西野カナ「トリセツ」は何がすごかったのか “平成的”な手法で生み出された究極の恋愛ソング

『みんなが聴いた平成ヒット曲』第15回 西野カナ「トリセツ」

 西野カナが8月4日、第1子の出産を発表した。突然の報告にファンからも驚きの声があがりながら、西野のX(旧Twitter)のアカウントにはハッシュタグ付きで「カナやんおめでとう」という祝福のメッセージであふれた。さらに同日にサマーソング「GO FOR IT!!」の『Live on “Love Collection Tour ~pink & mint~”』、11日には「Have a nice day」の『Live on Dome Tour 2017 “Many Thanks”』といったライブ映像からの動画がYouTubeで初公開。8月上旬、西野の話題でにぎわった。

西野カナ『GO FOR IT !!』Live on “Love Collection Tour ~pink & mint~”
西野カナ『Have a nice day』Live on Dome Tour 2017 "Many Thanks"

 そんな西野の代表曲の一つが、2015年9月9日にリリースされた「トリセツ」である。桐谷美玲主演の恋愛映画『ヒロイン失格』の主題歌にもなった同曲は、恋人に対して女性目線で「自分とはこういう人間です」とことわりをいれた内容となっており、〈爪がキレイとか/小さな変化にも気づいてあげましょう。〉〈何でも無い日のちょっとしたプレゼントが効果的です。/センスは大事。〉とアピールした上で、〈一点物につき返品交換は受け付けません。〉〈ずっと大切にしてね。/永久保証の私だから。〉と願っていた。あらためて読み直してみてもその歌詞の強烈さに驚愕させられる。

西野カナの曲を聴くとなにかを言いたくなる

 「女性の本音」と言われたその楽曲だが、一方で論争も巻き起こった。たとえばKinKi Kidsの堂本光一は2017年7月21日放送『LOVE LOVE あいしてる 16年ぶりの復活SP』(フジテレビ系)で「めんどくせえ女の歌」とズバッと切り込み、同年9月18日放送のラジオ番組『KinKi Kidsのどんなもんヤ!』(文化放送)でも「すばらしい歌詞」と称えた上で、「だけどその内容は、男からするとクッソ面倒くさい内容」と再び辛らつなコメントを残して話題となった。

 ただそれは決して楽曲を酷評していたわけではない。むしろ男性リスナーに対して、非共感性やストレスという形で「トリセツ」の世界へと没頭させていったのだ。なにより西野の楽曲の特徴は、そうやって「聴くとなにかを言いたくなる」ところ。〈会いたくて 会いたくて 震える〉の一節でおなじみ「会いたくて 会いたくて」(2010年)、とてつもなく深い友人関係について触れた「Best Friend」(2010年)など、いずれも「分かる、分かる!」「ちょっとなに言っているのか分からない」という風に、聴き手の意見がシンプルに二分されるところがすごい。

 しかも、言葉選びの絶妙さはもちろんのこと、曲の登場人物の自己中心的さだったり、大げさな展開だったり、楽曲そのものに情緒が宿っている。その究極が「トリセツ」だった。

西野カナ 『トリセツ』MV(Short Ver.)

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる