GRAPEVINE、さらなる好奇心を楽しむロックアルバム 『Almost there』に散りばめられたユニークな仕掛けを解き明かす

「恥ずかしげもなく“LOVE”を歌おう」(田中)

ーー次が「アマテラス」。ドラムの音だけで歌い出すので引き込まれます。

田中:あれは高野さんのアイデアかな? 僕、曲を書く時っていつもAメロとサビしか作らないんですよ。基本的にはAメロから転がっていく、展開していくイメージです。同じグルーヴの中でAメロが変化して、これなんかはラップっぽくなっていった。

ーー田中さんは宗教的なモチーフをよく使いますけど、神話は初でしょうか。

田中:そうですね。こういう書き方をしたのは今回が唯一じゃないかな。今までは思ってることをフィクションに仮託して面白く作るやり方を、よくしてたんですけど。

ーー天照大神は天岩戸から出てきて世界を明るくしてくれるんですけど、このアマテラスは岩戸から出ると誰もいないんですね。

田中:そうなんですよ。この人、岩戸の中でないとアマテラスになれない人なんですよね。要するに外に出たら威張れないので、岩戸の中で威張るっていう。今の社会じゃないですか。

ーーそういう視点があるので後半のギターソロがあんなにフリーキーになったんですか。

西川:前半は田中くんがやってるんですよ。珍しいですけどね。それぐらい自由な演奏ができたらいいなと。そこはあえてあまりフレーズを決めずに弾いてるんじゃないかな。ノイズとかも入れて、面白かったですよ。ライブでもそういう演奏ができればいいかな。もっとフリーな空間があってもいいのかもしれないし、アウトロをもっと伸ばしてもいいかもしれない。

ーーライブが楽しみになりますね。7曲目「停電の夜」はシンプルでメロウな曲。田中さんには珍しいかなと思いましたが?

田中:ちょっと自分では気恥ずかしい感じなんで。シティポップっぽいというか。なので、あまりオシャレにならんようにしたいなというイメージで作ったんですけど。元は、ちょっとおかしいスタカン(The Style Council)みたいだったんですが。歌詞もシンプルな感じにしたくて。一夜のエピソードというかそういう感じで。

GRAPEVINE - 停電の夜(Official Lyric Video)

ーー8曲目「Goodbye, Annie」は、オルタナティブロックの王道的なサウンドですね。

亀井:僕が持って行った時は、こんなパターンじゃなくて普通の頭打ちのリズムで、もっとソウルっぽいイメージだったんですけど、ガラッと変わって。高野さんが参考になる曲というかリズムを提示してくれて、それを元に叩いたんですけど、元とは全然違う(笑)。これはこれで、ドカドカしたロックで面白くなったなあと。

田中:これはまさにオルタナという感じ。祭りっぽいリズムで行こうよと高野さんが言ってました。今回やっぱり高野さんがプロデューサーというのもあって、割と先回りをして「この曲はこういう風にやってみない?」みたいな参考資料とかプレイリストを用意してくれたりして。実際やってみてその通りになるわけじゃないんですけど、とっかかりの部分がすごくスムーズだったんですよ。そこはプロデューサーとしてすごく頑張ってくれた。

ーー歌詞に出てくる〈Annie Thorn〉は曲のキーワードでしょうか。

田中:『アニーはどこにいった』(原題:『The Taking of Annie Thorne』)という本を少し前に読んだんですけど。アニーソーン……使えるなあと思ったんですよ(笑)。それを     言うとネタバレになってしまうという話なんですけど。

亀井:(田中)らしさ全開やなという感じ。曲もノリのいい感じで面白くなったんで、いいと思います。最初、パーカッションを入れようというので、曲を流しながらみんなでランダムにいろんな楽器を鳴らしてたんですよ。その時にベースの金戸(覚)さんが「ワーッ」と叫んだりしてたんですね。結局パーカッションの音は使わずに、その叫び声を逆回転にして使ったという。

ーー終盤かすかに聴こえる絶叫ですね。9曲目「The Long Bright Dark」は、ちょっとラテンを感じたりしました。

田中:これは前のアルバムのセッションの時にやったけど、手をつけずに残ってたものを、今回手をつけてみた。当初Khruangbinみたいなのを作ろうと思ったんですよ。だからちょっとエキゾチックなのかもしれない。マイナー調やし、若干ラテン感あるかな。

西川:カウベルとかが入って、ダウンビートな感じなんですよね。頭の方はウエスタンな感じもある。サビはソウルで間奏はラテンになる。なかなかすごい旅をしてますよ。このパーツはどのビートがいいんだろうかってどんどん嵌めていくんです。そういうのまとめるのは大変な作業なんですけど、今回それは高野さんがやってくれるんで、僕らは好き勝手やってましたね。うちのバンドはあんまり「これはダメなんじゃないか」というのもないですし、嵌まるものなら無理矢理でも嵌めていくから。

ーー歌詞の中に〈man’s world〉と出てくるので男性原理的なものがテーマかと。

田中:歌のイメージが多少いなたいというか、アル・グリーンだったりカーティス・メイフィールドだったり、(忌野)清志郎かジェームス・ブラウンか、みたいなイメージで歌ったんですけど、歌詞の内容に関しては長渕(剛)ですね。

ーー次の「Ophelia」が女性を題材にしている優しいタッチの曲なので、この2曲で男女の対比みたいなのがあるのかなと思いました。

田中:順番に関してはたまたまで、そこを狙ったわけじゃないんです。「Ophelia」はデモテープから美しいメロの曲だったんで、「ああいいぞ」って思ってたんですけど、イントロの感じはプリプロでみんなで思いついたというか。ちょっとミニマルな繰り返しみたいな。サビがシューゲイザーみたいになるんで、それを裏切るためのAメロですかね。あの流れは、あんまり予想できないと思うんですよ。

西川:僕、コード進行してないですからね。Eしか弾いてない。その方がよく歪んでるように聴こえるんですよ。

田中:これだけ歪ませるのも久しぶりですよね。西川さんは1コードでずっとやってるけど、後ろの方で僕は僕でずっとマイブラ(My Bloody Valentine)奏法というか、ケヴィン・シールズみたいにジャズマスターでずーっとアームしてる。

ーーそうした演奏ですがタイトルは「Ophelia」という美しいものになったのは、亀井さんの綺麗な曲だからでしょうか。

田中:そうですね。マイナー調で美しいメロなんで、どうしても破滅的なイメージがありまして。しかもサビで轟音になりますし。そこからの連想で、ああいう悲劇が思い浮かびました。それ以前にミレーの「Ophelia」の絵の方がイメージとしてあって。水に浮かんでるやつ。

ーーこの2曲に続き最後が「SEX」。ジェンダーの対比から、性の多様性を反映した曲へという流れでしょうか。

田中:曲調をメインに曲順は決めてることが多いんですけど、こう聴くと歌詞もちゃんと繋がってる。うまくいってるなあ。これは、多様性のことを歌うつもりなんかなかったんですよ。本当に普通に、恥ずかしげもなく“LOVE”を歌おうと。サビなんかまさにそうですけど、感情的なものを普通に書こうと思ったんです。そうすると現代的なものも絡んできてしまった(笑)。つい絡めてしまったというか。

ーー愛とは何ぞや、と思っていると、こういうところに行き着く。この曲のおかげで〈LGBTQQIAAPPO2S〉というワードを覚えられそうです。

田中:これ、僕も書いていて初めて知ったんですよ。今はもっとあるらしいですけど、そもそもこうやって分けてること自体ナンセンスなのかもと思う。本当に人それぞれだと思うんですよね。「愛とは何ぞや」という感じでしょうけど、そういう気持ちを書きたかったということが伝われば、あとは聴き手が各々考えて、各々が感じてくれればいいことでもあるし。

ーー非常に大きなテーマを投げかけて『Almost there』は終わるんですね。2年4カ月ぶりにリリースされる新作を完成させての手応えはいかがでしょう?

田中:かなり手応えを感じております。高野さんをプロデューサーにしたのも、今回に関してはすごくうまくいったんだろうと思いますし、面白い曲がたくさんできたので。

ーー冒頭にも言いましたが、前作『新しい果実』と対のように思えるんですが、それは意識していなかったんですか。

田中:楽曲を作る時には全く考えてないですけど、歌詞を書く際に、あの作品の後にあるものだというイメージは持っていましたね。一言では説明できないんですけど、前のがあってこその今回という意味合いにおいて、自分なりのアンサーソングというか、そこに答えていきたい。あくまで歌詞の話ですけど、そういう気持ちでしたね。僕、毎度そうなんですけど、手応えはもちろんあるけど達成感があるという感じではない。出し切った! とかそういう感じはないんですね。

ーーだから『Almost there』なんですね。

田中:そうなんです。それも含めて楽しませてもらってるなと思っています。

『Almost there』

■リリース情報
New Album『Almost there』
2023年9月27日(水)リリース

ダウンロード/ストリーミング
https://jvcmusic.lnk.to/almostthere

●初回限定盤(CD+DVD)¥5,720(税込)
https://www.jvcmusic.co.jp/-/Linkall/VIZL-2228.html
●通常盤(CD)¥3,520(税込)
https://www.jvcmusic.co.jp/-/Linkall/VICL-65875.html
●VICTOR ONLINE STORE限定セット:¥9,900(税込)
(初回限定盤+オリジナル・シリアルNo.入りTシャツ)
https://victor-store.jp/item/37991

〈CD〉
01 Ub(You bet on it)
02 雀の子
03 それは永遠
04 Ready to get started?
05 実はもう熟れ
06 アマテラス
07 停電の夜
08 Goodbye, Annie
09 The Long Bright Dark
10 Ophelia
11 SEX

〈DVD〉 ※初回限定盤のみに付属
スタジオセッションライブ映像5曲収録
01 SPF
02 Ready to get Started?
03 Goodbye, Annie
04 Ub(You bet on it)
05 それは永遠

〈オリジナル・シリアルNo.入りTシャツ〉
※VICTOR ONLINE STORE限定盤のみ付属
Tシャツ仕様 [素材:綿100%、サイズ:Lサイズ 身丈73㎝ 身幅55㎝ 肩幅50㎝ 袖丈22㎝]

■ツアー情報
『GRAPEVINE TOUR 2023』
10月6日(金)札幌ペニーレーン24
OPEN18:30/START19:00

10月8日(日)仙台 Rensa
OPEN16:15/START17:00

10月14日(土)新潟 LOTS
OPEN16:30/START17:00

10月15日(日)長野 CLUB JUNK BOX
OPEN16:30/START17:00

10月21日(土)福岡 DRUM LOGOS
OPEN17:30/START18:00

10月22日(日)広島 VANQUISH
OPEN16:30/START17:00

10月26日(木)東京 LINE CUBE SHIBUYA
OPEN17:30/START18:30

10月27日(金)名古屋 日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
OPEN17:45/START18:30

10月29日(日)岡山 CRAZYMAMA KINGDOM
OPEN16:30/START17:00

<チケット>
8月19日(土)発売
スタンディング5,500円(税込、整理番号付、ドリンク代別)
東京・名古屋公演:指定席6,000円(税込)

GRAPEVINE チケット情報
GRAPEVINE オフィシャルサイト

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