(夜と)SAMPOがメジャーデビュー 元ハンブレ 吉野エクスプロージョン、会社員とバンド兼業の生き方

今までやってきたことが自己肯定ではなく、否定だと気がついてできた「変身」

(夜と)SAMPO - 「変身」official music video

ーー最新シングル「変身」についても伺いたいのですが、本作は先ほどのバンド内で話し合いを重ねていた期間に作られた曲ですよね。

吉野:そうです。ただ今回は作り方を変えました。今までは僕がデモを完成に近い形を作って、それに対して「楽器を入れてほしい」とお願いをしていました。でも先ほどのメンバーとの話し合いの中で、今までの楽曲だと人にやらされている感じがライブに出てしまっているのではないか。みんなで曲を作ったほうが良いライブになるのでは、という結論になりました。そういうこともあって、この曲では完成したデモを一度解体して、歌詞やメロディをメンバー全員で議論を重ねてから、再度作り直す作業をしたんです。

 例えばいくみちゃんは楽曲のストーリーや情景を色でイメージするのが得意で。僕がこの曲の主人公のイメージを語ると「色的にはグレーかな」「サビだと開ける感じだけど完全に明るくない。かすんだグレーの感じ」とかイメージを共有し、そこに加藤秋人(Ba)のアドバイスを入れながら、制作をしました。他のメンバーもそれぞれがフレーズを考えたりして、時間をかけて作りましたね。あと今回Hayato Yamamotoさんにアレンジをお願いしました。初めての試みでしたが、「キメの部分が少ない」とか自分が今まで気がつかなかったクセや、「こうしたらよりポップに聞こえるな」という発見があって勉強になりました。

ーー「はだかの世界」で「生きていればいい」という全肯定を描いていましたよね。それは以前インタビュー(※1)をした際に「ある日サウナで突然、そういう境地に達した」というエピソードを披露されていたじゃないですか。でもこの曲では何者にもなれない人間が社会と理想で悩み、それを後押しするといった内容です。「はだかの世界」以降の吉野さんのメンタリティなら、葛藤の部分は描かないと思ったのですが、あえて描いたのってなぜですか?

吉野:実は自分でもなぜこの曲を書いたのかがわかってはいないんです。だから正直、自分でも、これが答えといった明確な回答はないのですが、人間って、わかった気になる生き物ということを書いたのかなと思います。今までの僕はこうでなければいけないと自分に言い聞かせていたと感じていて。だけど本来の自己肯定って、変われない自分すらも受け入れるってことなんじゃないかと。でも僕らの今までの曲って、過去の自分を認めていなかった。「生きていればいいんだ」という風に、一見すると肯定しているようなメッセージを発信していたつもりが、結果、今の自分を否定して「気ままな自分になろうよ」というようなことを言っていた気がするんです。そういう意味では、自己否定を繰り返していたとも言えます。

ーー「変われない自分」をも認めてこそ、真の自己肯定になる。その話を聞くと代表曲である「革命前夜」も、今までと違った風に聴こえますね。

吉野:「革命前夜」も、今でこそ思えば肯定的な曲というかは「もがいている」曲だと思います。周りを否定することで、自分を肯定する。現状を受け容れたくない!という曲ですからね。

ーー歌い出しが〈あの人になりたくないな〉と、他者否定から始まりますからね。

吉野:ただ過去の自分を否定する気はないし、この曲を書いた時は「そういう自分になりたかったんかな」と今は感じています。曲も良いものだと思っていますし。

ーーそういう自己否定で進んできた今までの姿が〈ワタシの生き方では収まりが悪くてはみ出してしまう〉、〈ゆれるプライド うつむいては言葉に詰まる〉という言葉に出てきているように感じます。そしてサビで〈言葉はいらない 僕ら間違えにいこう〉と未来に対して希望を託し、ポジティブへと着地する。

吉野:これはさっきの発言と矛盾していますが、実はちょっとだけ他者を意識して書いた部分はあります。20代後半にこの曲の主人公みたいな人を数多く見てきたんです。そういう人たちに対して、この曲は効く薬なんじゃないかなと思っています。

メジャーに行こうとした理由とは?

ーーこのニューシングル「変身」がメジャーデビュー曲になるのですが、メジャーに行こうと考えた理由は?

吉野:大変おこがましいのですが、「会社員をやりながら音楽活動をすること」という条件を受け入れていただいたから、デビューすることにしました。こういった条件をそもそも受け入れてくれること自体が稀有だと思うし、感謝しています。そんなスタンスなので、メジャーへ行っても(夜と)SAMPOが劇的に何か変わったこともないですし、知り合いに「一応、音楽やってて、メジャーでやらせていただいてます」ってちょっと自慢できるくらいなのかなと思います(笑)。

 でも……。やっぱり心のどこかに、「メジャーデビュー」したいっていう憧れの気持ちはあったのかもしれません。人って、選ばなかった人生を考えたりするじゃないですか。ないものねだりで。音楽でもちゃんと認められたいし、「自分のペースで」と言いつつもどこかにそんな認めてほしい欲だったり、黒い気持ちの部分はあったんだと思います。

ーーなるほど、ちなみに音楽活動が忙しくなれば、会社を辞めようとは考えていますか?

吉野:正直、全然まだわからないです。バンドだけでなく楽曲提供などを行って、生計が立てられる段階になれば、その時にはじめて色々な選択肢を考えてもいいのかもとは思いますけど。ただこれは僕、個人としての話です。(夜と)SAMPOのメンバーにはそれぞれの人生がありますからね。

ーー仮の話が続いて恐縮ですが、高校時代まで戻って、(夜と)SAMPOのように吉野さんが主導で作詞作曲もするようなバンドで活動していた場合、「仕事を捨てて、メジャーへ行きますか?」と質問されたら、どう答えます?

吉野:そうですね……。あまり考えたことがなかったな……。

ーー僕はインタビューをしているうちに、吉野さんは自分の作った音楽を評価されたい意識が強い方だと感じました。だから最初から自分のバンドを作った場合、二足の草鞋を履くスタイルはなかったのかなと思って。

吉野:人間の欲望をよくわかっていますね……。でも、反射的に出た答えは「そんなことはない」だったんです。でもそれは今だからそう言えているのかもしれない。サポートになった時は仕事と音楽との両立が、自分の中に美学として存在していたからそちらを選んだので。

ーー最後の質問です。メジャーデビューをして今後(夜と)SAMPOの活動をどうしていきたいとか、何か思うこととかありますか?

吉野:会社員をしながら音楽活動も行う、しかもどちらも妥協しない生き方もありだな、といろんな人に知ってもらいたいです。バンドの規模とは関係なく、そういう生き方が少しでもいいなと思ってもらえるようになればうれしいですね。

 あとはもう少し先のリリースにはなりますが、現在アルバムを作っていて。今回はコンセプチュアルに作っていて、「変身」もアルバム中でちゃんと位置づけされた作品だったりします。すごく良いものができそうなので、早くみなさんに聴かせたいです。

※1:https://antenna-mag.com/post-57406/

「変身」

■リリース情報
シングル「変身」
配信中
https://YTS.lnk.to/HNSNAY

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