「大手メディアではこのような曲、到底流せませんよ」 金平茂紀が語る、URC作品の反権威的な姿勢が日本社会に残した衝撃
最初は「げ、何じゃこれ!」でもいいと思う(笑)
ーー今回収録された17曲の中で、金平さん自身、聴き返してもっとも心を揺さぶられた曲を挙げるとするといかがでしょう?
金平:ライナーにも書かせてもらいましたが、友部正人さんの「乾杯」。これに尽きると思います。ちょっとポエトリー・リーディングにも近いのかな。シンプルなアコギ1本の伴奏に、速射砲みたいに言葉を連ねていく作り方で、ある男の心象風景が綴られていく。場所は1972年2月の新宿。人だかりができた電器屋の店頭で、主人公はひとりテレビを眺めています。画面にはあさま山荘から人質が救出される瞬間が映っていて。居合わせた人々は口々に機動隊を称えたり、犯人を罵ったりしている。そこで感じた強烈な違和感、嫌悪感みたいなものが、おそらくはこの曲の背骨になっているんですね。
ーー演奏も歌い方も淡々としている。それでいて、一刻も早くここを立ち去りたいという切迫感が滲んでいますね。
金平:僕自身もそうでした。機動隊のあさま山荘突入って、実は日本のテレビ史上で最高視聴率を記録した瞬間なんですね。ほとんど全国民が、ブラウン管の前に釘付けになっていて。そこから醸し出される空気が気持ち悪くて仕方なかった。今回、久々に友部さんの「乾杯」を聴いて、その感情がリアルに蘇ってきたんです。犯人に同情するとか反権力を気取りたいとか、そんな単純な心情とも違うと思うんですよね。もう少し微妙な何か……。勧善懲悪的で粗雑な世界観が、すべてを押し流していく恐ろしさと言いますか。
ーー〈乾杯! 取り残されたぼくたちに〉〈乾杯! 身もと引き受け人のいない ぼくの悲しみに〉というサビのフレーズと、どこか響き合う感覚でしょうか。
金平:うん。そうだと思います。ときには大所高所から世相を論じることも大切だけど、本来ジャーナリストというのは〈取り残された〉側にこそ立たなきゃいけない。耳触りのいい言葉ではとても掬い取れない、それこそ〈身もと引き受け人のいない〉感情にこそ、寄り添わなきゃいけない。そういう抜きがたい思いが、僕の中にはあります。もちろん、友部さんの嫌悪感は、マスコミにも容赦なく向けられている。
ーーたしかに〈巻き返しをねらう評論家たち/あすの朝が勝負だと/どこもかしこも電話は鳴りっぱなし〉という一節などは、各局のニュースショーをそのまま想起させますね。
金平:僕自身、そういう組織の歯車の一部だったことは否定できない事実ですよね。と同時に、自分はこの仕事をする以上、現場も知らず分かったようなことを言うコメンテーターには絶対ならないぞと。どんなに疎まれ嫌がられても当事者と向き合い、この目で確かめたことを視聴者に伝える。有識者だけでなくて、そういう取材を重ねた記者の言葉に耳を傾ける。そのスタンスは、昔も今も変わらずあります。友部さんの歌を聴くと、そんなことも思い出します。歌詞のどこにも書いてないんですけどね(笑)。ある男が眺めた街の風景、酒場の描写、ちょっとしたディテールからありありと立ち上がってくる。歌詞がそのまま、一篇の詩としても成り立っている。本当にすごい詩人だと思います。
ーーこのCDを手に取る若い世代にも、伝わってほしいですよね。
金平:うーん、どうだろう(笑)。そこは時代も状況もまったく違うので。こんなふうに自由に表現すればって言われても、若い人は困惑するだけじゃないですかね。実際、大変だと思いますよ。ネットが普及して、生活全般すごく便利になったのかもしれないけど。その反面、いろんなことがものすごく窮屈になっちゃってるでしょう。
ーーたしかに、そうですね。
金平:音楽表現もそう。デジタル技術が進化して、本当なら表現の可能性がもっともっと広がってるはずなのに、残念ながら現実は逆方向に進んでるように見える。何か言うと、ものすごいバックラッシュがきちゃうから。自由を獲得するハードルが、上がりきってしまってるんですよね。このコンピレーションCDを聴いて、70近いオッサンと同じように感じてほしいと言っても、そりゃあ無理な相談だと思います。でも、それでもやっぱり、聴けば何かが残ると思うんですね。
ーーはい。それだけの力や思いが、どの曲にも宿っている。
金平:最初は「げ、何じゃこれ!」でもいいと思うんですよ(笑)。今ではありえないほどの自由さでもいいですし、今とはまた違う日本語の豊かさ、短編小説的な面白さでもいい。戦争が世界を大きく動かしたという意味では、ウクライナ情勢に揺れる今と重なる部分もいろいろ見つかるはずです。聴いた方がそこから何かを感じてもらえれば、僕としてはすごく嬉しい。それだけでコンピレーションを出した意味は十分あると思っています。
■リリース情報
『URC銘曲集―1 戦争と平和』
発売中
<収録曲>
1. 私たちの望むものは/岡林信康
2. 腰まで泥まみれ/中川五郎
3. 日の丸/斉藤哲夫
4. 自衛隊に入ろう/高田 渡
5. 私は地の果てまで/五つの赤い風船
6. 戦争は知らない/ザ・フォーク・クルセダーズ
7. ぼくのそばにおいでよ/ザ・フォーク・クルセダーズ
8. 教訓1/加川 良
9. サルビアの花/早川義夫
10. 私が一番きれいだった時/アテンションプリーズ
11. おとぎ話を聞きたいの/五つの赤い風船
12. 乾杯/友部正人
13. イムジン河/ミューテーション・ファクトリー
14. 竹田の子守唄/赤い鳥
15. プカプカ/ザ・ディランII
16. 誰を怨めばいいのでございましょうか/三上 寛
17. がいこつの唄/岡林信康
URCレコード名盤復刻シリーズ・特設サイト
https://www.110107.com/URC