ノエル・ギャラガー、充実の現在地を示した4年ぶり来日ツアー Oasis楽曲には新たな輝きも

後半は怒涛のOasisパート 先人に捧げたリスペクトも

 「1990年代に戻ろう」という言葉とともに幕を開けた後半パートの主役を飾るのは、Oasisのクラシックな名曲たちだ。ここからはVJも当時の時代を彷彿とさせるレトロなものへと変わり、「あの頃」のムードが会場を包み込む。とはいえ、最初のOasis曲として披露されたのがデビュー以前の自分自身を歌うかのような「Going Nowhere」であることが示すように、そこにあるのはそうした楽曲をファンサービスとしてではなく、ソロキャリアと地続きのものとして楽曲のエネルギーをさらに引き出そうとする今のノエルの凄みだ。特に、後期Oasisの名曲である「The Importance Of Being Idle」では、バンドが一体となって奏でるあまりにも強靭かつソリッドなサウンドに、「こんな曲だったのか」と度肝を抜かれてしまう。

 バンドが一体となって打ち鳴らす力強いサウンドはもちろん、もう一つの大きな魅力となっているのが、そのしっかりとした土台があるからこそ実現できるのであろう、開放的でリラックスしたムードだ。大合唱が巻き起こった「The Masterplan」や手拍子もバッチリ決まった「Half The World Away」ではそうした魅力が存分に発揮され、最高にポジティブなエネルギーが会場を包み込む。観客の凄まじい大合唱とともに本編を見事に締め括った「Little by Little」の大団円は、そのあまりにも普遍的な名曲としての輝きと、今のノエルの絶好調ぶりを同時に証明していた。また、これは余談だが、Oasisというバンドはどうしても初期の名曲で語られる印象が強いが、この日のライブのハイライトを飾っていたのは間違いなくライブ映えの著しい後期の楽曲であり、それはバンドのキャリアの充実ぶりを改めて示していたようにも感じられた。

 会場中から「兄貴!」などの熱烈なコールが鳴り止まない中で、やはりゆるやかにステージへと戻ってきたバンドがアンコールの1曲目に選んだのは、意外にもボブ・ディラン「Quinn the Eskimo (The Mighty Quinn)」のカバー。だが、そのアレンジはフォークロックの原曲よりも遥かに軽快かつアップリフティングになっており、バンド全体でロックを奏でるピュアな楽しさと、原曲へのリスペクトをしっかりと感じさせる理想的な仕上がりだ。ノエルの顔も心なしか楽しげである。

 この日のOasis曲は基本的に原曲のアレンジをベースとしたものとなっていたのだが、唯一、アコースティックギターによる弾き語りを中心としたアレンジとなっていたのが「Live Forever」だ。「この曲をシェイン・マガウアン(本公演の数日前に訃報が伝えられた、The Poguesのフロントマン)に捧げる」と告げて披露された同楽曲では、ノエルがその言葉の一つひとつを噛み締めるように優しく、力強く歌い上げ、かつては根拠のない、だが確かにそこにある自信を堂々と表現していた〈We’re gonna live forever〉という言葉が、この日は美しいレクイエムとして観客の歌声とともに会場に響き渡っていた。

 Oasis時代から現在に至るまでに培ったキャリアと確かな実力、今のバンドの音楽的な充実ぶり、そしてレジェンドへの敬意を見事に示したこの日のパフォーマンスを目の当たりにして実感したのは、これまで音源のみを通して感じていた「ソロアーティストとしての素晴らしさ」が、まだまだ狭い認識でしかなかったということ。そこにあったのは、ある一人のロックミュージシャンが築き上げた壮大な歴史であり、それを決してひけらかすことなく、あくまでリラックスして鳴らしてみせる美しい生き様だった。

 かつて、何度も映像で観た「good night」という言葉とともに最後に披露された「Don't Look Back In Anger」の壮絶な大合唱は、今でも最高のロックアーティストであり続けてくれるノエル・ギャラガーに対する、観客からの感謝の想いの表れでもあるのだろう。そして、最後のコーラスで響き渡ったノエル自身の美しい歌声(そして今でもこの曲を最後に選んでくれる優しさ)は、そんな私たちに対する、彼なりの返事なのかもしれない。

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