幽体コミュニケーションズ、「ミュヲラ」で迎えた新たな季節 始動から4年を経て気づいた“守りたかった感情”

幽体コミュニケーションズの新たな季節

すべての物事に意味や説明、解釈を与えることに違和感があった

幽体コミュニケーションズ(撮影:梁瀬玉実)

――音源の話に移ると、まず今年2月にミニアルバム『巡礼する季語』がリリースされました。あらためて振り返ると、あの作品はご自分たちにとってどのような作品でしたか? 事前に立てたコンセプトなどはあったのでしょうか?

paya:いや、むしろコンセプトをぼかして作った、という側面のほうが強いかもしれないです。これまでもこれからもそうだと思うんですけど、僕たちはひとつのジャンルやコンセプトに根を下ろしてやっていくイメージはないし、どんな方向にでも伸びることができるように作っておきたい、という思いがあって。なので、あの作品は、ひとつの完成形として提示するものというより、ある意味、習作のようなものになればいいな、と思っていたんですよね。『巡礼する季語』という作品に、この先の作品の種が蒔かれているみたいな状態になればいいな、と。なので、これから出していく作品のなかには、「これは『巡礼する季語』でやっていたことの先に続いているものなんだな」と感じられるようなものが出てくるような気はしています。

吉居:ギターに関しても、コンセプトめいてはいないし、いろいろなバリエーションのアプローチができた作品だと思うんですよね。僕自身、ひとつのものに固執するタイプではないし、この先もいろんなアプローチに挑戦していきたい。それの足掛かりになる作品になったと思います。

――今、payaさんと吉居さんがおっしゃったような、この先、幽体コミュニケーションズの表現がいろんな方向に延びていく可能性というのは、“季節”という“変化”をイメージさせるモチーフに何かしら繋がる部分はあると思いますか?

paya:たしかに言われてみると、僕が季節を好きな理由は、春夏秋冬それぞれが引き連れているニュアンスや、それぞれから連想されるものがたくさんあるから、という部分ではあるので。どれだけ掘っても底が見えない、表現の源としての豊かさに惹かれる――自分にとって季節は、そういうものではあると思います。

――7月の終わりにリリースされた新曲「ミュヲラ」についての話も伺いたいのですが、個人的にはこの曲で歌われる〈物語〉という言葉、そこに対しての態度に、今の幽体コミュニケーションズが伝えたいものがあるのかなと思いました。どのような発端で、この曲は生まれたのでしょうか?

paya:そもそも曲のメロディ自体は2年くらい前からあったんですけど、今おっしゃったように“物語”というものは、この曲の中心的なテーマとしてありました。でも、「じゃあ自分は物語に対してどのように思うのか?」と言うと、答えはまだ全然出ていないんですけどね。でも、ずっと“物語”というものに対して、思うことはあって。

――はい。

paya:すべての物事に対して、意味や説明、解釈を与えることに違和感があったんです。ある種、“物語”はそれの最たるものだと思うんですよ。物語って、筋書を作り、その最後に向かって説明や解釈を積み上げていくものだと思うので。そういうものにずっと違和感があった。とはいえ、音楽に限らず全部の表現は意味や解釈、説明の積み重ねでもある。そこに対してのアンビバレントな気持ちがずっとあって。僕自身、物語が嫌いなわけでもないですし……とにかく「物語」という言葉や概念に対しての思いが、自分のなかにたくさんあったんですよね。

――なるほど。アンビバレントな部分も含めて。

paya:なので、この「ミュヲラ」という曲は、とりあえず“物語”というものをポンと置いてみて、そのまわりにどんな音や言葉が集まってくるのかを試してみたかったんです。

幽体コミュニケーションズ(撮影:梁瀬玉実)

――そうやって単語や概念を設定して、そこから想起される音や言葉を収集していくという曲の作り方は、payaさんにとってオーソドックスなものですか?

paya:中心的なテーマを置くことは、特殊なことではないですね。でも、「ミュヲラ」の制作に置き換えてみれば、“物語”というテーマが出てくる前に、最初の段階では“匂い”というテーマと、もうひとつ“眠り”というテーマを設定して、そもそもの曲作りは進めていたんです。でも、7割くらい作った段階で突破口が全然見えなくて。そこで最終的に出てきたテーマが“物語”だったんです。

――“匂い”や“眠り”というのは、どういったところから出てきたものだったのでしょう?

paya:“匂い”に関して言うと、今まで僕らが作ってきた作品には、視覚や聴覚、触覚みたいなものからイメージを得ているものはたくさんあったんですけど、“匂い”から着想を得ているものがほとんどなくて。それで、「“匂い”をテーマに作ってみたらどうなるんだろう?」と思ったんです。“眠り”は、これは“匂い”とは逆で、今までの僕らの作品でたくさん使われてきたモチーフなんですよ。これも『巡礼する季語』と似た考え方なんですけど、これから先、もっと“眠り”に関しての手応えを得ることはできないか、“眠り”から着想を得た作品群を作れないか、という気持ちもあって。

――payaさんは、“眠り”に惹かれるのでしょうか?

paya:今回、「ミュヲラ」を作ってわかったんですけど、やっぱり、自分のなかには“物語”に対しての違和感、抵抗や反発はたしかにあるんです。そう思うと、眠りに落ちている時間って、物語が途切れる時間でもあるような気がするんですよね。人は、日常生活や人生を「こんなことがあったな」とか「あれがあったから今の自分があるんだ」とか、自分なりに整理して、自分なりに生活や人生に意味や解釈を与えて、疑似的な物語にしている部分があると思うんです。でも、眠っている時間は、その意識が途切れる時間でもあるのかなって。だから、自分は“眠り”に惹かれるのかなと思いました。

――なるほど。いししさんと吉居さんは、この曲に対してはどのようにアプローチしましたか?

いしし:今話していたpayaさんのなかでの“物語”に対しての解釈って、制作の段階では出てきていないものだったんです。歌を録る段階で私が聞いていたモチーフは“眠りに落ちる前”だったので、そういうあやふやな時間みたいなものを音として落とし込めないかを考えていました。それで、五十音を意識させないような発音を意識してみたりしましたね。五十音が溶けているような感覚、あるいは、もはや日本語にはないような口の動かし方をしてみたり。

――吉居さんはどうですか?

吉居:僕はそこまで明確にテーマを聞かず結構好きにやらせてもらいましたね。全体的に曲を装飾するようなマインドで、ギターをつけていった覚えがあります。

『ミュヲラ』幽体コミュニケーションズ

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