Mrs. GREEN APPLEは愛の歌で世界を照らし続ける 歩んできた道のりと未来を祝福した初のドーム公演『Atlantis』
Mrs. GREEN APPLEの初のドームライブ『Mrs. GREEN APPLE DOME LIVE 2023 “Atlantis”』。8月12日、13日の2日間、真夏のベルーナドームでは、彼らにしか作れない美しい世界が生み出された。海に消えた都市・アトランティスに因んだ水の演出や、キャストたちのダンスパフォーマンスとともに披露された楽曲の一つひとつが美しかったというのがまず一つ。そして、このバンドの目指す世界が現時点で実現し得る最も美しい形で叶えられていたというのがもう一つ。
Mrs. GREEN APPLEの結成から今年で10年。一人で曲を作っていた大森元貴(Vo/Gt)の心の音(ね)は、若井滉斗(Gt)、藤澤涼架(Key)と共に鳴らすMrs. GREEN APPLEの声となり、自由でカラフルな楽曲はやがて多くの人に愛されるようになった。最新作『ANTENNA』が徹底して愛を歌うアルバムだったように、10年間“愛することを諦めたくない”という意志を歌い続けたMrs. GREEN APPLE。日々生活を営む中でそれを手離さずにいることはとても困難なこと。しかし私たちが大事なことを忘れてしまいそうになった時、彼らの音楽は助けになってくれた。同じように、目に見えない愛を歌い続けることは、バンドにとっても細い糸をどうにか紡ぐ行為だったと想像するが、それでも彼らは歌い続けた。歌い続けたからこそ、愛された。
その結果としての3万5000人の笑顔、3万5000人の歓声、3万5000人のシンガロング。『ANTENNA』収録の新曲だけではなく、初期からある曲もポテンシャルを発揮、“ついに鳴るべき場所で鳴らされた”という感慨とともにドームに響き渡った。両手を広げながら豊かに歌い上げる大森はドームがとても似合っているし、十字型の花道の両端、遠く離れた場所からコンビネーションプレーをばっちりキメる若井、藤澤はかなり頼もしい。かと思えば、MCではいつも通り互いをいじってはふざけ、等身大の笑顔を見せる。
『Atlantis』では、頂上でバンドのロゴがきらめく、宮殿風の巨大なステージセットが設置された。古代ギリシャの哲学者・プラトンが著書で記述した島、アトランティスは未だに存在が確認されていない。おそらくミセスは、実在しないが人々が焦がれては語り継いだ伝説上の島を、忘れずにいたいと思うが保ち続けるのは困難な愛に見立てた上で、今回のライブのモチーフにしたのではないだろうか。その上で、今、ベルーナドームに広がっている景色は確かに現実のもの。大森が、自分の言う「素晴らしい景色だ」とは、「みんなが最高の笑顔で迎えてくれるから、素晴らしい景色だ」という意味だと観客に伝えていたのが印象的だった。
改めて、8月13日公演を振り返る。開演と同時に始まったのは“WELCOME to ATLANTIS”とオーディエンスを歓迎する映像。その後モールス信号の音が鳴り、1曲目の「ANTENNA」が届けられた。今回のライブは、今年7~8月に開催されたアリーナツアー『Mrs. GREEN APPLE ARENA TOUR 2023 “NOAH no HAKOBUNE”』の続編にあたる公演。ミセスとリスナーを乗せた方舟は、苦難の航海の果てに海底の帝国に辿り着いた――そんなストーリーが早速浮かび上がってきた。また、信号の送受信(「ANTENNA」)と秘密の共有(「Speaking」)によるライブの立ち上がり、そこから先の多彩な展開は、大森の抱くごく個人的な感覚を出発点とするミセスの音楽が、リスナー一人ひとりのごく個人的な感覚と出会い、結びつき、ポピュラーミュージックとしての命を得る過程を連想させるものだった。
初のドーム公演とは思えないほど堂々としたパフォーマンスを気持ちよく観ていると、大森が「それでは、水の都 Atlantisで、今日は存分に楽しんでいってください」と恭しく挨拶する。その後始まった「サママ・フェスティバル!」では、ものすごい量の水が何度も勢いよく噴出する演出があり、場内のテンションが跳ね上がった。ポップなサウンドとともに大森、若井、ショルダーキーボードに持ち替えた藤澤が花道へと走り出し、広い会場を縦横無尽に駆け巡る。以降、バンドの演奏のみならず、水を使った演出や、古代ギリシャ人に扮したキャストたちのダンスパフォーマンスでも『Atlantis』の世界が表現された。例えば、リリースから7年を経てライブ初披露、噴水とステンドグラスの演出とともにこの上なく美しい形で響かせた「umbrella」や、3人がセンターステージごとせり上がり、360°噴水に囲まれながら演奏した「フロリジナル」は、『Atlantis』を象徴する場面として観客の記憶に刻まれただろう。
広義での“恋”を歌った「青と夏」「ロマンチシズム」「フロリジナル」を経て、「BFF」から始まった中盤パートはこのバンドの自画像のようだった。ドームの真ん中、内を向きながら3人きりでの演奏。大森から若井と藤澤へ〈僕には君が居る〉、〈君には僕が居る〉と歌う「BFF」。大森のボーカルと藤澤のキーボードの二重奏から始まり、2番でバンドが合流するドラマティックなアレンジでの「僕のこと」の〈僕は僕として、いまを生きてゆく〉という宣言。あなたといれば大丈夫だと、パワフルなバンドサウンドとともに自らを鼓舞する「私は最強」。私たちリスナーと同じくMrs. GREEN APPLEもまた、怖くても一歩ずつ歩いてきた一人だという事実が胸に迫る。