『FUJI ROCK FESTIVAL '23』、“復活の年”を彩った名シーンの数々 分断や喪失を乗り越えていくロックフェスとしての原点回帰

 一体感と言えば、今年はどのライブでも出演者が「一緒に歌おう!」「みんなに歌ってほしい」とシンガロングを促す場面が多く見受けられたのも印象的だった。ここ2年間の開催では、マスク着用必須の上、歓声を上げることも禁止というルールだったので、それが解禁になった解放感は大きい。とりわけ3日目、WHITE STAGEのトリを務めたWeezerでの大合唱は凄まじかった。彼らは“Weezerの歴史を振り返る旅”と称して、ロードムービー風の演出でライブを展開。「My Name is Jonas」から始まり、「Say It Ain’t So」や「Island in the Sun」「Across the Sea」「Perfect Situation」など心を掴む名曲揃いで、いずれのサビも観客の大合唱で沸きに沸いた。ちょうどこの時、友人が(WHITE STAGEから数分歩いたところにある)Gypsy Avalonにいたのだが、地鳴りのような歓喜の声がそこまで響きわたっていたそうだ。

Weezer(写真=Taio Konishi)

 そのほか印象に残ったライブはいくつもあるが、若手では3日目のRED MARQUEEに出演したYard Actが良かった。“トーキングスタイルのボーカル+ニューウェイヴなサウンド”がTalking Headsを彷彿とさせたり、痙攣するギターがTelevisionっぽくもあって、先人たちの優れた意匠が彼らの中で息づいていることを感じた。

 3日目のGREEN STAGEに登場したGEZAN with Million Wish Collectiveには度肝を抜かれた。2021年にRED MARQUEEで共演したコーラス隊 Million Wish Collectiveを率いる大人数ということもあるが、各々の超個性的な出立ちも相まってすごい迫力。太陽がギラギラ照りつける中、時空を揺らすようなエネルギッシュな音像で観客を異次元に誘っていく。この編成とシチュエーションのせいか、マヒトゥ・ザ・ピーポー(Vo/Gt)のボーカルには、いつも以上に神がかったような聖性さえ感じられた。中盤にはBRAHMANのTOSHI-LOWが飛び入りというサプライズもあり、とにかくてんこ盛りの内容だった。

(写真=宇宙大使☆スター)

 もう一つ、驚愕したアクトと言えば3日目のWHITE STAGEに出演したBlack Midi。彼らのことはポストパンクの文脈で捉えていたのだが、実際にライブを観てみると、より複雑で、プログレッシブ。メンバー各々がとんでもないテクニックの持ち主で、ファットなベースと複雑なビートが生み出すグルーヴは疾走感抜群。ギターのカッティングはかなり凶暴で、妖しいスリルに満ちている。終始、神がかったプレイの応酬なのだが、此れ見よがしな感じはなく、インプロと思しき部分も巧者ならではの余裕があって最高にカッコいい。まさにBlack Midiだけが創出できる唯一無二のアンサンブルに完全にKOされてしまったのだった。

(写真=Daiki Miura)

 また、今回改めて感じたのは、フジロックという場の特異性だ。豊かな自然に囲まれたフジロックの舞台に、元々の音楽性がハマるアーティストは数多くいるが、3日目のFIELD OF HEAVENに登場したROTH BART BARONは、特にそれを象徴するバンドの一つ。ホーンセクションを交えた7人編成で奏でられたライブは、超越的でありながらも温かく和やか。彼らが後半に披露した「極彩|I G L (S)」は、コロナによって折れそうな心情に寄り添い励ます曲で、苗場のこの場所で聴くと一層心に染み入る。三船雅也(Vo/Gt)が「10年前にこの曲を書いた時の僕は、そっち側(客席)で観てるただのガキでした。10年分の思いを込めて歌います」としみじみ語って「化け物山と合唱団」を演奏する場面も心に残った。

(写真=宇宙大使☆スター)

 三船の言葉に顕著だが、初開催から四半世紀経った今も、フジロックはアーティストにとって憧れのフェスであり、ここで演奏することに熱い思いを抱く者は多い。デイヴ・グロールは繰り返し「For FUJI !」と声を上げていたほか、SUPER BEAVERの渋谷龍太(Vo)も、さらに言えば今年フジロックに初出演した矢沢永吉でさえも口々に、この場で演奏できる喜びを感慨深げに語っていた。

矢沢永吉(写真=Taio Konishi)

 すべての音楽ファンにとって、フジロックは特別な場所だ。コロナの数年を経て、それがますます明確になったと感じた2023年の回である。

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