていますが、こうしてNAQT VANEとしてチームを組んで活動していくと決めたのはなぜでしょうか?

澤野:ヌジークはひとりの固定したボーカリストではなく、スタッフとも話し合いながら毎回ゲストボーカルを迎える形で、作品によって変えていくというスタンスになっているんです。いろいろな方たちとやれる面白さはありつつも、ひとりのボーカリストをフィーチャーした形でプロデュースするプロジェクトをやりたいと思ったんですよね。ちょうどそのタイミングでNAQT VANEを始動する機会をもらえたんです。

ーー新しいことへの挑戦という意識はありましたか?

澤野:そうですね。音楽プロデューサーという形で自分が今後どういうふうに活動を広げていけるかという意味では、挑戦だと思います。

ーーNAQT VANEはトータルプロデューサーとボーカリストだけでなく、アートディレクションを手掛ける「Classic 6」も含めてひとつのチームですよね。これがいわゆる他の音楽プロジェクトとは一線を画すポイントなのかなと思います。

澤野:毎回担当者が変わるのではなく、スタートから自分たちの歩みをチームとして見てもらいながら新しい提案をしてもらえることも、すごく面白いことだと思っているんです。それはヌジークをはじめ、他の活動ではやってこなかったことなので、面白い部分かなと思いますね。

ーーHarukazeさんはこのプロジェクトに参加するまでは、ロサンゼルスの大学で音楽ビジネスを学んだり、日本のレコード会社でA&Rとして働いていたりと、どちらかと言えばアーティストを支える側の経歴を持っていますが、それが一気に表に立つ側になったわけですよね。

Harukaze:本当に人生がガラッと変わりました。もともと小さい頃から「歌を歌いたい」という気持ちはあったんですけど、高校生くらいの頃に一度諦めてしまいました。それでも音楽に携わっていたいという気持ちはあったので、音楽ビジネスを学んで、そこからレコード会社でA&Rとして働いて、そうしたらある日突然メールが来て……というドラマのようなことになって(笑)。そこで自分が迷っていた時に、NAQT VANEは「挑戦者に追い風を吹かせるチームプロジェクト」だというお話だったので、それなら私自身も「人生一度しかないからやってみよう!」と思えたんです。

ーー実際に活動を始めて生活は変わりましたか?

Harukaze:A&Rとしてアーティストについている時期もあったので、生活としては似ている部分もあるんですけど、やっぱり私がボーカルを担当するとなると、NAQT VANEで伝えたいメッセージは私の歌で伝えなきゃいけない。そう思うと自分の生き方や考え方まで少しずつ変わってきた感じがします。コロナ禍もありましたし、何かしたくてもできない期間が続いていたじゃないですか。だから、今までは諦めていたけど、あらためて今になって挑戦してみたいという思いが芽生えた人が世のなかにも増えている気がしていて。そういう人たちに、私自身が挑戦する姿を見せることでその思いを鼓舞できるようなプロジェクトにしたいなと思っているんです。

ーーたしかに、NAQT VANEの音楽は聴いていると広い世界に飛び立ちたくなるような気分にさせてくれます。

Harukaze:ありがとうございます。そう感じてもらえると嬉しいです。

Harukaze

ーー1月10日にリリースされる1stアルバムについても伺えればと思います。まず『Dispersion』というタイトルに込めた思いを教えてください。

Harukaze:『Dispersion』(ディスパージョン)という言葉はジュエリー業界で使われる用語で。宝石の輝きは取り込む光の屈折や反射によって変わるんですけど、そのなかでもダイヤモンドの輝きを発生させる効果が3つあって、そのうちのひとつをディスパージョンと呼びます。特にダイヤモンドは、ディスパージョンのバランスがすごくいいから美しく輝くんです。

ーーなるほど。

Harukaze:光は色(波長)によって屈折率が異なるんですけど、その屈折率が違うからこそ宝石の輝きがあります。そこから、私たち一人ひとりが違うことによって、集まった時に大きな輝きになる――「みんな違うからこそひとつの宝石が輝くんだ」という意味を込めました。

ーー多様な生き方を肯定してあげよう、と。

Harukaze:そうです。NAQT VANEの音楽を聴いている人たちも一人ひとりに違う生き方があっていいし、私たちもそれぞれ違うからこそいいプロジェクトになっていると思っています。

ーーHarukazeさんは実際に自分の個性や人との違いに悩んだりした経験はありますか?

Harukaze:私は結構模索してきたかもしれないです。小さい頃から周りに馴染めないような部分があったんですけど、海外に留学したことで「いろいろな人間がいてもいいんだ」とプラス思考になれたんです。そこで自分を見つけられたと思います。

ーー海外に行った経験が大きかったわけですね。

Harukaze:それこそディスパージョンというか、海外には自分の色を臆せず出している人が多くて、「私はこうだけど何か?」というようなスタンスの人が多いんです。逆に日本だと、みんなと違うことを怖がる風潮が強い印象があります。それは海外に行ったことで気づけました。

ーーまさにそうしたテーマを歌っているのが、2曲目の「NOWVERSE」ですよね。〈他人(ひと)と違うベクトルは感度良好〉という冒頭のフレーズが印象的です。この曲はどんなことを表現されましたか?

澤野:サウンドの部分は昨今の音楽から影響を受けた部分もありましたし、海外の音楽で自分的にカッコいいなと思ったもののエッセンスも取り入れながら作りました。今年行ったNAQT VANEのグリーティングイベントでお客さんと同じ空間を共有できることの楽しさをあらためて感じたので、スピーディーに感じられるようなリズム感で、お客さんとHarukazeとノリノリで楽しめる曲になったらいいなと思って作ったところはあります。

ーー歌うのが気持ちよさそうな曲です。

Harukaze:すごく気持ちいいです。この曲はサーカスで綱から綱に飛び移る気分で歌いました。もちろん〈他人(ひと)と違うベクトルは感度良好〉というメッセージはしっかりと頭で考えつつ、自分はシルク・ドゥ・ソレイユのような気持ちで歌っています(笑)。

澤野:空中ブランコ(笑)?

Harukaze:そう、空中ブランコです(笑)! デモを聴いた時からそのイメージが強くて、〈Dive into the ZONE〉の〈ZONE〉のところで相手のほうに飛び込むイメージで歌っているんです。

ーーHarukazeさんがそうやって感覚的に捉えているのは興味深いですね。さまざまなボーカリストとコラボしてきた澤野さんから見て、Harukazeさんのボーカルにはどんな魅力を感じていますか?

澤野:もちろん、もともと持っている歌声が彼女に惹かれる部分ではあったんですけど、英詞をクールに表現できるところはやっぱり魅力的ですよね。僕自身、日本語の歌詞をしっかり届けるというよりも、ボーカルをリズムの一部やサウンドの一部として捉えているので、いかに歌でかっこよく楽曲を表現できるかが重要だと考えています。そういう意味では、海外経験のある彼女が洋楽などを聴いて歌ってきた流れで、日本語詞にもHarukazeなりのアプローチで楽曲のグルーヴを上げてくれていると思いますね。今ある楽曲に限らず、ダンスミュージックもバラードも、今後もいろんなジャンルの曲に挑戦していけるような柔軟なボーカリストだという期待も感じていますし。

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