Lucky Kilimanjaro 熊木幸丸、「Burning Friday Night」のバズで感じた手応え ステージで追求する“心で躍る”ダンスミュージック

ラッキリのライブにMCがない理由

ーーそういった心の有り様に対応しようと考えたときに、4つ打ちだけじゃなく2ステップやガラージが出てくるのがLucky Kilimanjaroの特異性だと感じます。「初恋」とか最高でしたよ。

熊木:「初恋」、今やれば良かったですね(笑)。ドラムンベースやガラージがポップミュージックとして流通していないときに出しちゃったから、4年早かったですね。そういう意味では、バンド側からダンスミュージックへアプローチする余地ってまだまだ残されていると思うんです。2000年代の末〜2010年代にEDMがすごく盛り上がったこともあって、イメージとしてダンスミュージックが「明るい人のための音楽」になった実感があります。でも本当は、ダンスミュージックってすごく多用な心象に対応できるんですよね。Jamie XXの受け売りなんですけど、彼は「悲しいことも乗せられるのがダンスミュージックの良いところなんだ」と言っていて。僕もそう思ってるんです。パフォーマンスとしての「ダンス」ではなくて、「踊る」という行為を通して自分の気持ちを表現できたり、あるいはそれをどこかに置いておける。それによって自分を客観視できるんだと。そういった「踊ることの意義」をどう伝えていくかは、今の僕が活動を通して考えていることですね。

Lucky Kilimanjaro「初恋」Official Music Video

ーー「Burning Friday Night」がTikTokでバズっていることを考えると、Lucky Kilimanjaroが実践していることが広い範囲に伝わり始めているようにも感じます。2ステップやドラムンベースを含め、ダンスミュージックがメインストリームでも受け入れられている実感はありますか?

熊木:「Burning Friday Night」に関しては、正直まだ当事者として実感できてないですね(笑)。そういうこともあるんだな、と。でもライブでこの曲をやるとお客さんがみんな歌えるので、その状況を見たときに“これがバズか……!”とは思いました(笑)。ただ、土壌はかなりできてきた印象があります。それはもちろん僕らだけの功績ではなくて、海外含めいろいろなアーティストが試行錯誤してきた結果、Lucky Kilimanjaroもここまで来られたわけで。それを踏まえた上で、ハウスミュージックに関しては手応えとしてまだまだやれる余地があると思っています。

 それは自分の経験に即して考えても言えることで、僕も元々ロックが好きで音楽を始めていますし。そんな僕でもOvermonoやNia Archivesを好きになったので、じゃあみんなもきっと気に入ってくれるだろうと。僕はクラブシーンとバンドシーンを積極的に繋げようとは思っていないんですが、“踊る楽しさ”みたいなのはもっと純粋で普遍的なものだと感じています。……まぁでも、ドラムンベースとかジャングルとかは、まだ時間がかかりそうな気はしていますね。と言うのも、そのへんは世界的に変容が起きているジャンルに見えるんですよ。PinkPantheressがやっているドラムンベースは、よりポップに脚色されていて、Squarepusherのそれとは別物に感じます。むしろ僕もそこは気になっていますね。みんなどう踊ってるんだろう。ただ、NewJeansの曲を聴いていても、将来的にもっと面白くなりそうな気配はありますよね。

Lucky Kilimanjaro 「Burning Friday Night ~ 週休8日 ~エモめの夏 ~ 千鳥足でゆけ」from "TOUR Kimochy Season" @豊洲PIT

ーー新規のお客さんもしっかり踊れるのがLucky Kilimanjaroのライブの良さですよね。私も「ラッキリを好きになりかけている」という後輩を連れて、昨年の11月にLINE CUBE SHIBUYAに行きました。彼はMCなしのストイックさに驚いていましたよ。

熊木:2020年ぐらいから今のスタイルに落ち着いているんですよね。DJのミックスみたいにシームレスに曲を繋ぐやり方はインディーズ時代からやっていたんですけど、当時はまだMCパートもあったんです。でもある時から、「MCって冷めないか?」と思えてきてしまって(笑)。DJだったら曲を止めずに次の曲に移るじゃないですか。そういう文化を考えたときに、自然と今のライブの形になっていったんです。ステージで歌う僕は意外と疲れないんですけど、お客さんはどうなんでしょう(笑)。クラブだと2時間なんて全然踊れちゃうと思うんですが、それをバンドで表現したときのオーディエンスの疲労感はまた違ってくるのかなと。

ーーLucky Kilimanjaroの楽曲単位で考えても、クラブトラック的な構造を持つものがありますよね。「後光」にもイントロとアウトロでキックが続いていたり、DJ視点で聴くと「繋ぎ」を感じます。

熊木:最近は意識していますね。バンド内でも「インタールード」と呼んでるんですけど、まさにDJ的な繋ぎをコンセプトとしています。クラブトラック風に言うと「エクステンド」的な部分を自分たちの曲に加えることにより、お客さんに「この曲ってここから何かに繋がるんだ」と想起させたいんです。それは先ほど言った“オーディエンスの世界を広げたい”という話にも通じるかもしれません。『Kimochy Season』の楽曲では「Heat」もそんな構造を持った曲ですね。

Lucky Kilimanjaro「Heat」Official Music Video

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