倉木麻衣、サブスク解禁を機に聴きたい10曲 平成~令和と駆け抜ける“歌姫”の軌跡
ファンキーなリズムとブルージーなギターが特徴の「Stand Up」(2001年)。同曲以降、倉木に多数楽曲を制作している徳永暁人(doa)による初提供曲で、『爽健美茶』のCMソングとして耳にしたリスナーも多いのではないだろうか。それまでリズムマシンやシンセサイザーを基軸にしていた倉木にとって、ギターをフィーチャーしたサウンドは新鮮。デビュー以降、アップテンポの曲はあったものの〈Stand Up〉と勢いよく弾ける明確な応援ソングは、2003年リリースの代表曲「Feel fine!」などへと続く、倉木の陽気なカラーを作ったとも言える。ボーカルでは、グルーヴ感の強い中低音~中高音でノリを重視しトーンも短めに切り上げている。発音がきれいな倉木にしては、ラフに流して発音しているところもいい。
2005年リリースの『FUSE OF LOVE』以降はR&B要素がやや薄まり、よりJ-POP路線へとシフトチェンジしながらも2008年リリースの7thアルバム『ONE LIFE』では作家陣に多くの海外クリエイターが参加して原点回帰。同作収録の「One Life」はデビュー初期のR&BサウンドのDNAをはっきりと感じられ、ニュージャックスウィングを取り入れた横ノリが気持ちいい。ボーカルはしなやかな強さが備わっており、シンガーとしての進化を感じさせる。
デビュー10周年のタイミングでリリースされた8thアルバム表題曲の「touch Me!」(2009年)。原点回帰的なアルバム『ONE LIFE』を経てリリースされた『touch Me!』は、R&BとJ-POPの要素をバランスよく取り入れた作品に。「touch Me!」では、〈守ってあげるなんて うわべだけの言葉は捨てて〉など、強気なフレーズも目立っており、倉木麻衣の尖った一面を浮き彫りにする。活動10年というベテランの領域に足を踏み入れたボーカルは、高音のバリエーションに加え、一音一音のニュアンスを変えるなど見事なボーカルコントロールを魅せる。
倉木麻衣といえば、「Time aAter time ~花舞う街で~」(2003年)、「渡月橋 ~君 想ふ~」(2017年)、「花言葉」(2018年)など、和テイストの楽曲も持ち味の一つ。2013年リリースの『TRY AGAIN』のカップリング曲「さくら さくら……」は、倉木麻衣×和メロディの隠れた名曲。大野愛果作曲による感動的なピアノバラードで、倉木の繊細な歌声を楽しめる。桜=春、出会いと別れの季節の物悲しさがノスタルジックに描かれながらも、どこか聴き手の背中を押すような、儚さと強さを両立したボーカルは必聴だ。
ダイナミックなホーンアレンジが光るファンクナンバー「UNBREAKABLE」(2021年)では、フェイク、フレーズ毎の母音のしゃくり、伸びやかなロングトーン(シャウトでも綺麗なロングトーンになるところは倉木麻衣ならではだろう)、抜群のリズム感が倉木麻衣の武器のひとつであることがわかるアップチューン。どことなくK-POPの空気を孕んだサウンド感は、倉木麻衣の新境地のようにも映る。
最後は番外編的に、TVアニメ『名探偵コナン』の主題歌を務める最新曲「Unraveling Love ~少しの勇気~」(2023年)に触れたい。作曲は緑仙や獅子神レオナなどのVTuberに楽曲提供を行い、自身もVTuverとして音楽活動を行うNoiRが担当。これまでの作家陣と比べても異色な組み合わせと言えるだろう。流麗なシンセサイザーと四つ打ちのダンスビートが強調されたアップテンポナンバーで、譜割も細かく、リズムを刻むようなボーカルでありながら、母音の抜きや強弱、声音を変えながら1曲をドラマティックに持っていくボーカルアプローチがお見事。中低音でも高音でも、ほぼ一定した発声法で歌い通しているところも注目ポイントだ。また、バーチャルアーティストのような新しい存在とも手を取り、新しい側面を見出していくのが25周年を迎える倉木麻衣の度量の大きさ。今回のサブスク配信も新しい挑戦と言えるが、2024年以降は音楽的にもより一層開いたものになっていくことを予感させる。
歴代の楽曲を改めて聴き直してみて、彼女のボーカルは高音やファルセットが印象に残る曲が多いが、彼女の持ち味は低音から高音に移行するときのシームレスな安定感にあると筆者は発見した。配信曲は全体で439曲と、倉木麻衣の歴史の長さを物語っている。長年のファンは聴き直した時に改めて発見があり、初めて触れるリスナーは新鮮に楽曲を楽しめるのではないか。『名探偵コナン』関連の代表曲はもちろん、さらにディープな倉木麻衣の沼に多くの人にハマってもらいつつ、自分にとっての名曲を探す宝探しのような気分を味わってほしい。
■倉木麻衣 全曲サブスク配信
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■公式サイト
https://www.mai-kuraki.com/