2023.08.25 18:00

幽体コミュニケーションズ、「ミュヲラ」で迎えた新たな季節　始動から4年を経て気づいた“守りたかった感情”

文・取材＝天野史彬、写真＝梁瀬玉実

今いちばんないがしろにしてしまいそうな〈悲しみ〉という感情を守りたかった

――「ミュヲラ」のMVは、payaさんがディレクションされているんですよね。ビデオに関してはどのようなことを考えられていましたか？

paya：今まで自分が作ってきた映像は（素材も）自分で録ってきた映像がほとんどだったんですけど、「ミュヲラ」のMVに関しては、自分で撮影していない映像もたくさん入れたんです。眠った時に見る夢って、自分の身に覚えのない映像が差し込まれていたりしますよね。あるいは、身に覚えのない映像なのになぜか懐かしい感覚を覚えたりする。もちろん、「こんな映像知らない」という感覚だけが残る時もあるし。そういうものを表したくて、いろいろな映像を集めて作りました。

――個人的には、この曲で歌われる〈物語に汚されずに／悲しみを守れるように〉という歌詞がすごく好きです。〈物語〉という言葉に象徴される、整理されること、意味づけされること、わかりやすさ……そういったものから守るべきものとして、〈悲しみ〉という感情があるということですよね。たとえ〈悲しみ〉と呼び得るものであっても、それは守るべきものであると。

paya：実は今まで、〈悲しみ〉みたいな感情を楽曲に入れるのが怖かったんですよ。曲に入れると、自分のなかで大きくなってしまいそうな気がするから。でも、ここ最近、「本当はそういうものが大切なんじゃないか？」という気がして。なので、今言っていただいた〈物語に汚されずに／悲しみを守れるように〉という歌詞の部分は、印象的に聴こえる場面で歌いたかったんです。でも、それは僕が今までオープンにしてこなかった部分でもあるので、（一緒に歌う）いししはどう思ったか、恥ずかしさもあったんですけど（笑）。

――実際、いししさんはどう思われましたか？

いしし：この場所にこの歌詞を入れてくるということは、「言いたい気持ちが詰まっている部分なんだろうな」とは思っていました。録音に関しても、歌は全部宅録で録ったんですけど、この〈物語に汚されずに／悲しみを守れるように／僕らは栞を破り捨てた／瓦礫のような朝だ〉という部分は、payaさんのガットギターと、payaさんの歌、私の歌、それを全部一緒に、一発録りで録ったんです。そういう、録る音の純度の高さや他のパートとの音像の分離という面でも、この部分に対しての想いの強さは感じていました。

paya：他の部分のボーカルはコンデンサーマイクを使って、ノイズが入ったりしないように気をつけて録っているんですけど、この部分だけは、コンデンサーマイクとiPhoneに繋げるマイク、あとはiPhone（内蔵）のマイクの3つを使って録っていて。環境音や、iPhoneが電波を拾った時のノイズの音も、全部そのまま乗せているんです。そういう意味で、純度の高いものだし、大切なシーンな気はしますね。

――payaさんのなかで〈悲しみ〉のような感情が大切なものとして意識されるようになったのは、どういった変化がそこにあると思いますか？

paya：幽体コミュニケ―ションズを始めて4年経つんですけど、始めた当時から比べるといろいろな人に聴いてもらえるようになったし、たくさんの人と関わりを持つことができるようになって。そういう日々のなかだと、〈悲しみ〉の感情はどうしても殺されてしまいがちなんですよね。感情をなんとか抑えて、上手いことやりくりしながらじゃないと音楽も続けていけない。そういう状況のなかだからこそ、この感情をないがしろにしてしまいたくないと思ったんだと思います。もちろん、どんな感情もないがしろにはしたくないんですよ。だけど、そのなかでも、特に今このタイミングでいちばんないがしろにしてしまいそうな〈悲しみ〉という感情を守りたかった。「ミュヲラ」には、そういう部分があるのかもしれないです。

幽体コミュニケーションズ撮り下ろし写真一覧