西野カナ「トリセツ」は何がすごかったのか “平成的”な手法で生み出された究極の恋愛ソング
「企画書制作」からスタートする西野カナの恋愛ソング
西野は2018年11月25日放送『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)に出演した際、歌詞制作のスタイルについて「企画書制作」からスタートすると言い、そこでテーマやコンセプトを決め、年齢や性格などキャラクター像を組み立て、さらに共感できるかどうかなどを友人らにアンケート調査するのだと明かした。
また「トリセツ」については、「いろんな人に『あなたの取扱説明書を書いてください』とお願いしました。『落ち込んだときはどういう対応をして欲しいですか?』とか、細かい質問をしていって」「『どうすれば機嫌が良くなりますか?』っていう質問も、男性も女性も変わらず、とにかく気にかけてもらえることが一番。“恋人同士のトリセツって、男も女も変わらないんだ!”というのが発見でした」(※1)と詳しく語っている。それらの手法が「ビジネスライクだ」としてこれまた賛否が分かれたが、西野自身「普通に生活をしながら、道を歩いていて歌詞が浮かぶ、みたいな方もいるかもしれないですけど、そういう脳みそは私にはないんです」(同)と作家性とは違ったところで勝負していることを素直に認めている。
筆者はむしろそういうところが、2008年から約15年という長い期間にわたってJ-POPシーンで語り継がれる楽曲を生み出せた秘訣ではないかと考えている。少しずつ変化する恋愛観だったり、それぞれの世代やジェンダーに合わせた考え方を取り上げたりして、「なぜこういう意見が大多数なのか」「どうしてこれは少人数に収まったのか」を分析することで、時代にフィットした恋愛ソングが制作できている。
西野の腕の見せどころは、それらのアンケートの声をどのようにコラージュし、楽曲化するかである。単純に意見をまとめているだけではない。そのコラージュの仕方で「西野がどう考えているのか」が見えるようになっている。その点で彼女は、編集者的、デザイナー的、もしくはドキュメンタリー作家的なミュージシャンであるようにも思える。また、いろんな既製品をくっつけたりしながら一つの物事を形作っていくという部分では、1990年代のギャル文化、2000年代の原宿ファッションにも近いところがあり、その点で西野の楽曲は非常に「平成的」であると言える。つまり、さまざまな意見、論考、記録などを収集し、そのレイアウトや並べ方次第で、聴く者、観る者の感情を誘導していくというワケだ。
ママになった西野。今後は、育児などについてリサーチした上で自分の経験もまじえた楽曲が作られるのではないだろうか。その曲はきっと、多くのママから支持されるものになるに違いない。
※1:https://www.oricon.co.jp/special/49159/
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