『ソニック』シリーズが音楽面で起こし続ける“革新” 中村正人や瀬上純らクリエイターの功績

『ソニック』シリーズ音楽の“革新性”

生粋のロッカー 瀬上純が『ソニック』に与えた影響

 ふたつ目は、瀬上純氏がメインコンポーザーを担当した『ソニックアドベンチャー』(1998年)だ。

 瀬上氏は青春をバンドに捧げ、学生時代には原宿のホコ天(歩行者天国)でもプレイしている生粋のロッカーだ。そんな彼がこのときゲーム音楽に持ち込んだのも、やはりロックだった。そしてジョニー・ジョエリを迎えて制作された「OPEN YOUR HEART」は『ソニックアドベンチャー』のメインテーマに据えられ、明らかにリスニングミュージックとしての機能を持った「ゲーム音楽」が爆誕した。なお、この楽曲が高く評価されたことにより、のちに瀬上氏とジョエリの2人はハードロックバンド「Crush 40」を結成する。

 また、『ソニックアドベンチャー2』(2001年)にもロックのテイストは引き継がれ、ファーストステージのCITY ESCAPEのBGMとして「Escape From The City」が採用された。個人的な話をさせてもらうと、筆者にとって本作がリアルタイムでプレイした最初の『ソニック』なので、強烈な原体験として今も残っている。これ以前から多くのゲーム音楽に愛着を持っていたが、この楽曲に関しては完全に「曲」として聴いていた。瀬上氏曰く、同曲は欧米のファンからの支持も強い楽曲で、今秋よりスタートした『SONIC SYMPHONY WORLD TOUR』の公演においても、会場内が特に盛り上がるハイライトの曲になっているという。

 以降、「ソニック」シリーズの音楽はもはや自在となり、さまざまなジャンルのサウンドが鳴り響いている。関わったアーティストも破格で、たとえば2006年発売の『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』ではロックバンドZebraheadがメインテーマの「His World」を演奏している。また、2008年リリースの『ソニックワールドアドベンチャー』の「Endless Possibility」ではBOWLING FOR SOUPのジャレット・レディックを起用。さらに2010年の『ソニック カラーズ』では、まだ完全にEDMに移行する前のCash Cashがオープニングテーマ「Reach For The Stars」とエンディングの「Speak With Your Heart」を歌唱している。そのほか、『ソニックフォース』(2017年)メインテーマ「Fist Bump」にはHoobastank ダグラス・ロブが、『ソニックフロンティア』(2022年)の「Undefeatable」にはSleeping with Sirensのケリン・クインがボーカルで参加するなど、グローバルアーティストを楽曲に起用するという取り組みは脈々と続いている。

 『ソニックスーパースターズ』の音楽制作においては、『ソニックマニア』が重要な意味を持つと瀬上氏は語る。

「『クラシックソニック』のタイトルとしては、2017年にリリースされた『ソニックマニア』もまた、重要な意味を持ちます。その音楽を担当しティー・ロペスがシリーズへと持ち込んだものが、ある種、2Dスクロールのクラシックタイトルの正当進化版としてのスタンダードとも言えるかと思います。そこで、『ソニックオリジンズ』に含まれているアニメーション向けの楽曲については、私が作曲したものを彼と組んで一緒に仕上げた経緯がありました。その流れは最新作となる『ソニックスーパースターズ』にも持ち込んでおり、オープニングアニメーション楽曲、タイトル曲、そして最初のステージとなる『Bridge Island Zone Act1』の楽曲などは、私が作曲したものをTee Lopesの手によって仕上げたものとなります」

 同氏が『ソニック』シリーズに初めて関わったのは、1993年に開発を行なった『ソニック・ザ・ヘッジホッグ3』。そのタイトルにおける楽曲は、多数のコンポーザーが関わることによって、バラエティ感を打ち出していたという。今回の『ソニックスーパースターズ』においても、多くの社内外のコンポーザーがチームとなって関わり、同様のバラエティ感を演出している。

 また、『ソニック』シリーズの音楽制作に関わる大谷智哉氏は、リアルサウンドが2022年に行ったインタビューで次のように語っている。

「『ソニック』の音楽はいわゆるBGMでありながら、裏方に徹しない、むしろ前面に出ていくようなキャッチーさや音楽的な主張が魅力だと思っています。また、セガのサウンドチームは僕が入った1990年代の末ごろから、いわゆるゲーム音楽的な枠組みを超えた表現を求めて取り組んでいた土壌があったので、僕はその方向性をさらに推し進めてやってきたつもりです。」(※3)

 翻って、瀬上純氏の話に戻る。彼は現在、セガのシニアサウンドプロデューサーとしてスマートフォン向けゲーム『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』(2020年9月~)にも携わり、あまたの若手アーティストと関わっている。そんな彼が2023年においてメインコンポーザーを担ったのが、他ならぬ『ソニックスーパースターズ』なのだ。やはり、本作の音楽は単なるノスタルジーにとどまっていないように思われる。

 たとえば、アダム・ベイヤーがレーベル〈Drumcode〉を通じて表現しているのは今も昔も「テクノ」だが、90年代と今では内容がまるで違う。一見同じようなパッケージでも、踏み込んでみると全く別物と分かる場合がある。それとほとんど同種のことが、『ソニックスーパースターズ』にも言えるのではないか。

 メガドライブ風はあくまで「風(ふう)」であって、実際の音の解像度も異なれば、その解釈も変わってくる。それこそが面白さであり、『ソニック』の途方もないスケールを感じられるポイントだ。

 同氏は「メガドライブ時代の『ソニック』関連楽曲は尺が短く、それが効果的に機能していた」と振り返る。「本作においても、あえて音源や音数などメガドライブ風味を強く打ち出したテイストの楽曲をボス戦やシステム系の楽曲などに散りばめることで、意図的に『クラシックソニック』たる懐かしさの部分も織り込んでいます」と教えてくれた。

 30年間、激変するハードウェアに試行錯誤し、音楽の荒波を乗りこなしてきた猛者の風格がそこにある。

※1、2 https://www.gizmodo.jp/2021/11/nakamuramasato-sonic-1.html
※3 https://realsound.jp/tech/2022/12/post-1219293.html

■リリース情報
商品名:『ソニックスーパースターズ』
対応機種:PlayStation®5 / PlayStation®4 / Nintendo Switch™ / Xbox Series X|S/Xbox One/PC(Steam/Epic Games Store)
Xbox Series X|S、Xbox One、PC(Steam/Epic Games Store) はデジタル版の販売のみ
対応言語:字幕:日本語、英語、韓国語、中国語(繁体字、簡体字)、ポルトガル語(ブラジル)、フランス語、イタリア語、ドイツ語、スペイン語(スペイン)、ロシア語、ポーランド語、タイ語
発売日:発売中(2023年10月17日(火)発売)
希望小売価格:パッケージ版・デジタル版:5,990円(税込6,589円)
デジタルデラックス版:6,990円(税込7,689円)
ジャンル:ハイスピードアクションプレイ
人数:1~4人
発売・販売:株式会社セガ
CERO表記:A区分(全年齢対象)
著作権表記:©SEGA

『ソニックスーパースターズ』公式サイト
https://sonic.sega.jp/SonicSuperStars/
ソニックチャンネル
https://sonic.sega.jp/
公式Twitter ソニック・ザ・ヘッジホッグ【公式】
https://twitter.com/SonicOfficialJP

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