Kroi 千葉大樹×Bialystocks 菊池剛 鍵盤対談 初の対バン前に理解を深める楽曲やライブへの2組のスタンス

全員でアレンジを決めるKroiのすごさ

——ちなみにお二人のキーボーディストとしてのルーツはどのあたりなんですか?

千葉:難しいですね。ジャズもフュージョンもファンクも好きですけど、キーボーディストと言われると……どうですか?

菊池:わからないですね(笑)。好きなジャズピアニストはいますけど。

千葉:確かに。僕が最初にハマったのは、セロニアス・モンクなんですよ。小学校のときなんですけど、すげえカッコいいなと思って。

菊池:ヘンな小学生ですね(笑)。

千葉:(笑)。いろんな音楽を聴いてからモンクにたどり着いたわけではないんですけどね。その前にブギウギにハマって……。

菊池:それもヘン(笑)。

千葉:ハハハ(笑)。耳コピして遊んでたんですけど、その頃にたまたまモンクを聴いて、すごく楽しい音楽だなと。茶色のアルバム(『Solo Monk』)をずっと聴いてましたね。

——子供の耳で聴いて、シンプルに「面白い!」と感じたと。

千葉:そうだと思いますね。今は誰だろう? この前、来日していたケニー・バロンとかも好きですね。

菊池:僕がジャズを聴き始めたのは10代の終わりくらいで、最初はビル・エヴァンスとかですね。その後コンテンポラリー(ジャズ)系を聴くようになって。圧倒的に好きなのはフランク・シナトラなんですけど。

千葉:そうなんですね! 小さい頃からピアノを習ってたんですか?

菊池:最初はヤマハ音楽教室です。

千葉:まったく同じです(笑)。物心ついたときには「あれ、なんかヤマハでピアノ弾いてるぞ」って。

菊池:(笑)。作曲もやっていて、小学生の頃は不協和音ばかりの現代音楽みたいな曲を作ってましたね。

千葉:いいですね(笑)。僕は「ハムスターの冒険」という曲を作りました。

——かわいい(笑)。ジャズの素養もそうですけど、個人的にやりたいことをバンドの楽曲に落とし込むことも?

千葉:僕はあまりないかもしれないです。どっちがいいという話ではないんですけど、Kroiはその瞬間のバイブスで構成が決まっていくことが多いんですよ。衝動的というか、ライブ感のあるフレーズがかなり入ってるんですけど、僕もそこに乗っかってるんです。それをどうコントロールするか? という意識でアレンジを進めているんですよね。

菊池:なるほど。

千葉:制作としては、まず怜央が出してきたデモをもとにみんなでプリプロをするんです。その前後で僕がデータを整理するんですけど、その段階ではあまり自分の音を入れすぎないようにしていて。なぜかというと、後でギター、ベース、ドラムのフレーズがゴン! と入ってくるかもしれないから。もし足りなければ後からシンセを加えることもできるし、最初はフラットに作ってますね。

菊池:我々はまったく違っていて。楽曲のアレンジも、ほぼ僕が考えていて。

千葉:めっちゃ大変ですね。進むも戻るも自分次第ってことじゃないですか。

菊池:はい。Bialystocksは最初4人組でしたし、バンドで作る大変さもわかるんです。成功しているバンドって、「すごい人が1人いる」というパターンが多いじゃないですか。Kroiが全員でアレンジを決めているというのは、すごいことですよね。

千葉:怜央が「ワンマン(のバンド)にしたくない」というタイプなんですよ。

菊池:そうなんですね。一人で決めるのか、奇跡的にメンバーが揃うのか。そのどちらかなのかも。

千葉:奇跡なのかな(笑)。たぶんですけど「このバンドでできるだけ長く音楽をやりたい」というのがみんなの根底にあるんですよね。その根底を覆すようなことはしたくないというか。なのでめちゃくちゃ揉めたり、ケンカすることはまずないんですよ。逆に言うと、その共通認識があるからリラックスして制作できるのかなと。

菊池:音楽と同じぐらい、メンバーの関係が大事なんですね。

千葉:そうですね。「こっちのほうがいい」というアイデアがあっても、空気が悪くなりそうだったら変えないので。他のやり方で良くすることを考えますね。

菊池:そうなんですね。我々は最初、“その場限り”という感じではじまったんですよ。

——甫木元さんが監督した映画『はるねこ』の“生演奏上映”が結成のきっかけですからね。

菊池:はい。なのでバンドというより、1回1回、この2人のプロジェクトが続いているという感じもあって。

千葉:なるほど。Bialystocksの曲を聴いてると、「ポップスだけをやっている人には絶対にない音選びだな」と思うことがあって。たとえば曲の最後のコーラスがメジャー13thの音階になってたり、「え、この音なんだ?」みたいな驚きがあるんですよ。菊池さんの音楽的な教養みたいなものが垣間見えるし、音楽をやっている人間としても「めっちゃいいな」と思いますね。

KroiとBialystocksが向き合ってきた“日本語の歌詞”での音作り

——Kroi、Bialystocksの新曲についても聞かせてください。まずKroiは1stシングル『Hyper』をリリース。表題曲は、TVアニメ『アンダーニンジャ』(TBS系)オープニングテーマです。

千葉:オファーをいただいてから作り始めたので、全員が(アニメ『アンダーニンジャ』を)念頭に置いたうえで制作してましたね。アニメの内容を踏まえているので、ある程度正解があるし、逆にやりやすいんですよ。ただそのことだけを意識しすぎると、Kroi節というか、我々が大事にしている音が少なくなってしまうことがあって。せっかくいろんな人に聴いてもらえる機会なので、Kroi本来の良さがしっかり感じられるアレンジになるように気をつけました。

——「Hyper」にもKroiらしいミクスチャーサウンドがしっかり出てますよね。

千葉:そうですね。あと、今回の曲は音を詰め込みすぎないようにしていて。これは僕のイメージなんですけど、音を詰めれば詰めるほど商業的な音楽になるような気がするんですよ。「Hyper」は5人の音と管楽器で構成されていて、シンセもほぼ入れてなくて。かなり生々しいサウンドになっていると思います。ライブでやるのも楽しみですね。対バンツアーでも中心に立つ曲になると思うし、それを想定してリハをやっているので。

#Kroi - Hyper [Official Video] #アンダーニンジャ #UNDERNINJA

——そしてBialystocksの新曲「幸せのまわり道」はドラマ『きのう何食べた? season2』(テレビ東京)エンディングテーマ。何気ない日常の幸せをテーマした楽曲ですが、作詞・作曲は甫木元さんですね。

菊池:デモ音源が届いたときに、「聴いたことがあるようなメロディだな」と思ったんですよね。すでに存在しているかもしれないと思って、アメリカやアイルランドの民謡なんかをひたすら聴きまくって。

千葉:すごい(笑)。

菊池:でも、そのおかげでこのメロディのルーツみたいなものも判断できて。1920年代くらいの音楽が40年代に懐メロとして録音されている作品の雰囲気に近いんですよね。自分もその時代の音楽が好きなんですけど、さすがに突然そのままやるのは意味がわからないので、ルーツを大事にしつつ今のインディ感みたいなものを出せたらなと。

——甫木元さんのメロディにいったん英語の仮歌詞を当てて、そのデモをもとにアレンジを作ったそうですね。

菊池:はい。英語にすることでアレンジも変わってくるので。

千葉:怜央もデモの段階では“内田語”というか、デタラメの英語っぽい言葉で仮歌を入れてるんですよ。それをもとにアレンジしてレコーディングも進めていくので、日本語の歌詞を乗せるのがけっこう大変で。フロウというか、英語っぽいノリを崩さないように日本語に置き換えないといけないし、母音の当て方とかもいろいろ試していると思います。

菊池:まったく同じですね。それはたぶん、洋楽っぽいサウンドが好きなすべてのミュージシャンが苦労しているところなのかなと。(日本語の歌詞で)曲を作ってると「こうしてJ-POPサウンドが出来上がっていくんだな」というのがすごくわかるんですよ。

千葉:すべて日本語のせいだ(笑)。でも、マジでそうだと思います。

菊池:日本語の歌詞に合わせる形で音を選んでいくと、どんどんJ-POP寄りになっていくので。大御所のアーティストの曲を聴いていても、キャリアを重ねるにつれてだんだんJ-POPになっていく印象があるんですよね。若い頃は流行りの洋楽を取り入れていても、「日本語の良さを活かそう」と吹っ切れるタイミングがあるというか。

千葉:難しいですよね、そこは。日本語で洋楽っぽさを追求することで生まれる良さもあるだろうし、海外の人にとっては日本語のグルーヴが面白いかもしれないなと。

菊池:そうですね。今の時点では、日本語の良さに振り切ってしまわず、出来る限り抵抗していきたいと思ってますけど。

千葉:時代も進んできて、日本のリスナーも洋楽ナイズされている部分もあるような気がして。そういう意味では、洋楽的なサウンドのままもうちょっとやれるんじゃないかなって……淡い期待を抱いています。

Bialystocks - 幸せのまわり道【Official Audio】

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